第22回KOBE国際音楽コンクール 本選会 ピアノ部門 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

第22回KOBE国際音楽コンクール 本選会 ピアノ部門

 

【日時】

2017年1月9日(月・祝)

 

【会場】

ハーバーホール(神戸市産業振興センター3階)

 

【審査員】

木下 千代(兵庫教育大学教授)
田淵 幸三(大阪芸術大学教授)
中野 慶理(同志社女子大学教授)
藤井 快哉(大阪音楽大学准教授)

 

 

 

 

 

昨日に引き続き、今日も神戸国際音楽コンクールを聴きに行った。

今日はピアノ部門(一昨日の弦楽器部門の記事はこちら、昨日の声楽部門の記事はこちら)。

今日も、C部門(大学・一般)のみを聴いた。

以下は、その感想である。

なお、全参加者の一覧が掲載されたプログラムが配布されたが、当コンクールの公式サイトには入賞者のみしか掲載されていないため、念のため当ブログでも名前の記載は入賞者のみとしておく。

 

C部門

 

●15番(F, 大学1年) リスト:ハンガリー狂詩曲 第12番 嬰ハ短調

これは残念ながら間に合わず聴けなかった。

 

●16番(F, 大学1年) ハイドン:ピアノ・ソナタ 第62番 変ホ長調 Op.82 第1・2楽章

よく弾けているのだが、フォルテが硬く、きつい音がした。三度の和音の出し方も、汚い(言い方が悪くて申し訳ないのだが)。弱音と強音との対比もあまりはっきりされていなかった。

 

●17番(F, 大学1年) シューマン:アベッグ変奏曲

これは残念ながらあまり弾けていなかった。今後のがんばりに期待したい。

 

●18番(M, 大学1年) ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 「葬送」 変ロ短調 Op.35 第1楽章

男性らしくしっかりした音が出ているが、フォルテが美しくない。和音もただ強く弾いており、フレーズ感がない。展開部やコーダではかなりテンポを落としてものものしい感じを出しているが、ソナタとしての一貫性のようなものに欠ける。

 

●19番(F, 大学1年) スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第4番 嬰へ長調 Op.30

残念ながらあまり弾けていなかった。今後のがんばりに期待したい。

 

●20番(F, 大学2年) メンデルスゾーン:幻想曲 嬰へ短調 「スコットランド・ソナタ」 Op.28 第1・3楽章

最初のアルペッジョ(分散和音)は雰囲気が出ていてまずまず良かった。その後の、和音による主要主題はそっけなく、もっと歌ってほしい。急速な第3楽章も、がんばってはいるがところどころ音が抜けたり、ペダルが濁ったりしていた。

 

●21番(F, 大学3年) リスト:巡礼の年 第2年 「イタリア」 より 「ペトラルカのソネット 第104番」

情感を出そうというがんばりはよく分かったが、もっと美しく歌ってほしい。また、三度のパッセージなどもっと滑らかに弾いてほしい。

 

●22番(F, 大学3年) フォーレ:ノクターン 第2番 ロ長調 Op.33-2

がんばって歌おうとはしているが、どこかぎこちない。また中間部では、左右の手が交差するアルペッジョにおいて、音が滑らかにつながっていなかった。

 

●23番(F, 大学3年) ヒナステラ:ピアノ・ソナタ 第1番 Op.22 第1・2・4楽章

コンクールらしいレベルの演奏がやっと聴けたという感じ。音はしっかり出ていて、充実している。第2楽章では一種不思議な雰囲気がよく出ている。終楽章ではかなりのテンポで突き進んでおり、良かった。ただ、全体的に音が硬い。これまでの人たちよりは良い音が出ているが、もっとキンキンしない音を望みたい。また、タッチコントロールももっと上を望めるか。

 

●24番(F, 大学3年) スクリャービン:幻想曲 ロ短調 Op.28

技巧的にまずまず安定しているが、やはり音が硬い。スクリャービンらしい幻想がほしい。

 

●25番(F, 大学3年) ラヴェル:夜のガスパール 3. スカルボ

これまでの人たちの中では最も充実した輝かしい音が出ているが、いかんせんところどころ弾けていない。特に連打が抜けまくっている。これほどまで難しい曲でなければ、もっと良い演奏を聴かせてくれたのではないか。惜しい。

 

