大学総合入試の小論文作成には学習指導要領の枠外の知識が必要です。

 

その例を昨年の公立北九州市立大学の小論文過去問題から考察してみましょう。

 

過去問題は以下の公立北九州市立大学がHP上に掲載しているURLから確認してください。

この小論文問題は国際関係学科の総合型選抜入試過去問題です。

この小論文課題は表を見て論述します。

解答用紙は1枚となっていますので概ね800-1200字程度で書き進めるものと思われます。

 

https://www.kitakyu-u.ac.jp/uploads/55b20df605946b63a455c241b8feb8e1.pdf

 

小論文を書くときに起承転結で書くなどと教える塾もあるようですが、それは間違いです。

大学が求めているのは作文ではなく本質を論拠に基づき簡潔かつ明瞭に提示できるのかであり、序論に結論の骨子を述べ、本論にその論拠を示し、結論でその内容を簡潔にまとめ結論には新しいトピックを入れないことです。

新しいトピックが入ると当然に結論ではなくなるからです。

 

この問題に取り組むためには日本のエネルギー事情、他国のエネルギー事情を事前に知っておく必要があります。

学校でも教えられることもあると思いますが多くの高校生は「3.11以降のエネルギー事情から日本では化石燃料の使用が多くなっており風力発電や太陽光発電などの再エネへのシフトチェンジを急いでいる」程度の知識しか持っていないのではないでしょうか。

 

アメリカではトランプ次期大統領がエネルギーとなる化石燃料の原料を掘って掘って掘りまくれと声高に述べています。

 

世界中の国々に共通することですが、特に工業による産業立国の国々ではエネルギーの多くを化石燃料に頼っているのが現実です。

英国のように北海ガス油田を持つ国も結局は化石燃料に頼っています。

 

日本の石油精製技術は硫黄分の除去など世界のトップレベルにあります。

 

石炭火力発電に於いても同様に高い技術があり石炭火力発電所でも石炭から発生するガスを利用した効率の良い発電を行っています。

その上に日本の石油精製量の能力はアメリカ、ロシアに次ぐ世界第三位であり石油精製能力の低い国々に硫黄分などが低減された高品質の石油の輸出も可能です。

 

そのようなことからか世界第三位の埋蔵量とされる地熱発電などが進まない現実もあります。

 

新しい技術を確立し安価で環境に良いエネルギーが定着するまでには長い時間と高額な経費も必要です。

それらの理由もあり、新たな技術が必要な地熱発電などのエネルギー開発が進まないのが現状です。

その上に地熱の取り出しが見込める地域の多くは国立公園の中にあり手を付けることが難しい一面もあります。

 

そのため、安易に風力発電や太陽光発電にばかり再エネの目が向けられるようです。

 

原子力発電も化石燃料も悪となれば私達はどのように暮らしを続けるのでしょうか?

 

ドイツには川に小さな発電装置を無数に並べて発電を行っている街も存在します。

当然に効率も低く電気料金は高止まりします。

それを良しとするか否とするかは利用者である私達です。

 

私達はエネルギーの専門家ではありません。

政治は国民を恐れず、エネルギーの実態や本当のことを伝えるべきだと思います。

何故そのように述べるのかはマスコミに伝わりその後に新聞、テレビ、SNSなどで伝えられる情報は切り抜きでしかなくなるからです。

 

しかし、国会や県、市町村議会での議論をいつも見るほど時間がある方はほとんどいらっしゃらないと思います。

 

依って、高校生になったらそのような現実を知るために公的機関や大学などが公表しているデータから答えを導き出す能力を身につける必要があります。

 

その上で、小論文を書き進めるのであれば化石燃料を完全に否定したりすることはできなくなります。

そこで必要なのは現状から未来を推測しそれを裏付けるデータを論拠として示せるかです。

データを示せなくとも日本の石油精製技術や低品質の石炭から環境に優しい燃焼用のガスを抽出できる技術があることを知っていればそれを書けば良いのです。

 

例えば、私が暮らしていたタイであればサトウキビの搾りかすからバイオエタノールを生成しています。

また、その技術を進めるためにタイで走っている車には以下のように一般的にはバイオエタノールを混合した燃料が使われています。

 

