それは私が昼食のドライカレーを作っている最中の出来事でした。

祖父の寝室の扉が開く音が聞こえたので火を消し寝室へ向かうと四つん這いの祖父が廊下で這い蹲っていました。私が「おしっこ?歩ける?」と問いかけると祖父が「おしっこ。歩けない。」と返答したので車椅子でトイレまで連れて行きました。いつもは車椅子に乗せようとしても嫌がって抵抗するのですが今回は珍しく素直に乗ってくれました。

トイレの前に到着し私が「立てる?」と問いかけると祖父はゆっくりと立ち上がり小便器に向かいました。ケアマネジャーや看護師からは洋式の大便器に座らせて小便をさせたほうが楽で出しやすいと助言を受けていてこれまで何度も洋式の大便器に小便をさせようと試みたのですが、祖父は小便は小便器にするものという固定観念があるらしく頑なに小便器を使用して失敗しトイレや自分の服を汚し続けていました。なので私は半ば諦めながらも小便器ではなく洋式の大便器まで連れて行こうとすると、いつも大声をあげて嫌がる祖父が珍しく素直に従ってくれました。

大便器に辿り着いた祖父はズボンを下げようとするのですが、自分ではうまく下げられずいつも私達が下げてあげます。祖父はそこでも嫌がって抵抗する上、トイレが我慢できずにズボンを下げた瞬間に放尿し常時紙パンツを弄ってるためズレて出来た隙間から尿が漏れ出したり、酷いとパンツを下げた瞬間に放尿して私の手に尿が掛かったりと毎度地獄のような気分を味わうのですが、今回は素直にズボンと紙パンツを素直に下げさせてくれました。

私が「まだだよ。まだだよ。」と声を掛けながら祖父を大便器に座らせ「いいよ」と声を掛けると祖父は便器の中に勢いよく小便をしました。要介護認定を受けてから初めて身体もパンツも服もトイレも汚さずにトイレを成功させることが出来ました。滅茶苦茶嬉しかったです。

トイレが終わったのを確認した私はパンツとズボンを上げた後、車椅子に祖父を乗せて寝室まで連れて行きました。

寝室に到着した私は「着いたよ。立てる?」と声を掛けると祖父は「ありがとう」と答えゆっくりと立ち上がり手すりに掴まってよたよたと部屋に入っていきました。

信じられない気持ちでした。祖父は私のことを完全に忘れ「怖い知らない人」という認識でいるため、何をしてあげてもお礼を言ってくれなかったからです。もしかして私のことを思い出してくれたのかと思ったのですがどうやら知らない人が親切にしてくれたという認識でいるようでした。

それでも嬉しかったことに変わりはありません。私は久しぶりに機嫌よく昼食作りを再開し完成したドライカレーを家族に振舞いました。

 

汚い話をしてしまい申し訳ありません。ですがつい細かく書いてしまうほどには嬉しかったんです。祖父はプライドが凄く高い人で認知症になった後もあらゆる介助を嫌がってきます。そんな祖父が初めて素直に言うことを聞いてトイレを成功させたんです。両親も驚いていました。

次トイレに行くときも介助を嫌がらず素直に座ってトイレをしてくれることを切に願っています。