NHK交響楽団 大阪公演 ソヒエフ リムスキー=コルサコフ シェエラザード ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

NHK交響楽団演奏会 大阪公演

 

【日時】

2019年1月20日(日) 開演 16:00 (開場 15:15)

 

【会場】

NHK大阪ホール

 

【演奏】

指揮:トゥガン・ソヒエフ

管弦楽:NHK交響楽団

(コンサートマスター:篠崎史紀)

 

【プログラム】

フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」作品80

ブリテン:シンプル・シンフォニー 作品4

リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」作品35

 

 

 

 

 

N響の大阪公演を聴きに行った。

指揮は、若手の注目株、トゥガン・ソヒエフ。

 

 

以前の記事で、ソ連時代末期(1970年頃の生まれ)のピアニストに素晴らしい才能が多い旨を書いた(その記事はこちら)。

指揮者についても似たようなことが言え、キリル・ペトレンコ、ウラディーミル・ユロフスキ、ヴァシリー・ペトレンコ、キリル・カラビツといった人たちがいて、みな傑出した才能を持っている。

その一人に、トゥガン・ソヒエフも挙げられると思う。

 

 

ネゼ=セガンやユロフスキなど同世代の名指揮者に比べると、ソヒエフの録音はまだそれほど多くはない。

しかし、フランスのトゥールーズ・キャピトル国立菅の音楽監督である彼は、同オーケストラとチャイコフスキーの交響曲第4、5番や、ストラヴィンスキーの「火の鳥」「春の祭典」などを録音しており、いずれもなかなかの出来である。

また、近年はベルリン・ドイツ響とプロコフィエフ作品集の録音が進められており、交響曲第5番やスキタイ組曲は私の好きなラトル&バーミンガム市響盤に迫る名演だし、最新録音の交響曲第1番に至っては同曲で最も好きな録音と言っていいかもしれない。

ソヒエフの指揮には現代的な洗練があり、これらの派手な曲でもその解釈はあくまで緻密。

また、例えばユロフスキのような溌剌とした力強さと比べると、どこか肩の力を抜いたような軽々とした趣があり、そういったところが彼の特徴であり魅力だと思う。

 

 

そして今回、ソヒエフの演奏を初めて生で聴いてみて、上に書いた印象を改めて実感すると同時に、彼の音楽性はロシア音楽において最もいかんなく発揮されるのではないか、と感じた。

上述のように、彼の録音はもっぱらロシア音楽であり、彼のロシア音楽以外の演奏を今回私は初めて聴いた。

最初の曲は、フォーレの「ペレアスとメリザンド」。

細部まで練られた美しい演奏なのは確かなのだが、フレーズの波の作り方というか、デュナーミクの膨らませ方が何とも言えず華やかで、まるでチャイコフスキーのバレー音楽でも聴いているかのようなのである。

これはこれで良いと思うし、例えば私の好きな同曲録音である、

 

●ジョージアディス指揮RTEシンフォニエッタ 1995年3月23-24日セッション盤(NMLApple MusicCD

●サラベルジェ指揮ルーアン・オート・ノルマンディ歌劇場管 2011年7月18-22日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりと比べても洗練度はむしろ高いと思うのだが、これら2盤に聴かれるそこはかとない哀感(前者はしっとりとして嫋やか、後者はあっさりとして爽やか、という違いはあれど)は、今回のソヒエフ&N響の演奏からは感じられなかった。

フォーレが大好きな私としては、哀しみのうちに湛えた微笑み、あるいはさりげない孤独感、こういったものがどうしても欲しい。

ただ、これは贅沢な次元での話である。

十分に良演だったと思うし、次の曲、ブリテンの「シンプル・シンフォニー」では、私としては

 

●ベッドフォード指揮ノーザン・シンフォニア 1998年7月16-17日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりの録音がまあまあ好きではあるけれど、フォーレほどの思い入れがないためもあってか、今回のソヒエフ&N響による精密かつチャイコフスキー風の華やかさを持つ演奏が、上記録音以上に気に入った。

 

 

そして、後半のプログラムは、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」。

この曲が個人的に苦手であることは、以前の記事にも少し書いた(その記事はこちら)。

これぞ、といった録音にもまだ出会っていない。

しかし、今回のソヒエフ&N響の演奏は、大変な名演だった。

彼ならではの、細部にわたる精緻なコントロール、大音響でも力むことのない軽やかで柔軟なオーケストラ・ドライヴ、そしてロシア音楽にふさわしい華やかな音色、力感、音の広がり。

正直言って「やかましくて長いだけの曲」と思っていたこの曲が(言い過ぎ?)、何とも魅力的に様変わりしていた。

それも、この曲の隠れた味わいを引き出す変化球的な演奏というよりは、この曲らしい華麗な演奏効果を前面に出したうえでの、直球の名演だった。

間違いなく、これまでに聴いた同曲の最高の演奏である。

 

 

トゥガン・ソヒエフ、本物の才能を持つ指揮者の一人だと感じた。

彼にはぜひこのままプロコフィエフの交響曲全集の録音を完成させてほしいし、今回の「シェエラザード」をはじめ、ロシア音楽を中心に様々な曲をレコーディングしていってほしいものである。

 

 


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