究極のゴルトベルク
ヴィキングル・オラフソン+清水靖晃&サキソフォネッツ
【日時】
2023年12月9日(土) 開演 14:00
【会場】
住友生命いずみホール (大阪)
【演奏】
<第1部>ピアノ:ヴィキングル・オラフソン
<第2部>清水靖晃&サキソフォネッツ
テナー・サキソフォン:清水靖晃
<サキソフォネッツ>
林田祐和、田中拓也、東 涼太、鈴木広志(sax)
佐々木大輔、中村尚子、高橋直人、出町芽生(cb)
【プログラム】
<第1部>ヴィキングル・オラフソン
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 (全曲)
<第2部>清水靖晃 &サキソフォネッツ
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 (清水靖晃編曲 5サキソフォン 4コントラバス版)
近年人気のあるピアニスト、ヴィキングル・オラフソンのピアノリサイタルを聴きに行った。
彼の実演を聴くのはこれが初めて。
バッハのゴルトベルク変奏曲を、前半はピアノ・ソロで、後半はサキソフォンアンサンブルで演奏するという、一風変わったプログラムである。
バッハのゴルトベルク変奏曲。
この曲のピアノ版で私の好きな録音は
●シフ(Pf) 1982年12月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●シフ(Pf) 1990年ノイマルクトライヴ盤(DVD)
あたりである。
この曲の録音では、グールドの新旧セッション盤があまりにも有名だが、私にとってゴルトベルク変奏曲のピアノ版というと、上記シフの旧盤とライヴDVDをおいて他にない。
立派だがエキセントリックで自身の主張が目立つグールドに対し、シフは古楽器奏法をも意識したバロックらしい様式感、すなわち統一性のある穏やかなテンポ設定とその心地よい揺らぎ、また驚くほど繊細な歌ごころを持ち(特に左手!)、バッハへの敬意と慈愛に満ちている。
シフ自身をもってしても、再録音においてふたたびこれらに及ぶことはできなかったほどの、人間がなしえた最高の至芸の一つである。
今回のオラフソンは、どちらかというとグールド・インスパイア系の演奏だった。
アリアをゆったりとロマン的に弾く点はグールド新盤を、第1変奏や第5変奏を速く弾く点はグールド旧盤を思わせる(第5変奏は新盤でも速いが)。
グールドと逆のテンポを採る変奏もあるが、統一性よりは極端さが目立つテンポ設定はグールドのマインドに近い。
グールドと異なる点は、ペダルを多用すること。
例えば第28変奏のようにペダルが合いやすい変奏は良いのだが、第29変奏のようにペダルが合いにくい変奏では響きが濁ってしまうのが難点である。
響きの純度への感性にかけては、グールドが一枚上手といったところか。
それでも、速い変奏での指捌きはスムーズだし、逆にゆったりした変奏では適度にロマン的な情感表現が聴かれ、音色もきれいで、なかなかの腕前を持つことは確か。
奇才かといわれると違うように思ったが、グールド(あるいはシフもか)を多かれ少なかれ意識せざるをえない現代のピアニストのゴルトベルク演奏において、先人の偉業を彼なりに消化して出した一つの解答として、評価されるべきものだろう。
少なくとも、生で聴いたゴルトベルク変奏曲のピアノ版としては、やや気まぐれな印象のあったヒューイットのもの(その記事はこちら)よりも聴きごたえを感じた。
バッハのゴルトベルク変奏曲のサキソフォンアンサンブル版は、私は今回初めて聴いた。
ピアノやチェンバロで聴くよりも色彩的で、続けて聴いてもまるで別の曲のように楽しめる。
奏者たちの中では、特に林田祐和がどの変奏でもしっかり安定していて、かなりの腕前と感じた。
プロフィールを見ると、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターとのことで、むべなるかな、である。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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