赤い夕日が、山の向こうに沈むころになると、

少女サーヤの胸に、寂しい思いが込み上げてきます。


友だちは、みんな、親が待つ家へ帰っていくのに、

サーヤには笑顔で迎えてくれる両親がいないのです。

幼い時に死別したのでした。


孤児となったサーヤは、ある財産家のところに引き取られて働いていました。

赤ん坊の世話と食器を洗うのが毎日の仕事でした。


サーヤは、温かく抱き締めてくれるお母さんが

もうこの世にいないと思うと、切なくて涙があふれてきます。


遊んでいた友だちが帰ってしまうと、道ばたに座り込んで、

いつしか大きな声で泣いていました。

まだ10歳の子供なのです。


そこへ一人の僧侶が通りかかって声をかけました。


「お嬢ちゃん、どうしたの?

 ほら、夕焼けが、あんなにきれいだよ」


サーヤが泣きやむと、僧侶は、にっこり微笑んで、

泣いていた訳を尋ねたのでした。


「お坊さん、ありがとう。

 死んだお父さん、お母さんのことを考えると、

 また会いたいと思って涙が出てしまうの……」


「そうか、独りぼっちなのか。

 おまえには難しいかもしれないが、

 お釈迦さまは、人間は皆、独りぼっちだと教えておられるんだよ」


「私だけじゃないの?

 じゃ、どうすれば、この寂しい心がなくなるの?

 お釈迦さまのお話が聞きたい……」


サーヤは、たたみかけるように質問しました。


「だれでもお話を聞くことができるんだよ。

 いつでもおいで」


喜んだサーヤは、主人の許しを得て、

お釈迦さまのお話を聞きに行くようになりました。


ある日のことでした。

夕食を終えた主人が、庭を散歩していると、

サーヤが大きな桶(おけ)を持ってやってきます。


「何をするつもりだろう?」


と見ていると、


「ほら、ご飯だよ。ゆっくりおあがり。ほらお茶だよ……」


と話しかけながら、桶の水を草にかけ始めたのです。


「はてな? ご飯? お茶? 何を言っているのだろう?」


主人は、サーヤを呼んで訳を聞きました。


「はい、お茶碗を洗った水を、草や虫たちに施しておりました」


「そうだったのか。

 だが〝施す〟などという難しい言葉を、誰に教わったのかね?」


「はい、お釈迦さまです。

 毎日、少しでも善いことをするように心掛けなさい、

 悪いことをしてはいけませんよ、と教えていただきました。

 善の中でも、一番大切なのは『布施(ふせ)』だそうです。

 貧しい人や困っている人を助けるためにお金や物を施したり、

 お釈迦さまの教えを多くの人に伝えるために

 努力したりすることをいいます。

 私は、何も持っていませんから、

 ご飯粒のついたお茶碗をよく洗って、

 せめてその水を草や虫たちにやろうと思ったのです」


「ふーん、サーヤは、そんなよいお話を聞いてきたのか。

 よろしい。

 お釈迦さまのお話がある日は、仕事をしなくてもいいから、

 朝から行って、よく聞いてきなさい」


「本当ですか。うれしい!

 ありがとうございます」


サーヤの無邪気な笑顔が光っていました。


明日につづきます。


◆ ひとりごと ◆


「スラムダンク」や「バガボンド」などで知られる

マンガ家の井上雄彦さんが東日本大震災発生の翌日から、

被災者を励ますために「smile」と題したイラストを

ツイッター上に描き続けています。

http://twitpic.com/photos/inouetake


「FUKUSHIMA」「MIYAGI」「IWATE」「IBARAKI」など

県名が書かれたユニフォームを着た少年、少女たちの

生き生きとした表情、眼差しには力があります。

その数は既に50枚になろうとしています。


思い出すのは、スラムダンクに登場する安西先生の名言。

「あきらめたらそこで試合終了だよ」

その安西先生の“smile”もありました。

http://twitpic.com/48qcsj


被災された皆さんへのあたたかい励ましのメッセージを感じました。


“smile = 笑顔”には、他人も自分も幸せにする力があるから、

“笑顔”は、幸せの種まきですね。


被災地での努力、忍耐、協力などがなされる中で、

続く余震の不安、安否が確認できず、情報も伝わらず、

物資もうまく届かないような報道に、

もどかしい気持ちになります。

被災地の方々のストレスは相当のものと思います。


状況がどのようになっても、

間違いのないことは、被災地の方も、被災地を見守る皆さんも、

誰もがみんな、しあわせを願っている、ということだと思います。


持てるエネルギーを、みんなが幸せに向かう方向に向ければ、

義援金や、物資を送ることにとどまらず、

できる種まきがいろいろあると思いました。


井上雄彦さんのような活動に、そのことを気づかされました。


私は私の、できる種まきを、精一杯したいと思います。




* 公共施設を使用して全国各地で仏教勉強会を開催しています。

仏教のこと、親鸞聖人のことがわかる勉強会です。

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