未来予想図

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世界最先端IT国家創造宣言(2)で記事にしたように、
同宣言の掲げる目標について具体的な数値を参照してみると、
現在の達成度を評価した場合、
必ずしも順調に目標に向かっているとは言い難い現状のようですが、
その目標達成のための重要な要素である
自動走行システムに関する研究・開発・実証の現状はどのようなものなのでしょうか。

世界最先端IT国家創造宣言(1)で整理したように同宣言では、次の7つの具体的施策が示されています。

①全国主要交差点におけるインフラの配備
②対応車載機及び高齢者や子供に配慮した歩行者端末の開発・実用化・導入支援
③2020年代前半に準自動走行システムの市場化、2020年代後半以降に完全自動走行システムの試用開始
(そのために、車の自律型システムと協調型のシステムや衛星測位技術等を組み合わせ、運転支援技術の高度化を図るとともに、実用化に向けた公道上での実証を実施)
④移動を支援するロボット技術等を活用した超小型モビリティ(1~2人乗りの超小型車)等の開発、普及拡大
⑤駐車場など、高速道路以外の施設でもETCなどのITS技術が利用可能となる環境を整備し、利便性の向上
⑥安全運転支援、渋滞対策、災害対策等に有効となる交通情報の集約。配信に係る取組
⑦自動車関連情報の利活用のための環境整備を図り、新サービスの創出・産業革新などの取組を推進
<新サービスの具体例>
・テレマティックス等を活用した新たな保険サービス
・自動車の履歴情報を収集・活用したトレーサビリティ・サービス

このうち自動走行システムの導入に関連する施策は、①②③⑥といえるでしょう。

そして、これらの施策を具体的に推進する指針として機能しているのが、SIPの「自動走行システム」分野ということになります。(SIPについては、新交通システムに向けた政府の取組(1)を参照)

SIPに沿って各組織・各企業の取組をみるのは、あとにまわすとして、、、

今回は、自動走行システムを語るうえで、そもそも具体的にどのようなシステムなのか、前提知識を整理しようと思います。

まず、文言の定義を確認しましょう。世界最先端IT国家創造宣言では、「安全運転支援」と「自動走行」とが区別されています。また、自動走行システムの中にも、「準自動走行システム」と「完全自動走行システム」があるようです。

これらは、システムが車の挙動のうちどの部分まで担うか、自動化レベルによる区別です。定義付は各関連団体がそれぞれ行っていますが、ある程度共通した定義として、「安全運転支援システム」とは、運転者による運転行為を原則としつつ加速制動・操舵の車の挙動のうちいずれか1つをシステムが行うというものです。自動化の第一段階といえますが、そのレベルは運転補助程度といえます。「自動走行システム」とは、加速制動・操舵いずれもシステムが行うもので、運転者の介入が必要となる度合によっていくつかの段階に分かれます。自動化レベルが上がっていくにつれ、運転者の役割は副次的なものとなっていき、最終的には不要となります。運転者のバックアップが不要となる最終段階を「完全自動走行システム」といい、それまでの段階を総称して「準自動走行システム」といいます。

さらに、同宣言では、自動走行システムの構造的な区別として「自律型」と「協調型」という2種類が登場します。

これらは、システムを構成するAIの属性による区別です。「自律型システム」とは、運転者が行う認知・判断計画・操作を当該車両だけで行うシステムをいいます。ですから、単純な計算により迅速な操作が可能となりますが、基礎となる情報は運転者の視覚情報とほぼ変わらない(ヒューマンエラーはありませんが)ため、上記宣言が目標としている安全性・効率性の達成という点では不十分といえるでしょう。「協調型システム」とは、認知・判断計画の機能を車両だけでなく、インフラや他車両、歩行者登載のAIも担当し、相互にリンクしマクロな視点を含めて当該車両の挙動を決定するシステムです。より精度の高い行動予測とそれに沿った走行が可能となるため、安全性と効率性を向上させるものでしょうが、高度な計算処理と環境整備が必要となるため、技術の革新が必要で整備のための時間もかかると思われます。完全自動走行システムの達成には、自律型・協調型双方のシステムが成熟し、完全に機能することが求められるでしょう。

以上の定義をふまえて、最終的に実現が予定されている完全自動走行システムが導入された場合の自動車運転像を想像してみます。

運転者という概念は存在しません。搭乗者と呼びます。ナビに目的地を設定し、経路を登録したら、自動走行を開始。搭乗者はバックアップさえする必要はないので、周囲の道路状況を見る必要もありません。バス旅行と同じように全員でトランプやウノを楽しめます。そして、渋滞に巻き込まれることなく目的地に到着。

何だかかなり非現実的ですね。ここまで人間がシステムを信用できるかはわかりませんが、想定としてはこのような社会が実現するわけです。ドライバーという仕事がこの世から無くなるかもしれません。旅客・物流業界のみならず私達の日常も大きく変わるでしょう。その変化の一つが、交通事故が起こった場合の責任問題です。そもそも交通事故は何らかのシステムエラーによってしか起こりえないのですから、システムの精度が上がるにつれて交通事故は減少していくでしょうが、万一起こってしまった場合、運転者でさえなくなった搭乗者に責任はあるのでしょうか。

次回は、想定されている自動走行システムが計画通り完全に導入された場合に、如何なる交通事故が予測され、それに対する法的責任を誰が負うことになるかを仮想してみようと思います。

その仮想により現状を観察するうえで必要な問題意識が明らかになるでしょう。

そして、具体的にSIPに従って如何なる組織・企業がどのような取組みを行っているか、また仮想上負うこととなる法的責任につきどのように対処しているかみてみることにします。

それから、自動走行システムとは直接関係するわけではないので、余談ですが、
世界最先端IT国家創造宣言に示された具体的施策のうち
「テレマティックス等を活用した新たな保険サービス」
というものに、個人的にはかなり興味があります。
どのテーマで書くかはわかりませんが、いつか調べて記事にしたいと思います。