クレア・フアンチ 東京公演 ショパン バラード第1番 ラフマニノフ 前奏曲集より抜粋 ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

クレア・フアンチ ピアノリサイタル

 

【日程】

2019年3月8日(金) 開演 19:00 (開場 18:30)

 

【会場】

サントリーホール ブルーローズ (東京)

 

【演奏】

ピアノ:クレア・フアンチ

 

【プログラム】

スカルラッティ:ソナタ ト長調 (K.260, K.13, K.124, K.125, K.144, K.454, K.470, K.284)

ショパン:3つの夜想曲 作品9 (第1番 変ロ短調、第2番 変ホ長調、第3番 ロ長調)

ショパン:バラード 第1番 ト短調 作品23

ラフマニノフ:幻想的小品集 作品3 より 第2曲 嬰ハ短調 「鐘」

ラフマニノフ:10の前奏曲 作品23 より 第1番 嬰ヘ短調、第2番 変ロ長調、第3番 ニ短調、第4番 ニ長調、第5番 ト短調、第6番 変ホ長調、第7番 ハ短調

ラフマニノフ:13の前奏曲 作品32 より 第4番 ホ短調、第5番 ト長調、第6番 ヘ短調

 

※アンコール

グルダ:アリア

グルダ:「弾け、ピアノよ、弾け」 より 第6曲 トッカータ

スカルラッティ:ソナタ K.29 ニ長調

スカルラッティ:ソナタ K.435 ニ長調

 

 

 

 

 

クレア・フアンチのピアノリサイタルを聴きに行った。

期待通りの素晴らしい演奏。

ロマン的な魅力にあふれているけれど、決して耽溺することのない、快活な表情付けや前向きなリズム感が小気味よい。

音色も、ひたすら柔らかくというよりはやや硬質で、ペダリングも薄めのことが多く、全体的に音楽の明瞭度が高い。

感情に身を任せるのでなく、感情を知性とセンスとでうまくコントロールしている。

彼女のこうした音楽づくりが、私は好きである。

 

 

なお、用事があって間に合わず、最初のスカルラッティは聴くことができなかった。

私が聴けたのは、ショパンのノクターン第1、2、3番から。

これらの曲で私の好きな録音は、

 

第1番

特になし

 

第2番

●コルトー(Pf) 1949年11月4日セッション盤(NMLCD

●フアンチ(Pf) 2016年セッション盤(NMLApple MusicCD

 

第3番

●ホジャイノフ(Pf) 2010年ショパンコンクールライヴ盤(CD

●プーン(Pf) 2018年私家動画(Patreon登録者限定公開) ※リハーサルのみ

 

あたりである。

今回の演奏でも特に第2番が美しく、ロマン的でありながらもべたつかない、彼女特有のさらりとした音楽的センスがこの曲によく合っていた。

曲の終盤の装飾音型も、これ以上ないほど滑らかで繊細。

第3番は、個人的にはもう少しべたついてもいいかなと思ったが(このあたりはプーンがうまい)、それでもさわやかで美しかった。

 

 

次は、ショパンのバラード第1番。

ショパン初期の最高傑作であるこの曲で、私の好きな録音は、

 

●ポリーニ(Pf) 1968年4月17-21日、7月1-3日セッション盤(NMLApple MusicCD

●ポリーニ(Pf) 1974年4月?ライヴ盤(CD)

●フアンチ(Pf) 2010年ショパンコンクールライヴ(動画

●プーン(Pf) 2017年ルービンシュタインコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

かっちりとしたポリーニ、生き生きとしたフアンチ、しっとりとしたプーン、と三者三様の演奏。

今回のフアンチの演奏も、やはりすごかった。

メロディの歌わせ方がうまく、隅々までセンスに満ちている。

第2主題が分厚い和音になって展開される部分も、ただガンガン弾くだけでなく、力を入れるところと抜くところの加減が絶妙である。

テクニック的にもきわめて安定していて、軽やかな走句部分など、薄めのペダルでよくここまで、という鮮やかな弾きっぷり。

ただ、コーダについてだけは、上記ショパンコンクール時の動画の演奏のほうが好きだった。

今回はコーダでもかなり薄めのペダリングで軽やかに奏されていたが、上記動画のように、二拍ごとに(裏拍で)ペダルを踏みバスの単音に重みを出す解釈のほうが、私としては好みである。

