☆☆☆☆★
2022年公開
劇場で見てきました。原作は小説ですが、私は週刊少年マガジンで連載されたマンガの方を知っていました。派手さはないし、マガジンにありがちなラブコメ要素もエロ描写もないのですが、とても趣のある面白い作品だと思いました。ただテーマが水墨画ということで、イマイチ一般ウケしないんじゃないかという懸念はありました。
それが映画化。前述の通り、水墨画がテーマというのもニッチだし、派手さはないし、興行的に大丈夫なんだろうかという不安はありますが、どのように映像化されたのかという興味もありました。
特に主演の清原果耶は、原作のイメージにピッタリだし、彼女自身演技の巧さには定評があるので全く不安はありません。
一方で、主演の横浜流星。爽やかなイケメンで若く、原作の陰のあるちょっと大人な霜介のイメージではないのでは、という不安がありました。しかし映画を見てみると、華やかさも爽やかさもなく、どこかで若さを落っことしてきてしまったようなくたびれた若者感が滲み出ていて、そこはさすが俳優だなぁと感心しました。
2時間弱でいかにまとめるか、という不安もありましたが霜介と千瑛のエピソードに焦点を絞って、うまくまとめた感じです。
対照的な大人の存在としての湖山に三浦友和、兄弟子・湖峰に江口洋介。二人とも個性的で盤石な演技で若い二人と作品を支えます。
それぞれの演技もさることながら、水墨画を描くシーンが美しく魅力的でした。墨の濃淡だけでこんなにも美しい絵が描けるのなら、水墨画をやってみようかなという気持ちにさせられるくらい。
2時間弱という制限の中で、霜介と千瑛の心の揺らぎ、葛藤、成長は描けたんじゃないかな。原作はもっと複雑ではあったけど、そこまで要求するのは酷というものか、映画的な描き方としては十分だったと思います。
強いて不満というか、腑に落ちなかった点が一つ。霜介の家族は大雨による河川氾濫により命を落とし、それがずっと心に残っていた霜介が命日に現地を訪れて新たな一歩を踏み出す決意をするというのだが、霜介も千瑛も冬の装いなんだよな。人命に関わるほどの河川氾濫を起こす大雨というと、せいぜい9月まで、どんなに引っ張っても10月がいいところではないだろうか。冬の装いは、いくら寒さが早く来たとしても10月下旬がいいところ。季節感に整合性がないような気がするのだが。シナリオの設定としてどうなの?と思ったのはそこくらいで、それ以外は概ね満足でした。横浜流星のパッとしない若者演技も「いなくなれ、群青」よりも上手になっていたし、清原果耶の演技には安定感があるし可愛い。この二人をさっ引いても、水墨画の世界は美しかった。水墨画を描く登場人物4人の所作も、美しかった。イメージだけでなく、ちゃんと専門家に指導されたんだろうなぁ。