Taste your life | Hack or Fuck ?

Hack or Fuck ?

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photo credit: silkegb via photopin cc



朝が来て目が覚めたあなたは自分がまだ生きていると思う。そしてまた同じような一日が始まったと思い、溜息を漏らす。なぜ目が覚めたのかと思う。なぜ、夜、眠りについたままにしておいてくれないのかと誰に言うともなく胸の中で思い、それがそのまま重苦しい塊となってずぶずぶと腹の底に沈んでいくと思う。



やっとの思いで起き上がったあなたはなるべく明るく平静を装う。腹の底の塊のことなどなかったかのように明るく振る舞う。それでもふとした瞬間に塊のことを思い出し、あなたの明るさは不意に色彩を失う。なぜ目が覚めてしまったのかとあなたは思う。



その塊はどんな形をしているだろうか。どんな色をしているだろうか。熱を持っているだろうか。それとも冷たいのだろうか。



あなたはその塊に話しかけたことがあるだろうか。





あなたは駅のゴミ箱に突っ込まれた新聞を漁っている。新聞など買うまでもない。早起きのサラリーマンが読み捨てたその日の朝刊は駅のゴミ箱に必ず見つけることができる。あなたがいつしか身につけた「生活の知恵」はすでに習慣と化している。



あなたは覚えているだろうか。



綺麗な新聞を首尾よく手に入れたときの気持ちを。その新聞の手触りを。あなたの関心を引いた記事のことを。そして電車の中で読み終えた新聞を網棚の上にポンと置いて立ち去るときの気持ちを。





あなたは仕事が始まる前からすでにここのところハマっているパチスロのことを考えている。仕事を終えていつものパチンコ屋に入り、狙いをつけているあの台の前に座る自分の姿を思い浮かべている。



スロットをやっているときのあなたの感情はからだのどこからやってくるだろうか。それはどんなイメージだろうか。





あなたは専業主婦で自宅のリビングでソファにどっかりと腰を下ろしテレビのワイドショーでタレントの死を知る。あなたは食い入るように見つめる。なぜ?死因は?そっかぁ、この人も苦労したんだね。でもこの前まで元気そうだったのに。人生って儚いものね。そんなことを思いながらあなたはすでに冷めたお茶を飲み干すと夕食の献立のことを考え始める。公務員の旦那はどうせ今晩もどこかで食べて帰ってくるだろう。





あなたは公務員で毎日真面目に仕事をこなしているが、時々、駅の構内や電車内で盗撮をしている。悪いことだと分かってはいるがなかなかやめることができない。そして今のところ捕まるようなヘマはしていない。それなりに工夫をしているのだ。最近では色んな仕掛けを考えているときが一番自分らしいとさえ思えることがある。そして今、あなたはターゲットを見つける。





あなたは独身のアラフォーで仕事帰りの電車の窓ガラスに映る自分を見ている。この「おばさん」は誰だろうと思う。覚えている記憶とまるで結びつかないと思う。若い頃の記憶はそもそも他人のもので、私はずっと前から「おばさん」だったのではないかとさえ思えることがある。





ボンヤリと夕暮れの車窓に映る自分の姿を見つめるおばさんに不自然に近づくおじさんをチラリと見て、すぐに音を消したゲーム機に熱中する小学生のあなたはこれから塾に向かっている。塾に行くのはどちらかと言えば好きじゃないけど、この時間は嫌いじゃない。どちらかと言えば好きかも。誰にも邪魔されずにゲームできるから。





こいつガキのくせに新型持っているんだと吊り革に掴まったあなたはゲームに熱中する子どもを眺めて思う。親が金持ちなんだろうなと思い、これから始まる夜勤の時給のことを考えると情けなくなりそうなので、頭の中で、「人生詰んだ。オワタ。(爆笑)」と書き込む。





詰んだとかオワタとか何なんだよとチェルノブイリ関連の画像をひとしきり眺めた後、息抜きのつもりで見たネット掲示板を見てあなたは呆れる。目に焼き付いた「象の足」の画像が点滅している。そんなんでオワタとか言ってるからダメなんだよ。でも、オワタって言い方ちょっと面白いな。今度使ってみよう。オワタ、オワタ。





終わりなどないのです。それは変化なのです。魂は永遠です。ありとあらゆるスピリチュアルリーダーたちが口を揃えている。あなたと他人という分離は幻想なのですという。それを聞いたあなたは複雑な気持ちになる。喜ぶべきか悲しむべきか、いまひとつ判然としないあなたはふと自分の腹の底にある塊を思い出す。そしてふとそれに話しかけてみようと思い始めている。