伝えたいこと #05 思い出話 | ポリタンクのなかみ

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会話の中で伝えきれないことってあります。

長いけど、思い出話をしようと思う。

かつてバンドを組んでボーカルとして歌っていたことがある。
大学在学中と卒業してから途中空いたりするが合計で6年くらい歌っていた。
とはいっても、プロを目指すわけではなくオリジナル曲もほぼなしの趣味のコピーバンドだった。

大学時代はひたすら楽しかった。
バンドサークルに所属し、いろんな友達や先輩といろいろなバンドを組んだ。
最初はベースを弾いていたが、
やりたいグループの曲を歌ってくれるボーカルがいなかったので
自分でボーカルをやることになった。

大学のサークル会館(部室)に集まって練習し、
練習が終わると一人暮らしの人の家に行っては
酒を飲みながらいろんなバンドのビデオをみたり、ゲームをやったりした。

洋楽も邦楽もコミックバンドもやった。
大学祭のメインステージにも立った。
サークル内では割と歌は上手い方だったので、
特に悩むこともなくただただ楽しかった。


でも、社会人になってバンドを続けているとライブの主体はライブハウスになる。
ライブハウスでライブをするということは、色々なイベントに参加するということで、
色々なバンドと対バンする機会が増える。
自分達のような趣味のコピーバンドもいれば、本気でプロを目指すバンドも沢山いた。


いろんなバンドと対バンする中で、
僕の歌に対して持っていたささやかな自信とプライドは粉々になった。
歌が自分より上手いバンドが沢山いたのだ。
あまりにも沢山。


そのころ組んでいたバンドは自分の大好きなグループのコピーバンドで、
ドラムとギターの人は頼み込んでメンバーになって貰ったお世話になってる先輩だった。
ベースは強引に引きずりこんだ友人だった。

みんな仕事が忙しい中で個々で練習する時間をとり、
予定を合わせてスタジオを借りて練習する。
そうして1ヶ月2ヶ月と準備をしてライブをするのだ。
そうまでして自分がやりたいといったコピーバンドのために時間を作ってくれているのだ。


バンドの印象は良くも悪くもボーカルが影響する部分が大きい。
ボーカルがしょっぱいバンドは、どんなに演奏が上手くてもしょっぱいのだ。

「バンドのほかのメンバーは自分程度のボーカルで満足していないかもしれない。」
「他のバンドと対バンしたときにボーカルが負けていて情けない思いをしてるかもしれない。」
そう考えると申し訳ない気持ちで一杯になった。

「とにかくもっと上手くならなければだめだ。練習しよう。」
そう考えて仕事の終わった後、カラオケ屋とか何もない草むらでAM2時とか3時までひたすら練習をした。


・・・でも、努力と成果が比例するわけではない。


もちろんある程度上達する部分はあったけど、かけた時間に対して微々たるものだった。
もがいてももがいても成果はあがらない。
やってもやっても上手くならない。

成果が上がらない努力ほど苦しいものはない。
「何故?」「なんのために自分は?」
そんな疑問がぐるぐる頭を巡る。
テンションは次第に落ちていった。


そんな気持ちのままライブを迎えた。


当然上手くいくはずもなく、ボロボロのライブだった。
メンバーはボロボロの結果を責めることなく
「大丈夫?」「今日調子悪いの?」「そういうときもあるよね」
とやさしく声を掛けてくれた。


そのやさしさが苦しかった。痛かった。
自分が情けなかった。


でも、努力するしか方法はない。
睡眠時間を削って練習をした。
ひたすら歌った。
でも中々成果は上がらなかった。


正直もうやめようかと思った。
所詮プロを目指すわけでもない趣味のコピーバンドだし、こんなことに何の意味もないと思った。
一緒にやってくれているメンバーにも聞いてくれる人にも申し訳ないと思った。

でも、もう次のライブの日程は決まっている。
自分がやりたくて始めたバンドだ。
ここで投げ出すのはあまりに他のメンバーに対しても、
聞いてくれた人にも失礼だろう。
そう思って練習し続けた。


そんな中である日、自分のライブ音源を聞いてみた。
基本的に自分の歌を聞くのは好きじゃないからあまり聞かない。
自分の声質があまり好きではないからだ。

「相変わらずひどい声だな」

自嘲しながらそう思った。


でも、ふと思った。

「みんなこの声を聞いているんだな」

そうしたら、気がついた。


僕のこの声は変えられない。
声の出し方は変えれらるかも知れないけど、
声そのものは変えられない。

「この声で歌うしかないんだ。」

そうしたら、一つの考えが頭を巡り始めた。


そうか、声は楽器だ。歌は演奏だ。
この声で、この楽器で
どうしたら一番いい音を出せるかなんだ。
どうしたら一番いい演奏が出来るかなんだ。


僕の持っているこの声は楽器でいえば安物だ。
でも、これしか僕は持っていない。
取り替えることはできない。
他の人が持っているようないい音のする楽器は持っていないんだ。
ストラティバリウスを望んだって手に入らないんだ。


