今ドイツのテレビ局の番組で日本特集をやってます。
和食の繊細さ、美しさ、おいしさ、健康さを前面に押し出した特集。
沖縄料理を“世界で一番健康な料理”といい
昆布の炒め物、ゴーヤチャンプルー、アーサ汁を紹介。
沖縄のおじい・おばあがそれをモリモリと食べた後
ゲートボールに興じてました。
その画に併せてナレーション。
“Konbu-Tofu und Soya-Goya sind sehr gesund.”
(昆布豆腐、大豆(ドイツ語でゾヤ)ゴーヤはとても健康的。)
ただの言葉遊びですが、
おばあの溌剌とした笑顔と相乗効果で
うっかり笑ってしまった。。。
閑話休題。
サン・モリッツ旅行記を締めますよ。
Pontresinaのスパにて
余計な水分を存分に絞ったあと、
サン・モリッツへ戻り、セガンティーニ美術館へ。
セガンティーニは19世紀末に活動したイタリア人の画家。
北イタリアで暮らした後
SoglioやMorojaといったサンモリッツ周辺(Engadin地方と言います)へ移り住み
アルプスの自然と人を描きました。
作風はいわゆる印象派に分類されるタイプ。
でも、時代的にも丁度重なりはするんですが、
パリの中央画壇とのつながりは強くなかったようで、
南スイスにて独自の境地に至った画風といった方が正しいのかも。
実際晩年の作品に向かって
驚くほど作風が変わって行ってるので。
力強いマチエールの効いた画面が
スーラやシニャックの点描とも、
ヴァン=ゴッホの粗さとも違う、
独自の表現を得ていて、
光が脈打っているというか、流動しているというか、
とにかく実物を目にしないと分からない迫力がありました。
セガンティーニの絵自体は
テレビ画面を通して数回目にしたことはあったんですけど、
当時は全くピンとこなかったのに、
実物を目の前にして衝撃を受けたのでした。
中でもこの小さな美術館を世界的に有名たらしめている
3部作の展示室は一見の価値がある、
というより、もしチャンスがあるなら絶対見るべき場所。
セガンティーニが死の直前まで
描きこんだ3点で、
“La Vita” - 「生」(あるいは「生成」)
“La Natura” - 「自然」(あるいは「存在」)
“La Morte” - 「死」(あるいは「消滅」)
と題された3点の大きな絵画。
結局41歳で急性腹膜炎で亡くなるまでに完成できなかったそうですが、
神が宿るかのような圧倒的な絵の力に気圧されて、
息も殺し、動くのもためらわれる程。
世界を動かしている大きすぎる原理の中で、
人間の営みなんてあまりに小さな物で、
それぞれ広莫な中の風前の灯だけど、
でもそんな人生でも自然に宿る神の美しさを浴することができるし、
死後は自らが万物に溶け込み永遠の存在になる、
といった読解。とっても素直に。
人類の手による環境変動なんて
想像もつかなかった時代の、
近代化に取り残された陸の孤島にて、
世紀末の不安を抱えながら、
神と自分を見つめる目。
生きることの希望を死に見出すかのような、
この世が苦しみの表象であるとでもいうかのような、
でもすべての人に死は約束されていて、
だからこそ人生は美しいとでも言えましょうか。
(ん?なんか危なく聞こえる??)
現代の疲弊した心の根っこにも
ずんと響き共感する情念に、
涙をこらえるのも忘れる時間でした。
絵画と対峙して鳥肌+涙は
ベルト・モリゾの「桜の木」を見て以来でした。
この3部作以外にも小品ながら
素晴らしい作品も何点もあります。
とにかくお勧めの美術館です。
機会があれば是非。
最後におまけ。
セガンティーニがEngadinで過ごした時期に建てられた教会。
20世紀入る直前の竣工にしては、あまりに古風。
当時のこの地域の時間感覚が感じられます。
もうすっかり近代化を経てます。
高級リゾート過ぎて町中お金の臭いがします笑
それでもゆったりとした時間の流れる不思議な町。
というわけでサン・モリッツの週末旅行記3部作終了。
とにかく充実度満点で大満足の旅行となりましたー。