●26番(F, 大学4年) ドビュッシー:喜びの島

冒頭は雰囲気がよく出ており、かつ粒立ちが良くて、好印象だった。しかし、全体的にはタッチが硬い。ドビュッシーらしい詩情もあまり出ていない。

 

●27番(F, 大学4年) シマノフスキ:ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 Op.8 第1楽章

これは聴き慣れた曲でないので、はっきりとした評価はしづらいが、演奏としての完成度はそれなりに高いように思った。しかし、やっぱり音は硬めである。

 

●28番(F, 大学4年) ブラームス:ピアノ・ソナタ 第3番 へ短調 Op.5 第1楽章

これは素晴らしい! それほど大きな音が出ているわけではないのだが、充実した音であり、輝かしい。まったくキンキンしない。和音の連続であってもうるさくならず、フレーズ感がよく出ている。表現力が素晴らしく、比較的地味な曲調であるにもかかわらず聴衆を惹きつける力がある。個性的な「聴かせる」演奏だが、決してやりすぎることはなく、ソナタの範疇を飛び越えてしまうことはない。この楽章では、冒頭に出てくるモチーフがところどころに出てくるのだが、それらが一つ一つ丁寧に強調され、過不足がない。正直、これまでの人たちの演奏を聴いていて「こんなに音が硬いのは、ここのピアノも悪いのかな」とも思ったのだが、それは違うということがよく分かった。同じピアノを使用しているのに、ここまで音が変わるとは。このような演奏が一つ聴けただけでも、聴きに来た甲斐があったというものである。

 

●29番(F, 大学4年) シマノフスキ:ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 Op.8 第4楽章より 「フーガ」

これも聴き慣れた曲ではないので判断しにくいが、フーガにしては各声部の描き分けがやや不明瞭のようにも感じた。ただ、音はけっこう充実している。輝かしいといってもいい。前の人がとても良かったため、割を食ってしまってはいるが。

 

●30番(F, 大学卒業) プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第3番 イ短調 「古い手帳から」 Op.28

しっかり弾けており、テクニック的にも安定している。音が硬すぎるということもない。再現部で左手の和音のスタッカートの中から第2主題を浮かび上がらせる部分も、しっかり浮かび上がらせることができている。コーダの速いテンポもかなりのものである。ただ、何かどことなくキレがない。ぱきっとしておらず、少しdullな印象である。打鍵の質の問題か。リズムの問題もあるかもしれない。プロコフィエフはキレが命と思うのだが…。

 

●31番(F, 大学卒業) プロコフィエフ:サルカズム Op.17 より 1, 2, 3, 4

これはあまり知らない曲であり、判断しづらい。よく弾けてはいるが、プロコフィエフ特有のアイロニーがしっかり出た演奏というわけでもないような気がした。

 

●32番(F, 大学院1年) スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第4番 嬰へ長調 Op.30

同じ曲を弾いた19番の人よりは多少良く弾けているものの、タッチはあまり洗練されていないし、第1楽章の後半では左手に出てくる主要主題が美しく浮かび上がってこない。

 

●33番(F, 大学院2年) ブラームス:4つの小品 Op.119 第1・4番

一つ一つの音はくっきりと美しく浮かび上がらせることができているのだが、一つ一つがフレーズ感をもって滑らかにつながらず、メロディラインがいびつになってしまっている。4番では充実したフォルテが印象的だったが、やや粗い音でもあった。

 

●34番(F, 大学院2年) シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 ハ長調 Op.6 第1・2・4・5・6・8・9番

シューマンらしい詩情を出そうとしているのはよく分かったが、うまく出てはいなかった。テンポの速いはずの曲でも遅めであり、はっきりした対比がついていなかった。

 

●35番(F, 大学院2年) ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.36 第1楽章(1931年版)

やはり音が硬く、また全体的にぼてっとした演奏になってしまっていた。この曲において望みたいスケール感が出ていなかった。

 

●36番(F, 大学院卒業) シャミナード:ピアノ・ソナタ ハ短調 Op.21 第2楽章

よく知らない曲。緩徐な楽章を選んだ割に、豊かな音楽性が前面に出ているというわけでもなかった。

 

●37番(F, 大学卒業) ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 「月光」 第3楽章

とても有名な楽章だが、演奏はまぁ普通だった。特別キレがあるというわけでもない。

 

●38番(F, 大学院卒業) ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.36 第2・3楽章(1931年版)

これも弾けてはいるが、とりわけ印象に残る演奏というわけでもなかった。

 