じゃあ、今もってるこの楽器で
今出せる最高の音をだす努力をしよう。
今出来る最高の演奏をする努力をしよう。


思えば僕は
「今よりもっと上達しなければ」
「今よりもっといい声を出さなければ」
とばかり考えて努力をしていた。

そうじゃなくて
「今持っている最高のものを出す努力をしよう。」
そう考えた。


そこで、どうすればいいか必死で考えた。
ひとつひとつの曲のひとつひとつのフレーズと徹底的に向き合ってみようと思った。
まずは次のライブでやる一番好きな曲から。

カラオケ屋に録音できる機器(当時はMDだった)と再生できる機器を一台づつ持ち込んで
一番好きな曲の一番伝えたいフレーズの部分を再生し、歌って録音した。

録音したものを再生して確認して、
もっといい音で、もっといいと思える歌い方に聞こえるようにちょっと変えて歌って録音する。
そうして、20回くらい歌って録音してを繰り返して、全部もう一度聞いてみていいと思った1、2個以外を全部消す。

それを繰り返して、まずは一番好きな曲の一番伝えたいフレーズを納得のいくまでやってみた。
なんとなく今日はもうこれ以上無理だなと思ったら、別のフレーズで同じことをやってみる。

それをできるだけ毎日繰り返した。

通勤中は録音したものの中で一番出来のいいものをひたすらリピートして聞いた。
正直、満員電車で自分の声が音漏れしないかヒヤヒヤした。


そうやって少しずつ納得のいくフレーズを増やして行って
すこしずつ納得の行く曲を増やして行った。

次のライブまでに全ての曲の全てのフレーズについては終わらなかったけど
もっとも歌いたい、伝えたいフレーズの部分については、
今の自分で出来る最高のものとして納得できるようになった。


そうして迎えた次のライブは自分で納得のいくものだった。
見た人からもメンバーからも「一番いい表情で歌っていた」といわれた。

ライブを録音した音源を後で聞いてみた。
前に録音したものと聞き比べると、明らかに全然違うという程違うものではなかった。

でも、
でも、自分では、自分の中では違いはハッキリとわかった。
その違いに納得できた。

自分の中にあった焦燥と不安は消えていた。


自分は大して歌は上手くない。
全然いい声でもない。

でも歌うのは凄く好きだ。
バンドでボーカルとして歌いたい。
この声でも一緒に演奏してくれる人がいて
こんな歌でも聴いてくれる人がいる。
中には歌が、声が好きだと言ってくれる人がいる。

ならば僕に出来ることは
今出来る最高の音で声をだし、
今出来る最高の歌を歌うことだ
むしろ、それしかしかできない。

あとはどう伝えるかだ。

今後上達するかしないかは未来のことだ。
どうなるかわからないただの結果だ。


そう開き直ったら、
他の人の歌が上手いとか、
声がいいとかは気にならなくなった。



今思い出してみると、一番重要だったのは努力の方法でも方向性でもないと思う。

どんどん上達していくときは、どんどんチャレンジしていくのがいいだろう。
停滞した時は今持っている物と向き合うのがいいのかもしれない。

いろんなやり方があって、いろんな方向性がある。
その時々で必要な努力もやり方も違うはずだ。

でも、このやり方が正しい、間違っているなんて所詮結果論だ。
人によって合う合わないもあるし、置かれている環境によって出来ること出来ないことがある。


結局のところ自分が自分のやり方に納得できるかどうかだと思う。
自分がやり切ったと思うことが重要で、
やり切ったら後は開き直るしかないのだ。
開き直れないのは、どこかにやりきったと思えない自分がいるからだと思う。


努力に見合った成果が得られないことは沢山ある。

努力は無駄にならないって人は簡単に言うけれど、
無駄にするかどうかは自分次第だって思うけれど、

成果が上がらない努力は苦しい。


時には落ち込んだり、逃げたりしたっていいと思う。

あきらめなければいい。
また立ち向かえばいい。

どうしていいかわからなくなったら、他の人を頼ればいい。
自分ひとりで生きているわけではないし、
頼った他の人だってひとりで生きているわけではない。

迷って、
負けて、
ちょっと逃げて、
逃げた自分に傷ついて、

また立ち向かって、
たまには上手くいって、
また迷って、
人に支えられて、
人に救われて、

そうやって前に進んでいけばいいんだと思う。

その中で自分が納得できる方法を見つけて、
やり切ったと思うまでやるしかないのだ。


バクステでは間もなくファーストアルバムの選抜メンバーの選抜方法が発表されるだろう。
8月下旬には選考会もあるはずだ。

選考会に置き忘れたものがあるなら、
選考会で取り戻すしかない。

向き合って、やりきって欲しいと思う。


大丈夫。
できるよ。

好きなことだから。
ひとりじゃないから。


だから

大丈夫。


『迷っていい。行こう!』

♯迷いながら ザ・マスミサイル