☆☆★★★

2020年公開。
原作は読んだことがありませんが、実は私が子供の頃、「テレビマガジン」という雑誌に「吠えろ、バック」というタイトルでマンガが連載されていました。当時から犬が好きだったので、この物語もよく覚えていますし、好きな作品でした。原作がある事を知ったのは大人になってからで、映画を観る前に読んでおくべきだったなぁ。
そんなわけで、原作との比較ではなく、幼少期の記憶にあるマンガとの比較での話しになります。
概ねの粗筋は一致してるけど、ところどころ違っています。個人的には、その違いが致命的な気がしました。
最初にぶっちゃけてしまいますが、犬がCGです。これが私には全然ダメでした。犬に演技させすぎ。CG自体はリアルだし、リアル故に表現力あるけど、逆それがリアリティを削いでしまってる。造形は犬っぽいけど、演技は犬っぽくない。これが最初から最後まで、すごく気になりました。エンターティメントなんだから目くじら立てなくても、と言われるかもしれませんが、犬が犬っぽくないCGってアリですか?今の映画は動物をCGで描く事が多くなりました。そりゃ人間に慣れない野生動物や、もっと言えば実在しない怪獣なんかをCGで作り上げても、観客は「すごい迫力!リアル!」と思うでしょう。それは滅多にお目にかかれない珍獣だったり、実在しない生物が画面の中に存在するから。しかし、実際に日常の中で身近にいる犬はどうでしょうか?我々は彼らの行動も実在も知っています。どうしてもCGと比較してしまいます。CGで描いた人間を、どんなにリアルに表現しようとしても違和感を感じてしまう「不気味の谷」が存在するように、見慣れた犬にも同様に違和感を感じてしまうのは自明の理なのではないでしょうか。
それと設定に無理があるというか、無理矢理に現代風にねじ曲げて当てはめた設定に、やはり違和感を感じずにはいられません。マンガではバックを売り飛ばすのは使用人でした。映画では無関係の街のゴロツキです。現代においても一部に白豪主義が根強く残り、有色人種への差別がやまないのは何故なのか?アメリカの奴隷制度の名残と共に、使用人として仕えていても主人を裏切る異人への不信感がそうさせているのではないか?そういう問題提起を、バッサリ切り捨てました。
ソリ引き犬として売り飛ばされたバックの最初の主人は、郵便配達人でした。これが黒人の男性と白人の女性のコンビ。世はゴールドラッシュ時代。依然、人種差別が根強く残る時代に、この取り合わせはあり得ない。また、マンガでも最初の主人はゴールドラッシュに便乗してアラスカに金を探しに行く男達でした。
賢いバックが群れの中で存在感を表していくのを気に入らないリーダーのスピッツが、バックを殺そうとして返り討ちに遭うのも、映画ではスピッツが負けて群れを離れるだけ。マンガでは負けたスピッツは野犬に食い殺されてしまいます。現代風にソフト描写にするのも、気が削がれます。
彼らがバックを手放したのは砂金を見つけて国に帰ったからでしたが、映画では郵便に変わって電報が始まるため、郵便配達が不要になったからという設定。次の主人が、犬のこともアラスカのことも何も知らないお気楽なボンクラ3人組というのはマンガと同じ。ただ、ソーントンの登場が早く、バックが解放されるシーンも早いし、被害も少ない。マンガではたまたま3人組に出くわしたソーントンが、彼らの犬の扱いがあまりにも酷すぎ、激昂して衰弱の酷かったバックを解放、その後も旅を続けようと無理に川を渡ろうとした3人組と残りの犬達が氷の割れた川に消えていくという悲惨なものだったけど、映画では3人組を他の犬達も死ぬことはありませんでした。
マンガではソーントンもゴールドラッシュによって金を探しに来た一行でしたが、映画では心に傷を負って居場所を探して流浪してきた設定。亡くなった息子が生前に描いた地図を思い出し、バックと共に未開の荒野へ向かうと、そこには金鉱がありましたという、とってつけたようなお話し。バックがソーントンにとってソリ犬ではなく相棒という存在なのはマンガも映画も一緒。
マンガでは、ソーントンを殺すのは原住民でした。金塊は原住民にとっては神の石であり、それを略奪する白人は敵でしかなかった。怒ったバックは原住民を噛み殺し、野性に帰って、原住民からは死神として恐れられました。映画では、3人組の一人が逆恨みしてソーントンの後を付けてきて銃で殺害、怒ったバックに燃えさかる小屋に押し込まれるという結末。ここでも原住民に配慮するという現代的な忖度がうかがわれますねぇ。
そもそも、満足に犬ぞりでの旅もままならないほど旅の知識がなかったボンクラが、地図にもない未開の荒野を目指したソーントンの後をつけるなんて事ができたんだろうか?この時点ですでに「ありえない」感が満載です。
とにかく、ゴールドラッシュ当時の事情を考慮せず、あちこちに気を使いながら現代風に仕上げた「牙を抜かれた狼」「飼い慣らされた野生」のような、およそ本来の物語の趣旨とはかけ離れた綺麗にまとめられた作品でした。
そもそも、バックの犬種ってなんなのよ?マンガではシェパードっぽい描写だったけど、映画ではただデカいだけの雑種?そう言えばソリ犬達も、およそソリを引くには向かないような小型犬も混じってたけど大丈夫か?
それでも☆2つにしたのは、オリジナリティを尊重したのと、リアリティよりも見やすさ・わかりやすさを尊重するユーザーには「ちょうど良い」出来だったのかなと思うから。
自分の飼い犬を見ると、やっぱり映画の中の犬達は全然違うなぁ、とあらためて違和感を感じますがね。