林健太郎選手のヴァンフォーレ甲府移籍が発表されました。




 林選手の去就については、シーズン終了後からさまざまな憶測が飛び交っていました。


 「マスコミに公表はされてないけど、米山同様0円提示だったらしい」、「フロントは解雇したけど、監督であるラモスが必要としているので、再契約に向けて現在交渉中らしい」・・・などなど。


 そんな中、小林慶行選手がランドで自身の気持ちを語ってくれた際、「長年ヴェルディを支えてきた尊敬する先輩二人が、何の説明もなく戦力外通告をされたことに・・・・・・」と説明していたのを聞いて、僕ははっきりとヨネとともに、林も解雇されていた現実を受け止めました。


 しかしこの時期になっても、彼については、再契約、あるいは移籍情報がまったく流れてこなかった。そして、ベテランという年齢もあって最近では「現役引退説」まで噂された矢先、この発表でしたからね。いろいろな結末を考えていたので、J1のクラブへの移籍で少しホッとした自分がいたのも事実です。


 彼の魅力については、もはや説明不要でしょう。

これほどサポーターの一部から熱狂的に愛されるプレーをできる選手もそうおるまい。


 ベテランらしい老獪かつ堅実的なプレー・・・・・とは正反対で、むしろ危険と隣り合わせの大胆な美技を紙一重で成功させるプレーが、彼にとっての日常茶飯事。それでいて、まったく安全な場面で信じられない軽率なミスを犯すのも日常茶飯事。試合中のヴェルディサポーターが、何度彼のプレーで天国から地獄に叩き落とされたことか。


 例えば、トラップする瞬間を狙って飛び込んでくる相手を、華麗な股抜きでいなして観客をどよめかせたと思ったら、次の瞬間、なぜかドフリーの相手選手にパス・・・・固まるサポーター!でも、すぐにまた自分で奪い返し、結局事なきをえてしまうのだ。そりゃあ、「林健太郎、自作自演説」も流れるってなもんである。


 昨年もいろいろありました。


 真っ先に浮かぶのは、アウェイのジェフ戦での、ゴール前フリーの決定的場面で味方へパスをした場面でしょうか。まさかのパス選択に、ゴール裏のサポーターがいっせいに頭を抱え、「打てよー!」と怒り狂ったもんです(ちなみにこの試合の決勝点を決めたのは、同じような場面でシュートを放っただったのが、なんとも皮肉な話)。


 あとすぐに思い出せるのは、ホームでのかな。森本のゴールに結びついた相馬のクロス、その起点となる惚れ惚れするような軌跡のロングパスを左サイドへとダイレクトで通しました。あれは実に気持ちよかった。昨シーズン、相馬のクロスが得点に結びつくという数少ないシーンに貢献しました(笑)。


 一昨年だと、レアル・マドリードとの親善試合で、世界のジダンを後ろからチェックに行った際、その動きについていけず、結果的に思いっきり削ってしまったなんてこともありました。その場で倒れこんで激怒したジダンから、パンチされ、ロベカルからは「オマエ、ナンナンダヨー!」と胸倉つかまれ、世界中のサッカーファンから「よくもジダンを・・・」と抗議され、かなり泣きそうになったそうです。昨年の試合で、ジダンと和解したかどうかは知りませんが、「戸田がベッカムにつばをかけた、いや、かけない」でまたもめたので、結局和解してないんだろうな(笑)。


 そして。

最も印象的だったのが、2003年シーズンの後半、アウェイの駒場で見せたゴールだ。


 ペナルティエリア内で相手のスライディングタックルを、ジャンプ一番でかわす!軽やかな跳躍力とともに、ボールも空中でキープ、そして振りぬいたボールをゴールネットへ流し込む。まさに実写版「キャプテン翼」のような、こちらの目が点になるほど見事な美技でした。あれは一生忘れないだろうな。


 ファンサービスについては、クールながらきちんと対応してくれるタイプでしたね。一度、「ダイジェストのコラム、いつもすっっつっっごい楽しみにしてます。」と、かなりりきんで伝えたところ、一瞬表情を崩して「ありがとうございます」と微笑んでくれたのが、思い出に残ってます。


 とにかく、彼の振る舞いすべてが「だって、ハヤシだから」の一言で説明され、そして許されてしまうプレーヤーでしたね。数十年後、自分がおじいさんになったら、「ヴェルディにはこんな選手が昔いたんだよ・・・」と語り継ぎたい選手、ナンバーワンです。


 最後に。

ひさしぶりのタイトルとなる天皇杯を、大事そうに抱える彼の姿を。





  さようなら、マエストロ・林健太郎。

 新天地の甲府で、もう一花咲かしてきてください。