関西フィルハーモニー管弦楽団
第283回定期演奏会
【日時】
2017年5月17日(水) 開演 19:00
【会場】
ザ・シンフォニーホール (大阪)
【演奏】
指揮:藤岡幸夫
ピアノ:シプリアン・カツァリス
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
(コンサートマスター:岩谷祐之)
【プログラム】
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第5番 ニ長調
※アンコール(ソリスト)
フランス風即興曲(即興演奏)
関フィルの定期演奏会を聴きに行った。
指揮は、首席指揮者の藤岡幸夫。
彼については、2015年に城陽定期で聴いたシベリウスの交響曲第2番の柔らかな演奏が印象に残っている(そのときの記事はこちら)。
このときは用事があり、第1楽章しか聴けなかったのだが。
それ以来、彼の演奏は聴けていなかった。
前半のプログラムは、ラヴェルのラ・ヴァルスとピアノ協奏曲。
まずラ・ヴァルスは、絶妙なテンポ・ルバート(演奏速度の揺らし)が魅力的で、先日ラ・フォル・ジュルネびわ湖で聴いたドミトリー・リスの演奏に勝るとも劣らないものだった(そのときの記事はこちら)。
次のピアノ協奏曲は、ピアノ演奏はフランスの名ピアニストであるシプリアン・カツァリス、ピアノはヤマハ。
カツァリスの演奏を実演で聴くのは初めて。
けっこう「遊ぶ」ピアニストなのかなと思ったら、意外と端正だった。
彼の演奏には、「フォルティッシモ」以上の音は存在しない。
全篇にわたってしっかりと脱力しており、力むところが少しもない。
だから、アルゲリッチのような手に汗に握る演奏とは違っている。
また、音量的にオーケストラに埋もれてしまう部分もある。
しかし、ほとんどの箇所ではしっかりと聴こえてくるからすごい。
また、彼の音色は、クリスタルのようなきらきらしたものではなく、少しくすんだような、そしてコクのある、とはいってもじめっとはせずさっぱりとした、独特な味わいのあるものだった。
そして、「フォルティッシモ」以上の音を出さない彼は、逆に「ピアノ」や「ピアニッシモ」については何種類もの音を持っていて、緩徐な第2楽章では本当に美しい情感を聴かせてくれた。
ゆったりとしたワルツ風の左手の伴奏も、「ズンチャッチャ」と田舎臭くなってしまうことなく、崩しすぎて逆にわざとらしくなってしまうこともなく、きわめて自然で洒落た味わいがあった。
こういった趣を、「エスプリ」というのかもしれない。
彼は、テクニック的にもかなりのものがあった。
第1楽章では、中間部(展開部、といっても良いだろうか?)やコーダがかなり攻めのテンポで、連打など一部不明瞭な箇所もあったが、細部の明瞭度よりも「ノリ」のほうを重視しているような感じがあった(コーダなど、あまりに速いのでオーケストラとずれそうになった)。
終楽章もかなり急速なテンポだったが、こちらは細部まで問題なく奏され、ほとんど完璧と言っていい演奏だった。
なお、このコンチェルトではオーケストラのほうも活躍する機会が多いが、木管や金管、打楽器の活かし方が素晴らしく、カツァリスのピアノを前にしても決して聴き劣りしなかった。
アンコールは、「フランスの歌は好きですか?」と日本語で紹介された、カツァリスのおそらく即興による演奏。
「ラ・マルセイエーズ」「枯れ葉」「男と女」などのフランスにまつわる有名なメロディを駆使した演奏で、技巧的にも大変華やかであるにもかかわらず、やはりさきほどのコンチェルト同様「フォルティッシモ」以上の音が聴かれないため、「爆演」というよりはおしゃれで美しい演奏となっていた。
後半のプログラムは、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番。
大変美しい交響曲である。
シベリウスに献呈されたそうだが、確かに心なしかシベリウスの交響曲に通じるような、でもやはり違うところもある、独特の雰囲気を持っている。
録音としては、温かみのあるロンドン・フィルとの自作自演1952年盤(NML/Apple Music)や、各楽器がくっきりと美しいバルビローリ/フィルハーモニア管1962年盤(NML/Apple Music)も良いが、私は何といっても
マーティン・イェーツ/ボーンマス響盤(Apple Music)
が断然好きである。
この柔らかく美しい、洗練された演奏は、私にこの曲の素晴らしさを教えてくれるとともに、マーティン・イェーツという名指揮者を教えてくれたのだった。
なお、彼は新国立劇場でもたまに振っているようで(昨年秋のプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」も彼の演奏)、いつか生で聴ける機会もあるのではないかと期待している。
それはさておき、今回の藤岡幸夫による演奏。
上記のイェーツ盤にかなりのところまで迫る名演であった。
楽器ごとのメロディの歌わせ方がきわめて適切というか、膨らませすぎて田舎臭くなることなく、逆に淡々と無感動になってしまうことなく、ほどよく美しい歌わせ方だった。
そして、各楽器間のバランスがよく、弦・木管・金管をそれぞれ大変柔らかく美しく活かしており、結果としてきわめて完成度の高い演奏となっていた。
本当に、金管の強奏でも全くうるさくなく、柔らかだったし、木管も弦も素晴らしく(ヴィオラもチェロも大変美しい)、細部に至るまでおろそかにされる音がなかった。
美しい緩徐楽章、祈りが昇華していくような終楽章コーダ、上記イェーツ盤に慣れた耳にも不満のない、実に感動的な演奏だった。
前半の素晴らしかったピアノ協奏曲を忘れさせてしまうほど。
藤岡幸夫、これまでほとんど聴く機会を持ってこなかったが、「日本のアバド」とでも言いたくなるようなこの洗練と高い完成度を鑑みると、日本でも有数の指揮者と言っていいかもしれない。
これほどのレベルの演奏は、他の日本人指揮者から聴けたためしがない気がする。
まだ数曲しか聴いていないので何とも言えないが、彼の演奏は今後もできるだけ聴くようにしたい。
こうなると、関西の中堅指揮者のもう一人の雄、飯森範親のほうももっと聴かなければならない、という気がしてきた。
彼のハイドンは昨年一度聴いたがとても良かったし(そのときの記事はこちら)、カルミナ・ブラーナの録音も大変良い。
聴かなければならない演奏会がどんどん増えていきそう…。
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