イングランドの下院議員や外交官を務めたトマス・モア。彼の主著「ユ-トピア」は当時のイングランド社会を痛烈に批判した作品で、特に羊毛生産のために農地の「囲い込み(エンクロ-ジャ-)」を行って農民生活を窮乏させた産業資本家の所業に対しては、「羊が人間を食い殺す」と、彼一流の諧ギャクを交えた表現で批判している。
モアは同書で、諸悪の根源は貨幣経済と私有財産制にあるとして、貨幣が存在せず、財産共有制が敷かれた社会こそが理想郷であると説いている。
これはまさに原初的な共産主義思想であり、19世紀の社会主義者エンゲルスは、マルクスによる「科学的社会主義」に対して、モアの「ユ-トピア」を「空想的社会主義」と位置付けている。