・ガソホール91:オクタン価91相当のガソリンに10%ほどエタノールを混ぜた燃料
・ガソホール95:オクタン価95相当のガソリンに10%ほどエタノールを混ぜた燃料
・E20:オクタン価95相当のガソリンに20%ほどエタノールを混ぜた燃料
・E85:オクタン価95相当のガソリンに85%ものエタノールを混ぜた燃料
・ディーゼル:軽油
・ディーゼルB7:軽油にバイオディーゼルを最大7%混ぜた燃料
・ディーゼルB20:軽油にバイオディーゼルを最大20%混ぜた燃料
・NGV:天然ガス
・LPG:液化石油ガス

 

ちなみに、私の車で使用していたのはE20です。

これを日本と同じガソリン燃料にすると税率が急に高くなります。

そのため、ほとんどの車でバイオエタノール混合燃料が使われています。

 

日本では以下のとおりです。

 

「日本のガソリンに混合されているバイオエタノールの比率は、加工された安定した液体であるETBE(エチルテトラヒドロフラン)を7%(純粋なエタノール換算では3%)です。この混合比率ではエンジン本体に問題がないとされています。」

となっており実質3%です。

 

では、タイの車のエンジン(ほとんどはタイ製の日本車)は特別なのでしょうか?

その答えは「特別なエンジン」ではありません。

 

しかし、日本では一部地域を除き多くのサトウキビがとれる訳ではありませんのでこれらの燃料はサトウキビの産地に限られるのだと思います。

 

そこで書くべきは、その国の状況に合った形でCO2の削減を目指す方法を述べることです。

もちろんこの問題は高校生の皆さんには将来的に自分自身に降りかかる問題ですので二酸化炭素やメタンガス削減についての知識も必要です。

 

世界中が躍起になっても解決できないこれらの問題を高校生が解決策を導き出すことは困難です。

 

しかし、現状を知り将来を推測することは可能です。

 

大学総合入試ではそのような受験生の「自頭」が合否を分けます。

 

現在の状況で化石燃料を否定すれば世界は動かなくなります。

産業革命以降、物事が新しいことに移行するには多くの試行錯誤を繰り返し多くの失敗や経験の中から新たな答えを導き出す努力が続いています。

 

高校生の方々にも馴染み深い「ニューバランススニーカー」はスニーカーが誕生して100年も経たのちの製品です。

 

国連が気候変動対策を開始したのは、1992年5月の国連総会で採択された「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」からです。

実際に国連で活動が始まったのは1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されるようになってからであり来年でやっと30年です。

 

今後もコンピューター技術の更なる発展により電気の需要は大幅に拡大するものと予想されています。

 

スマホや充電用のモバイルバッテリーを考えれば電気使用量が世界全体で大きく増えていることが理解できると思います。

 

そのためには更なる発電所が必要になることは必然です。

しかし、G7で決めた石炭火力発電所の廃止を2035年に控え、火力発電所の燃料転換を行う必要があります。

将来の火力発電所の燃料として低品質石炭から抽出した水素を利用する技術の確立ももうすぐそこまで来ています。

 

私はバンコクに住んでいたのでジェット機が排出するCO2に興味を持っています。

東京からバンコクを往復するとジェット機が排出するCO2は乗客一人当たり換算586キログラム。東京、沖縄間往復でも203キログラムです、

CO2排出と生活はそのようにトレードオフの関係にあります。

しかし、航空機利用をためらい何日もかけて陸路や海路をたどって行く方はほとんどいらっしゃらないと思います。

 

よって、すぐにはCO2排出削減を成すことは難しいのです。

 

前述した通り、日本では「何故か?敢えて!」CO2排出量が少ないバイオエタノールを車の燃料として積極的に利用する傾向はありません。

しかし、分別ごみをさらに進めて野菜くずなどを効率よく集めバイオエタノールを製造することは現在の技術で十分に可能です。

日本で一年間に出る生ごみの量は約1000万トンだそうです。

この量はコメの消費量に匹敵します。

 

この技術を利用し2030年頃にはエタノール600万 kL/年が生産される予定であるとの専門家の報告もあります。

この量は一年間に車が消費する燃料の10%にあたるそうです。

 

※現在、アメリカのバイオエタノールの年間生産量は約6,000万キロリットルで、世界全体の約54%を占めています。

 

しかしバイオエタノール生産と食糧生産は負の相関にあり問題も多いのが現状です。

 

であれば、負の相関が生じにくい廃棄する生ゴミによるバイオエタノール製造のためのごみ収集のあり方のアイデアなどを述べれば良いのです。

 

そのような知識とそれを活用し論述できる能力が総合型選抜の小論文に求められる能力です。

 

小論文の課題は学部学科とは関係ないような問題も出題されますので時間をかけて教養を身につけることが肝要です。