俺は早速、その日から魔術の特訓とやらを受ける事になった。

「まず、お前には魔術についての基礎知識から学んでもらう。実を言うと、魔術は使おうと思えば誰もが使える力だ」

「そうなのか」

「ああ。人は皆、”マジックエナジー”(MG)というものを2つ持っている」

「親父が失ったって言っていたあれか」

「そうだ。こいつが無いと、魔術を使うことが出来ない」

「ということは、俺にも二つあるんだな」

「いや、お前の場合は特別だ。お前は4つある」

「え、4つだって!?」

「ああ、私ぐらいのレベルであればMGがそいつのどこにあるかぐらいは感知できる。そしてお前からはMGが4つ感じられる。」

「なんで4つもあるんだよ」

「さあな。白夜に聞けば何か分かるかもしれないが、それは不可能な事だ」

「さっき言ってたテレパシー会話ってやつじゃ無理なのか?」

「それは、相手の位置が特定できていないと使えないんだ。だから使えないな」

「そっか。駄目か」

「まあ、いいじゃないか。4つもあるということは、それだけ強力な魔術が使えるって事だ」

「本当か。」

「ああ。MGは簡単に言えば、魔力を供給する源だ。つまりお前は常人の約2倍もの魔力を持っていると言っていい。それにお前はあの白夜の息子だ。きっと相当な魔力を秘めていることだろう」

