今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
好きな指揮者、エドワード・ガードナーの新譜が発売された。
曲目は、ブリテンのオペラ「ピーター・グライムズ」である(NML/Apple Music/CD)。
詳細は以下の通り。
![](https://img.hmv.co.jp/news/image/hmv_pc/20/0727/news1035163.jpg)
ブリテン『ピーター・グライムズ』
スチュアート・スケルトン、エドワード・ガードナー&ベルゲン・フィル
2015年にノルウェーの名門オーケストラ、ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任し、絶賛されたエディンバラ国際音楽祭や7度の国際ツアー、数々のレコーディングを通じてベルゲン・フィルの魅力を世界に伝えてきた次代を担うマエストロ、エドワード・ガードナー。2021年からはユロフスキの後任としてロンドン・フィルの首席指揮者に就任することが発表されましたが、ベルゲン・フィルとの契約も2年間延長し、2023年まで首席指揮者のポストを継続しています。録音でも、ベルリオーズやシェーンベルクなど、とりわけ合唱を伴う大編成作品で高い評価を得てきたガードナーとベルゲン・フィルの強力タッグによる新録音。ベンジャミン・ブリテンの代表作である悲劇的な傑作オペラ『ピーター・グライムズ』が「Chandos」の優秀録音によるSACDハイブリッド盤で登場!
初演時にはピーター・ピアーズが担ったタイトル・ロールは、2012年の新国立劇場を始め、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、BBCプロムス、エディンバラ国際音楽祭、そして2019年のガードナー&ベルゲン・フィルの国際ツアーなどでピーター・グライムズを歌ってきたハマり役、スチュアート・スケルトン。ベルゲン・フィルの本拠地、グリーグホールで行われたコンサートの後に、万全の態勢でスタジオ録音されています。(photo by Benjamin Ealovega)(輸入元情報)
【収録情報】
● ブリテン:歌劇『ピーター・グライムズ』 Op.33 全曲
スチュアート・スケルトン(テノール/ピーター・グライムズ:漁夫)
エリン・ウォール(ソプラノ/エレン・オーフォード:寡婦、村の女教師)
サミュエル・ウィンター(少年(ジョン)、徒弟)
ロデリック・ウィリアムズ(バリトン/ボルストロード船長:退役船長)
スーザン・ビックリー(メゾ・ソプラノ/アーンティ:ボーア亭の女将)
ハンナ・フサール(ソプラノ/姪1:ボーア亭の看板娘)
ヴィベケ・クリステンセン(ソプラノ/姪2:ボーア亭の看板娘)
ロバート・マーリー(テノール/漁夫、メソジスト教徒)
ニール・デイヴィス(バス・バリトン/スワロー:判事)
キャスリン・ウィン=ロジャーズ(メゾ・ソプラノ/セドリー夫人:東インド会社代理人、未亡人)
ジェイムズ・ギルクリスト(テノール/ホレース・アダムス:牧師)
マーカス・ファーンズワース(バリトン/ネッド・キーン:薬剤師でヤブ医者)
バーナビー・レア(バス/ホブソン:保安官、運送屋)
ベルゲン・フィルハーモニー合唱団
エドヴァルド・グリーグ合唱団
ロイヤル・ノーザン・カレッジ・オブ・ミュージック合唱団
コレギウム・ムジクム合唱団
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団
エドワード・ガードナー(指揮)
録音時期:2019年10月24日、11月25-27日
録音場所:ノルウェー、ベルゲン、グリーグホール
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
SACD Hybrid
CD STEREO/ SACD STEREO/ SACD SURROUND
以上、HMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。
ブリテンの「ピーター・グライムズ」というと、私はこのオペラの管弦楽曲の抜粋組曲である「4つの海の間奏曲」をネゼ=セガンが振った録音を愛聴している。
ドビュッシーの管弦楽曲とカップリングしたこのネゼ=セガン盤は、すっきりした精緻な表現でこの曲を印象派風に扱っている。
それに対し、今回のガードナーによる全曲盤は、彼が得意とするエルガーやウォルトンに通じるような、よりロマン派風の解釈である。
例えば、第1幕第1場への間奏曲「夜明け」では、ネゼ=セガン盤に負けず劣らず現代的洗練に達した演奏でありながら、音楽の方向性は異なり、ヴァイオリンのメロディはまるでエルガーのように甘美な歌になっている。
続くホルンも、ネゼ=セガン盤のように音を際立たせてハーモニーの美を楽しむのではなく、遠くから響くこだまのように控えめな弱音で奏しており、情景描写的。
そのかすかな響きを少しずつ大きくして、この間奏曲の終盤に向けてクライマックスを形成するのも、ロマン派的な発想である。
また、クライマックスというと、第1幕第2場への間奏曲「嵐」もすごいし、何といっても第3幕第1場終盤の群衆の絶叫のシーンが白眉。
ここでのガードナー盤の迫力は、ロマン主義あるいは表現主義の行きついた終着の一つ、とでも言いたくなるほど。
これは、例えばクルレンツィスが振ったベルクの「ヴォツェック」第3幕第2場終盤の、あの凄まじいクライマックスを想起させる。
ガードナーのロマン派的な表現は、前衛化しても歌を忘れないイギリスらしい音楽性というべきか、ブリテンの自演盤にも通じるところがあり、印象派的な表現よりも本来この曲にふさわしいとも言えるかもしれない。
それに加え、ブリテン自演盤やコリン・デイヴィス新旧盤など名高いイギリス人指揮者たちの既存盤に比べ、洗練度や音質の点で優っている(歌手はこれらの盤に敵わないけれど)。
総合的には、「ピーター・グライムズ」で最も強く推せる盤となった。
現在45歳のガードナー。
コリン・デイヴィスやマーティン・イェーツに続く(あるいはともすると上回る)イギリス音楽のスペシャリストになるのではないか、と私は期待している。
いつかぜひ、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集など録音してほしいものである。
https://www.youtube.com/watch?v=vDY55QKDvo0&list=OLAK5uy_n_hk-FEpeW7elAchjjd9EvVa_Bp5-Imr4
※YouTubeのページに飛ばない場合は以下のURLへ
https://www.youtube.com/watch?v=vDY55QKDvo0&list=OLAK5uy_n_hk-FEpeW7elAchjjd9EvVa_Bp5-Imr4
↑ ブログランキングに参加しています。もしよろしければ、クリックお願いいたします。