「馬三家からの手紙」

 LETTER  FROM  MASANJIA

 (2018年/カナダ)


【作品紹介】
米オレゴン州に住む女性ジュリー・キースは、2年前にスーパーで購入した中国製のハロウィン飾りの箱の中から1通の手紙を発見する。
それは中国で政治犯として捕らえられた孫毅(スン・イ)という男が "恐怖の城"と呼ばれる馬三家(マサンジャ)労働教養所の中で書いたSOSの手紙だった。
世界を驚愕させたこのニュースの当事者である孫は、釈放後にカナダ在住の映画作家レオン・リーに連絡を取り、当局の圧力と監視をかい潜りながら、真実を世界に伝えるため映画製作に執念を燃やす。
今なお続く強制労働施設の想像を絶する拷問と洗脳の実態と、中国共産党が世界中に張り巡らす言論と思想弾圧の恐怖を明らかにする驚愕のドキュメンタリー。

監督/レオン・リー

出演/孫毅、ジュリー・キース、付寧、江天勇

76分


https://eiga.com/movie/92512/video/

 

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【レビュー】


NHKーBSで放送されたTV版は、短めに編集されていたので、どうしても劇場用完全版が観たくなり、上映期間ギリギリに新宿のK'sシネマに足を運びました。

コロナ自粛明けでまだ観客も少ない静かなミニシアターの2列目で、いい歳こいたオッさんは号泣してしまい、エンドロールが終わっても、しばらく席から立ち上がれませんでした。

これほど強烈に心を打たれたドキュメンタリー映画はここ数年ありません。



中国は3年間住んだことがあるので、思い出深く愛着もあり、現地にはたくさんの友人もいて、彼ら彼女らのことは大好きです。

しかしこの国が経済的にも技術的にも世界をリードする超大国になったとはいえ、各国から尊敬され信頼される真のリーダーになることは、今の一党独裁の体制が続く限り不可能でしょう。

というより絶対そうなってはいけないと思います。



アメリカをはじめ世界各地で沸き起こっている人種差別への反対デモ。

これは世界共通の問題でもありますが、民主主義の国々だからこそ、不条理な弾圧に対して恐れる事なく連帯して、自由に声を上げ、実際に行動することができます。

しかし中国共産党が長年にわたり国民に行なっている言論、思想の弾圧、少数民族への迫害は、自由に声を上げることすら出来ません。

その権力が立ちはだかった時、人々は自分の命や家族を守るため、怒りから目を背け、受け入れることしかできないのです。



この作品は、妻を愛する物静かで平凡な男が不当な罪で捕らえられ、政府の監視と圧力に苦しみながらも、自由と正義を求めて闘う、まさに命がけの記録です。

彼のSOSを偶然受け取ったアメリカ女性との心の交流も、深く胸を打ちます。

そして自由と平和が当たり前にある自分たちが、何を見て、何に怒って、何に声を上げているのか、どんな信念を持っているのかを考えて、あまりに軽過ぎて恥ずかしく、いたたまれなくなりました。



現在、上映している映画館は全国でも数えるほどですが、きっとまたこの作品は日本のどこかで上映され続けると思います。

DVDも発売されたり、動画で配信される日も近いうちにやって来るでしょう。

重いテーマに中々食指が伸びない方もいるでしょうが、孫毅の物腰や語り口は非常にソフトで心地好く、ストーリーも追い易いし、観始めればグイグイ引き込まれます。


まだ私たちが知らない、世界で起きている信じがたい現実を、まずは知ることから始めてほしい。

これは心の底から、出来るだけ多くの人にお薦めしたい、いや、絶対観てほしい一本です。