「俺って、そんなにすごい存在だったのか」

「そうだ。だからガラハッドもお前を狙うんだよ」

「そのガラハッドは俺を捕まえてどうするつもりなんだろう」

「研究だな。解剖なんかされたりするんだろうなきっと」

「それは御免だな」

「まあ私がついてる限り、幹部クラス以外のやつなら大丈夫だ」

「そういえば、あんたって何者なんだ。親父の知り合いみたいだけど」

「私か?私はセ・・・アンセルムス・アンテロウスだ。セルムとでも呼んでくれれば良い」

「・・・何故言い直した。」

「私は自分より弱い者に本名は名乗らん主義でな。だが、名が無いと不便なので普段はこの偽名を使っている。」

「そういやさっきもそのような事言ってたな。名前からすると、日本人じゃないみたいだが、どこの国の人なんだ?」

「私には国籍がない。だから何人とは言えないな」

「両親は?」

「そんなもの、私にはいない。」

「そうか。悪いことを聞いてしまったな。」

「気にするな、慣れている。」

そしてしばらく沈黙が流れた。

その沈黙を破ったのはセルムだった。

「くっ、こいつはヤバイ」

セルムは焦りを交えた声で言った。

「どうした」

「ガラハッドの者がここに近づいてきている。しかも相当な魔術者だ」

「セルムでも勝てないぐらいのやつか?」

「そうかもな」

その時、空間が灰色で固められ、いろんな物体が捻じ曲がった世界に変わった。

「結界を張ったようだな。もうすぐここに来るぞ」

「お、俺はどうすれば」

「私の後ろに居ろ。さあ、敵の御出ましだ」

バリーンっと窓ガラスの割れる音がして、一人の女が入ってきた。

その女は赤い髪に蒼い目、魔術師らしく黒のローブを見につけていた。

「やっと着いたぁ。流石にヨーロッパから直接来るのは応えたわ」

「お前はもしかして、エメリア・ハーバートか」

「ふふ、そうよ。私も有名になったものね」

「アクアマリンのエメリアを知らない魔術師など、そうはいない」

「そう言って貰えるとうれしいわ。でも今日はあなたじゃなくてその後ろの子に用があるんだけど」

「俺はあなたに用は無い」

「でも、私にはあるのよ。さあ、こちらにおいで。楽しい世界へ誘ってあげる」

エメリアという魔術師はなにやらぶつぶつ言い始めた。

「詠唱魔術か。ならば!」

セルムは目を閉じ、指先に意識を集中させてエメリアに向けた。

「ハァーーーーーーッ!」

一瞬、時が止まったかのような感覚にとらわれた後、槍状の結晶体がセルムの指先からエメリアに向けて解き放たれていた。

「何ですって!」

エメリアは、間一髪の所でしゃがんで避けた。

「詠唱も無しにこの威力の魔術。まさかあなたは」

「そのまさかだ」

「そう。こんな所で”神種”に会えるなんてね。流石の私でも、今の状態じゃ少々分が悪いわ。また後日、改めて伺わせてもらうことにしましょう」

「逃がすか!」

セルムはエメリアに向けてさっきと同じ魔術で攻撃したが、そこにはもうエメリアの姿は無かった。

「チッ、逃げられたか」

「なんだったんだ、今のは」

「あいつはガラハッドの幹部の一人、エメリア・ハーバート。あの蒼い瞳から、通称アクアマリンのエメリア。厄介なやつに見つかったものだ」

「大丈夫なのか」

「まあ、今日のところはな」

歪んでいた空間が元に戻り始めた。

「結界を解いた様だな」

「さっき、あいつが言ってた神種ってなんだよ」

「あ~あ、それか。ホントはもっと後で言おうと思っていたんだが、仕方ない。簡単に言えば、神の子だ」

「神の子?」

「そうだ。人間は神が創りしアダムとイヴの子だが、神種は神から生まれし子だ」

「それがセルムなのか」

「そうだ。驚いたか」


俺は、開いた口が塞がらない状態になっていた。


magic3 end

俺は家に帰る途中も、さっき起こったことが目に焼きついていて、激しく動揺していた。

そうしている内に、家に着いた。

「さあ、着いた。まず、聞きたいことはなんだ。」

「・・・」

聞きたいことは山ほどあり、どれから聞けばよいのか分からなくてふと思ったことを最初に聞いた。

「あんたは俺の前を歩いていたが、迷うことなく家に着いた。どうして俺の家を知っている。」

「知っているに決まっているだろう。さっきも言ったが、私はお前の護衛を白夜から頼まれたんだ。お前の家を知らないでどうやって護衛するんだ?」

「あ、そうか・・・」

どうやら俺は相当動揺してるらしい。こんな事、聞かずとも分かった事なのに。

「じゃあ、さっきのはなんだよ。あの男が指から出した光線は?」

「お前、まさか魔術を知らないのか?」

「魔術、だって?」

「そうだ、あれは魔術だ。」

「そんなものを信じろというのか。」

「信じるも何も、実際にお前はその目で見たじゃないか。」

「でも・・・」

「それに、お前の父親である白夜も魔術師だ。」

「え、親父が?」

「そうだ。それに、白夜は多分、最強の魔術師だった。」

「だったって・・・親父はまさか」

「あ~、違う違う。死んではいない。ただ、ある魔術を使ったせいでマジッグエナジーを一つ失ってしまい、最強ではなくなっただけだ。」

「そうか。親父はまだ生きてるんだ・・・」

「多分な。まあ、最後に会ったのは3ヶ月前だから生きているだろう。」

「それで、親父は今どこに?」

「それは私にも分からない。世界中を飛び回ってるからな。」

「母さんが亡くなった事を、親父は知っているんだろうか。」

「多分知ってるだろうな。あいつは月に一回、テレパシー会話でお前の母親と話してると聞いたことがある。」

「そうだったのか。全然知らなかった。」

「お前、ひょっとして白夜のことを覚えてないのか。」

「ああ、物心つく前に親父は家を出て行ったから。」

「そうか。まあ、それはお前たち家族のためだな。」

「何故そう言い切れる?」

「考えても見ろ。お前は最強だった魔術師、神崎白夜の息子だ。組織の連中はお前の存在を知ったら、喉から手が出るほど欲しいに決まっている。だから、お前の存在がバレないように、どこか遠くに行ったんだろう。」

