深夜に着いた。

その日は二十歳の誕生日だった。

人の臀部に沿って作られた形状の椅子に無理矢理横になる。

硬く波打ったプラスチック製の樹脂が背中に食い込んでくる。

遥か真上には、丸い照明がいくつもぶら下がった天井が見えている。

常夏だが、空港内はエアコンが効き過ぎるほどに効いていて、リュックに入れておいた薄手のブランケットをかけて目を閉じる。

人の気配はあまりしない。

同じ飛行機に乗っていたひとたちは一体どこへ行ってしまったのだろうか。

たまに聞こえてくる物音に薄目を開ける。

 

 

今朝は雨が降っている。

雨雲をリアルタイムで表示するアプリを見ながら、スニーカーでよいのか、それとも防水シューズを履くべきかを思案する。

 

 

表が明るくなってくる頃を見計らい、荷物をまとめる。

ターミナルの二階部分から向かいの駅に伸びる歩道橋を渡る。

朝から体にまとわりつくような暑さや、湿度を含んだ異国の匂いが少し心地よくもある。

歩道橋の下の幹線道路からは、かなりのスピードを出した車が行き交う音が聞こえてくる。

 

 

か細い雨。

手に持ったライトが暗がりを照らす。

夏の暑さが退き、歩いていても快適な温度になってきた。秋の虫たちの気配もする。

 

 

駅はとても簡素だった。

掘っ立て小屋のような壁に薄い屋根が敷かれ、おそらく駅名が書かれた白いボードが正面に掛かっている。

曲線ばかりの文字の国に再びやって来た実感が湧く。

切符は硬質の厚紙でできており、くすんだ赤の背景に、黒い文字や数字が刻印されていた。

プラットホームは形だけの様子で、レールと同じくらいの高さしかない。

そこを人や犬が縦横無尽に行き来している。

 

 

商店街の軒先を通ると、乾いた歩道には雨で濡れた小ぶりな足跡が見えた。

遠くを見ると、100メートルくらい先を彼女が歩いている。

ライトも持たず、季節に関係なく顔を黒い布で覆っている。

すれ違っても挨拶もせず、粛々と任務を遂行する兵士のように歩を進める。

 

 

しばらく辺りを見回しながら待っていると、大きな列車がやって来た。

電化はされておらず、おそらくディーゼルだと思われた。

市内の方角も分からなかったが、黄緑蛍光色のビジネススーツを着た女性が「これに乗りなさい」と声をかけてくれた。

手すりを右手で掴みながら、二、三段のスチール製の階段を上る。

 

 車内は木でできていた。

木製の床の上に木製のシートが並んでいる。

列車は南にある海の方へと流れていく。

左手にはTEXACOと書かれたアルファベットと、その赤い星型のロゴが書かれた巨大なタンクが見えてきた。

そして、その右隣りから大きな朝日が昇りつつあった。

 

 

 家に戻る頃には明るくなっていた。

小雨が降るどんよりとした雲の裏には太陽があるようだ。

 

 

それほど混んではいない列車の窓は開け放たれ、天井に付いた小さな扇風機は動きを止めている。

連結部分ではタバコを吸う人影も見える。

少し離れた所には、その派手なビジネススーツを着た女性が知人の女性と話す姿もあった。

私はリュックを足の間に挟みながら、オレンジ色に輝く太陽を見つめていた。

 そうして、半島を南下する一ヶ月の旅が始まった。