慢性骨髄性白血病が服薬で治療できるようになったのはペンシルバニア大学とシカゴ大学とオレゴン大学の遺伝子研究者のお陰。彼らの研究がなければ私は皆さんと楽しい交流はできなかった。1953年に ワトソンとクリックがDNAの二重構造を発見し、それから 急速に遺伝子研究が進み 45年後にはそれまで 不治の病だった この病気の特効薬が開発された。高校の生物でワトソンとクリックの名前は覚えたが まさか この2人の研究が自分の命を救うとは想像もしなかった。1990年からヒトゲノム計画が開始され 2003年には人間の遺伝子の全てが 解析され、2万数千の遺伝子によって2万数千のタンパク質が作られ、 私たちの目や鼻や口や脳や心臓を作っているということが解明した。これらの タンパク質を作る 遺伝子に異常が起こるとがん細胞が発生する。この異常なタンパク質の生成を抑える分子標的薬の作用の説明を がん治療で病院で受けるのだが 最近の分子生物学の基礎知識がないと なかなか理解できない。

以下京大の腫瘍生物学小川教授の解説。
私が医学部を卒業した1988年頃にはCMLは骨髄移植をしないと治らない病気だったのですが、日本にはまだ骨髄バンクもなく移植がそれほど行われていませんでした。ですから、この病気になるとほとんど助かる見込みがなくて、私が初めて主治医になった19歳のCMLの患者さんは急性転化して、いろいろ治療を試みても効き目がありませんでした。自分が医師として働いている間に、このひどい病気が治ることがあるだろうかと考えていたわけです
染色体の異常がCMLの発症に関係しているのではないかということは19世紀から指摘されていたが、大きなブレークスルーが起こったのは1960年。米国ペンシルベニア大学の指導教諭のピーター・ノーウェル(Peter Nowell)氏と大学院生だったデビット・ハンガーフォード(David Hungerford)氏が、CMLの患者には22番染色体に異常があることを発見しフィラデルフィア染色体と名付けたのだ。さらに1973年には、米シカゴ大学の助手だったジャネット・ラウリー(Janet Rowley)氏が、フィラデルフィア染色体では9番染色体と22番染色体が途中で切れて相互に入れ替わる転座が起こっていることを突き止めた。「これが白血病で発見された初めてのゲノムの異常だと思います」と小川氏は話した。

 1985年には、22番染色体にあるBCR遺伝子と9番染色体にあるABL遺伝子が相互に入れ替わってくっつきBCR::ABL融合遺伝子が生じて、異常なタンパクが酵素活性(Bcr-Ablチロシンキナーゼ活性)を起こすことがCMLの発症原因であることが示された。そして、その13年後の1998年には、オレゴン大学教授のブライアン・ドラッカー(Brian Druker)氏が米国血液学会で、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬イマチニブの開発に成功したことを発表した。
イマチニブは、米国腫瘍学会(ASCO)でも発表されて大きな話題になったのですが、当時、私たちは、薬だけでCMLが抑えられるということが本当にあるのだろうかと驚きました。CMLへの効果が次々に臨床試験によって証明されて、日本でも2001年にイマチニブが承認されました。白血病の発見から約160年経って人類はついに、ほとんどCMLを克服できるところまで来ているわけです。ここで大きな駆動力になっているのはサイエンスです」と語った。