(最近気になる指揮者 シモーネ・ペルジーニ) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想でなく、別の話題を。

最近注目している指揮者、シモーネ・ペルジーニ(Simone Perugini)について、少し書きたい。

彼は、1975年フィレンツェ生まれのイタリアの指揮者。

18世紀のいわゆる「ナポリ楽派」のオペラ、現代のオペラハウスではほとんど取り上げられなくなった「忘れられた傑作」を、集中的に蘇演している人らしい。

彼の経歴についてはこちらのページを参照されたい(イタリア語だけれど)。

昨年、彼はパイジエッロの「奥様女中」(Apple Music)や「セヴィリアの理髪師」(Apple Music)、チマローザの「秘密の結婚」(Apple Music)といったオペラの録音を立て続けにリリースしており(オーケストラは「Harmoniae Templum Chamber Orchestra」)、これらがいずれも実に素晴らしい出来なのである。

 

 

ペルジーニの特徴を一言で表すと、「やや荒削りなテオドール・クルレンツィス」といったところか。

彼には、クルレンツィスほどの微に入り細を穿ったマニエリスティックなまでの繊細さ、細部の表現へのこだわりはない。

ただ、彼の演奏のもつ血沸き肉躍るような躍動感は、クルレンツィスに通じるところがある。

パイジエッロやチマローザら、モーツァルトと同時代の作曲家たちによる楽しいオペラ・ブッファが私は好きで、これまでの他の同曲録音とは段違いに活気あふれるペルジーニの演奏が次々リリースされるのは、大変嬉しい。

 

 

そもそも、モーツァルトという人は、バッハやハイドンのような独墺系のかっちりした様式美と、パイジエッロやチマローザのようなイタリア系の快活なアレグロ、それから彼自身の優美で繊細な旋律や和声感、こういったあらゆる要素を全て兼ね備え、それもごった煮ではなくて、統一された様式感で全体をぴしっとまとめ上げることのできた、音楽史上でも稀有な存在だった。

そんなモーツァルトのオペラには、クルレンツィスのやり方―古典作品であってもルーチンワークになる瞬間が少しもなく、生きた躍動感やめくるめくドラマ性を常に鮮やかに表現し(ときには抒情性さえも)、それでいて奇異性を求めた恣意的な解釈ではなく、様式感を大事にしながら曲そのものの魅力を一つ一つ丁寧に汲んでいった結果にほかならない―そんなアプローチが、きわめてよく合っている。

それに対し、パイジエッロやチマローザのオペラはもっとイタリア的というか、堅苦しいことやじめじめしたことを極度に嫌う、カラッと乾いた「地中海のノリ」を前面に出した愉快な音楽である。

ペルジーニの鮮烈きわまりない演奏に、多少荒削りなところがあっても、私としてはそれほど不満を感じない。

 

 

パイジエッロの「奥様女中」は、作曲された18世紀後半当時、オペラ・ブッファの最初の傑作といわれるペルゴレージの同名のオペラの評判を霞ませるほどの人気だったようだが、ペルジーニの演奏で聴くとそのことがよく実感できる。

ペルゴレージのほうも、バロック期のオペラ・セリアなどと比べるとかなり華やかになっているが、それでもここで聴くパイジエッロの比ではない(そのぶん格調高い味わいがあって、どちらのほうが名曲とは決めがたいけれど)。

また、パイジエッロの「セヴィリアの理髪師」は、ロッシーニの同名のオペラのために現在ほとんど忘れられているけれど、ペルジーニの演奏で聴くとパイジエッロのほうも十分に華のある名曲であることを再認識できる。

むしろ、ロッシーニの音楽のもつロマン派風の「どぎつさ」がない分、清々しくてより好ましいと感じる人もいるのではないか。

チマローザの「秘密の結婚」も、さすがロッシーニ以前の一番人気のオペラ・ブッファ作曲家だけあって、わくわくするような愉悦に満ちている。

 

 

いずれの曲も、聴いていてとにかく楽しい。

これらの録音はマイナーレーベルによるものだからか、インディーズのようなイマイチな音質だけれど、それでも私の中では、これらの曲における最も好きな演奏となった。

ぜひ、この勢いでペルゴレージ、ピッチンニ、パイジエッロ、チマローザ、ロッシーニあたりのオペラを数多く録音してほしいものである。

(なお、彼は最近チマローザの「Li sposi per accidente」というオペラの新譜を出している。)

 

 


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