茫洋とした薄い雲の間からは満月のような真ん丸の月が見える。
それが正面に構えていたので、方角的には西を向いて歩いていたのだろう。
まだ夜が明けない時間、暗がりの街灯も乏しい場所をすたすたと抜ける。
昨日今日と、商店街の一部を歩行者天国にした年に一度のイベントが催されている。
蛇行した道の両側には露店が並び、ちょっとしたお祭りのような雰囲気がある。
例年、この時期は日中でも寒さを覚える季節でもあり、年によっては雪も舞う時代もあったというが、最近の高温化の状態ではそんな話も信じられないくらい過去のことのように聞こえてしまう。
そこを通ったときは、まだ人影すらない時間だったので、露店は半分闇に埋もれた廃墟のようだった。
前後左右は幕で閉じられ、下には水でも入ったポリタンクが重りとして置かれている。
近くのこじんまりとした駐車場には、露天商たちの車と思しきバンが何台も駐車されている。
中で眠っているのだろうか。
それともホテルか旅館で一夜を明かしているのだろうか。
専業なのだろうか、それとも副業なのだろうか。
そもそも露店の売上というものは、宿泊費や交通費を補うほどに充分なものなのだろうか。
余計なお世話だと思われそうな疑問がぽつぽつと湧いてくる。
世の中には様々な職業があるけれど、一つの場所からまた別の場所へと渡り歩く仕事というのも、それが生業となると大変な苦労があるのだろうと思われた。