とはいえ、楽譜にはこれらの単音バスにはスタッカートが付され、ペダルも外すよう書かれているため、むしろ彼女の熱心な譜面研究の成果ともいえるかもしれない。

いずれにしても、演奏のうまさには文句のつけようもない。

 

 

休憩をはさんで、後半はラフマニノフの前奏曲集抜粋。

この曲集で私の好きな録音は、

 

●ラフマニノフ(Pf) op.23-5, op.32-5, 12 1920~21年セッション盤(Apple MusicCD

●ラフマニノフ(Pf) op.3-2 1928年4月4日セッション盤(NMLApple MusicCD

●ラフマニノフ(Pf) op.23-10, op.32-3, 6, 7 1940年3月18日セッション盤(NMLApple MusicCD

●リヒテル(Pf) op.23-2, 4, 5, 7, op.32-1, 2 1959年4月セッション盤(Apple MusicCD

●リヒテル(Pf) op.23-1, 2, 4, 5, 7, 8, op.32-1, 2, 6, 7, 9, 10, 12 1960年10月28日ニューヨークライヴ盤(Apple MusicCD

●ルガンスキー(Pf) op.3-2, op.23-1~10 2000年セッション盤(NMLApple MusicCD

●マイボロダ(Pf) op.3-2, op.23-2, 10 2015年浜コンライヴ盤(CD)

●マイボロダ(Pf) op.23-4 2017年1月?(動画

●ルガンスキー(Pf) 全曲 2017年9月セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

これらはすべて「ラフマニノフらしい」重みのある演奏だが、フアンチの弾くラフマニノフはもっと軽々とした、切れ味の鋭いものである。

私のイメージするラフマニノフとは少し異なるが、これはこれで素晴らしい。

op.3-2、およびop.23からの7曲も良かったが、op.32からの3曲はさらに素晴らしかった。

2013年のクライバーンコンクールでも弾いた、彼女の得意曲だからかもしれない(そのCDはこちら)。

あるいは、ピアノ協奏曲第2番と同時期に書かれた抒情的なop.23よりも、ピアノ協奏曲第3番と同時期に書かれた、やや現代的で乾いたところのある(少しプロコフィエフ寄りの)op.32のほうが、フアンチに合っているから、ともいえるかもしれない。

この3曲は、今回の演奏会でも白眉と言ってよかった。

畳みかける和音連打のあまりにも鮮やかなop.32-4、ショパンの「アンダンテ・スピアナート」を思わせる情感豊かな歌に満ちたop.32-5、そしてスリリングな推進力で息もつかせぬop.32-6。

これら3曲については、上記の各種名盤を超えるほどの出来栄えだった。

 

 

アンコールの1曲目は、グルダのアリア。

この曲は昔、自演録音をよく聴いたものである。

何ともいえない、懐かしい気分になった。

フアンチの演奏の、他人に涙を見せまいとするかのような、さらりとした美しい情感が心を打つ。

こうした点においては、グルダとフアンチはよく似ている(もちろん、違う点もたくさんあるけれど)。

 

 

アンコールの2曲目は、グルダのトッカータ。

この曲、私は知らなかった。

ガーシュウィン/上原ひろみの「I've Got Rhythm」後半急速部分(同音連打が特徴的)と、同じく上原ひろみの「The Gambler」を併せたような、エキサイティングな曲である。 

そう、以前から感じていたことだが、上原ひろみとフアンチも共通した音楽性を持っている。

両人ともセンスの塊であり、かつ聴き手を爽快にさせる「元気が出るピアノ」を弾く。

 

 

アンコールの3、4曲目は、スカルラッティのソナタ。

最初にスカルラッティが聴けなかったので、アンコールで聴けたのは嬉しかった。

特に、彼女自身のCDよりもさらに相当速いテンポによる、羽のように軽やかなK.29が印象的だった。

 

 

 

 

 


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