俺は幼い頃から親父を憎んでいた。何故俺にだけ父親がいないんだ、って。

そして母さんを一人にして寂しい思いをさせやがってと。

でも、お金は毎月口座に入ってきていたからどこかで働いているんだろうと思っていた。

まさか家を出た理由が俺だったなんて・・・

「じゃあ、何故俺の存在がバレたんだ?」

「それは・・・私にも分からない。どこかから情報が漏れたのか、誰かが横流ししたか。まあ、バレたものは仕方がない。これからは私が護衛&特訓してやるから大丈夫だ。」

「特訓?」

「そうだ。組織の連中がお前を狙うのは、その潜在能力の高さ故だ。ならば、その潜在能力を引き出して組織の連中が手が出ないほどお前を強い魔術師にすればいい。」

「俺が、魔術師に・・・」

「そうだ。お前は親父を超えられるほどの素質がある。」

「でも、俺なんかにできるのか。そんなことが。」

「出来るさ。私が保証しよう。」

そんな訳で、俺は魔術師になることになってしまった。

magic2 end

いつもと変わらない日常。いつもと買わない風景。

特にコレといった変化のない毎日を過ごしていた。

そんな俺に突然、平和的な日常をぶち壊す出来事が起こった。


高校2年の秋、授業を終えてそそくさと教室を抜け出し、いつもの帰り道を歩いていた。

後3分で家に着くっていうところで、「すいません。」と声がして、後ろを振り向くと黒衣に身を固めた男が立っていた。

「神崎鏡夜さんですか?」

不審に思ったが、正直に答えた。

「はい、そうですけど。」

男はニヤリと笑って、

「やはりそうでしたか。くくく、ようやくみつけましたよ。」

「えっ?」

「何も言わずに私について来て下さい。」

「な、何者なんだよお前は!」

「私は、ある組織の人間です。あなたを拉致してくるよう命令を受けていましてね。」

「き、北朝鮮か?」

「ふふふふふ、あんな低俗な国家じゃありませんよ。もっと気高く、素晴らしい組織です。」

俺はしばらく考えて、

「もし、断ったら?」

「力づくでも来てもらいます。」

男の手が俺の方に伸びてきた。俺は持ち前の反射神経でそれをかわしたが、勢い余ってこけてしまった。

絶体絶命。

男につかまりそうになった瞬間、

「うっ!」

男は何か強い力で押されたように後方に飛んだ。

「こんなやつに押されてるなど、だらしがないな。」

声がした方を振り返ると、一人の女が立っていた。

「全く、白夜の頼みとはいえこんなにひ弱なやつとは。コレは骨が折れそうだ。」

「何故、親父の名を?」

「その答えは後回しだ。まずはこいつを片付ける。」

「くっ、一体何者ですかあなたは?」

先ほど飛ばされた男が、立って言った。

「私より弱いやつに、名前を語る気はない。」

「言ってくれますね。なら、これでどうですか!」

男の指先に光が収束して、こちらに向けて光線が解き放たれた。

「ふん、この程度か。神術を使うまでもないな。」

男が放った光線を、女は片手で受け止めてはじき返した。

「く、くそっ」

男に光線が直撃し、その場に倒れた。

「なんなんだ。今の光景は・・・」

俺が呆気にとられていると、

「何をしている。さっさといくぞ。」

と、罵倒を浴びせる口調で女が言ってきた。

「行くって・・・どこに?」

「え?行くってどこに・・・」

「決まっている。お前の家にだ。」

「はぁ?」

「ほら、いくぞ」

「ちょ、ちょっと待てよ。何であんたが俺の家にくるんだよ。」

「お前の父親に頼まれたからだ。」

「え・・・親父に頼まれた?」

「そうだ。お前の父親、神崎白夜にお前を護衛するよう頼まれたのだ。」

「護衛って・・・ひょっとして、さっきの奴らから?」

「そう、あいつらの組織”ガラハッド”からな。」

「何故、どうして?」

「まあ、落ち着け。詳しい話は、お前の家でしてやるから。」


こうして、俺の非日常が始まった。


magic1end