父と麦わら帽子
夏になると思い出す
父と二人 麦わら帽子をかぶって
網と虫かごを持って
どこまでも歩いて セミを探しに
街なかを抜けて坂道を下ると
沼から涼しい風がふたりの頬を撫でて
山のそばに行けばひんやりとした風のお出迎え
あの頃の夏は今よりも
ずっとずっとやさしい夏だった
夕立が来て急に雷雨になったって
麦わら帽子をかぶってるからへっちゃらだった
真夏の太陽が照りつけても
麦わら帽子をかぶっていれば涼しかった
家に帰るまで喉が渇いても
水筒なんかいらなくて
父と一緒にいれば安心だった
もうこの世に父はいないけれど
夏になると 思い出が蘇る
十分愛してもらったから 今がある
父を思い出すとき
そこにはいつも 麦わら帽子
夏のそよ風は 遠い記憶