☆☆☆★★

 

2022年公開。

大好きなのんちゃん(能年玲奈)主演作品。監督。製作も、のん。のんの感性が詰まった映画、という解釈で良いのかな。

主演がのんちゃんという事以外は事前情報なしで観ました。

毎度言っているけど、のんは憑依型の女優だよなぁ。役を与えられると完璧に演じきる。一方で、「素」の部分は、ちょっと「残念」な感じ(笑

「あまちゃん」でブレイク後にバラエティやCMにも出てたけど、シナリオがないと「何を言っているんだ、大丈夫か、このコは?」と心配になるレベル。前に観た「8日で死んだ怪獣の12日の物語」でも、ほぼ素に近い役だったからか、なんか間延びした感じでちぐはぐさが否めなかった。

本作では主人公の美大生を演じていました。コロナ禍における美大生という、活動が制限され、世間からも理解を得られない学生の、閉塞感と鬱屈が見事に描かれていました。ただコロナ禍の美大生の立ち位置、というものが、どれだけ世間に認知されていたか、どれだけ世間が興味を持つか、というのは未知数ですね。私の場合は娘が高校の美術科にいたので、娘の立場に置き換えて考えると共感できたわけですが。ちなみに娘はコロナ禍ではすでに高校を卒業し、美術は無関係の仕事に就いていましたが。

コロナ禍で登校が制限されると、学生達はどこで制作活動をしたら良いのか?主人公の「いつか」はアパートに作品を持ち帰りますが、モチベーションが上がらず、制作は進みません。さらに大きな作品を作っていた親友の「平井」は制作が進まないことにストレスを募らせていきます。それでなくても、あれもこれも制限される社会情勢にいつか達は振り回されていきます。

次々といつかの部屋を訪れる、いつかの家族。母親も父親も変わった人で、これもいつかのストレスになります。

母親はいつかの部屋を掃除するのはいいけど、作りかけの作品を勝手に捨ててしまいます。慌てて回収するいつかは睨みながら「謝らないの?」と問いますが、母親はすまなそうな表情をするだけで謝罪はなし。うん、この母親、嫌いだわ。

父親はさすまたを持って登場。ソーシャルディスタンスを保つためとのことですが、完全に凶器を持って歩く不審者ですわ。

最後に登場する妹も、なかなかインパクトがありますが、それでも年代が近いこともあり、ようやくいつかは癒やされます。

公園で見かける若い男性も、いつかは知っているような気がするのですがマスクをしているので誰だかわからず。こういう点もコロナ禍を象徴的に表現しています。

終盤、どうしても作品を持ち帰りたいという平井に泣きつかれ、いつかと平井は夜の学校に忍び込んで平井の作品を破壊して持ち帰ります。自分のものなのに自分の好きに出来ない、作品として成就できないのならむしろ成仏させてやりたい、愛情が深すぎるが故に極端な思考に走る平井の気持ちは理解できます。なんだかんだ言いながら、最後には平井に協力する、というよりもノリノリで学校に侵入し平井の作品を破壊するいつかも、美大生というよりも芸術家として平井に共感しただけでなく、友情に厚い女性だったのでしょう。ただ気になったのは、持ち帰るのであれば、再現可能なように「破壊」ではなく「分解」すべきだったと思うし、警備員をやり過ごしながら侵入したんだから、あんなに派手な音を立てて作業するのはあり得ないですね。

Ribbonはいつかの作品に使われる小道具なのですが、作りかけのいつかの部屋に散乱しています。そしていつかの気持ちを表すかのように、動きます(CG)。作品の象徴として、このタイトルとなったのでしょう。

コロナ禍を描いた映画というと、前述の「8日で死んだ怪獣の12日の物語」を観ましたが、低予算で抽象的で思想的な作品に対して、こちらはリアルタイムのリアルな若者を描いた作品として共感できましたし、好感も持てました。これは将来、「コロナ禍ってこうだったよな」と思い出し、教訓とする意味でも、とても良質な映画だと思います。

実際にコロナ禍では、社会全体が軽度のパニック状態に陥っていたと思います。生活を、経済を維持することにばかり目を囚われ、音楽や演劇や映画といった「芸術」は生活にはどうしても必要なものではないとして活動が制限されました。それに対して各方面の専門家や当事者

は反論をしたし、制限下でも活路を見いだそうと必死に努力してきました。この作品でも「芸術は必要ないんだってさ」と、吐き捨てるように言わせています。本当に愚かなことだと思います。それほど社会全体が、気が動転してどうかしていたのでしょう。その「おかしさ(異常さ)」がリアルに描かれている作品として、評価されるべきだと思います。

いかんせん、エンドロールに岩井俊二の名前を見つけて「えぇ~~~(ガッカリ)」となってしまった。岩井俊二、のんちゃんに絡まないでほしい。単純に私が彼の作品に共感できないからだけど(笑

橋本愛さんには遊川和彦がちょっかいかけているし、若くて有望な女優さんを、ジジィの歪んで錆びた感性の犠牲にしないでほしいんだよなぁ。(完全に私情)。