●39番(F, 大学卒業) スクリャービン:幻想曲 ロ短調 Op.28

これも音が硬かったように思う。

 

●40番(F, 大学卒業) ラフマニノフ:楽興の時 Op.16 第3・4番

これもやはりフォルテは硬めで、これといったキレがあるわけでもなかった。多くの演奏はどれも似たような印象だった。

 

●41番(F, 大学院卒業) ラウタヴァーラ:ピアノ・ソナタ 第2番 「火の説法」 Op.54 より 第1・2楽章

これはすごかった! 最優秀賞は28番の人で決まりかな、と思いかけていたのだが、見事にくつがえされた。最初の数音を聴くだけで、他の人たちとは全然違う迫力に耳を奪われた。ラウタヴァーラという作曲家は名前くらいしか知らなかったし、この曲も聴いたことがなかったが、それでもこの演奏が特別であることはすぐに分かった。フォルテは硬くなく、しかしホール中によく響き渡り、聴き手に迫ってきて、腹の底までこたえるほどだった。弱音も大きな存在感があった。前衛的な曲だが、曲の良さをよく引き出した演奏だった。なお、演奏後にさっとお辞儀を済ませ、足早に颯爽と退場していったのが印象的だった。

 

●42番(F, 大学2年) スクリャービン:幻想曲 ロ短調 Op.28

スクリャービンに真面目に取り組んだ演奏で、決して悪い演奏ではなかったが、音色も含め地味だった。

 

以上で全てである。最優秀賞は28番と41番の完全な一騎打ちだと思った。どちらも素晴らしいが、ソリストとしての存在感を勘案すると、やはり41番のほうかな、と思った。そこで、予想は下記のようにした。

 

最優秀賞

●41番(F, 大学院卒業) ラウタヴァーラ:ピアノ・ソナタ 第2番 「火の説法」 Op.54 より 第1・2楽章

 

優秀賞

●28番(F, 大学4年) ブラームス:ピアノ・ソナタ 第3番 へ短調 Op.5 第1楽章

●23番(F, 大学3年) ヒナステラ:ピアノ・ソナタ 第1番 Op.22 第1・2・4楽章

 

奨励賞

●27番(F, 大学4年) シマノフスキ:ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 Op.8 第1楽章

●29番(F, 大学4年) シマノフスキ:ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 Op.8 第4楽章より 「フーガ」

●30番(F, 大学卒業) プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第3番 イ短調 「古い手帳から」 Op.28

 

そして、実際の結果は下記であった。

 

【最優秀賞】

●41番 吉田 彩華(京都市立芸術大学 大学院卒業, 京都府) ラウタヴァーラ:ピアノ・ソナタ 第2番 「火の説法」 Op.54 より 第1・2楽章

 

【優秀賞】

●27番 友廣 千朱里(大阪教育大学 4年, 兵庫県) シマノフスキ:ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 Op.8 第1楽章

●31番 沖口 里彩(同志社女子大学 卒業, 京都府) プロコフィエフ:サルカズム Op.17 より 1, 2, 3, 4

 

【奨励賞】

●28番 高御堂 なみ佳(相愛大学 4年, 大阪府) ブラームス:ピアノ・ソナタ 第3番 へ短調 Op.5 第1楽章

●38番 西部 裕香子(奈良教育大学 大学院卒業, 兵庫県) ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.36 第2・3楽章(1931年版)

 

まぁまぁ納得のいく結果だった。

31番や38番の人は私は挙げていなかったが、前者は聴き慣れない曲だったこと、後者はアレクセイ・メリニコフやニコライ・ルガンスキーのCDのものすごい演奏で聴き慣れすぎている曲だったことが、印象に残りにくかった原因か。

なお、A部門(小学生)やB部門(中・高校生)を含めた結果は、こちらのページを参照されたい。

 

今回のコンクールでは、吉田彩華と高御堂なみ佳という素晴らしいピアニストを知ることができた。

コンクールというのは、素晴らしい演奏家を発見するための貴重な場だと思う。

コンテスタントたちはしっかりと準備してくるから、ときに往年の巨匠たちですら及ばないような名演を聴けるときだってある。

順位にこだわりすぎず、じっくり聴いて自分のお気に入りの演奏家を見つけるのが良いと思う。

その最たる機会が、浜松国際ピアノコンクール(通称浜コン)だろう。

ここには世界中からレベルの高いコンテスタントたちが集まるし、演奏のオン・デマンド配信やライヴCD販売など、サービスがとてもよくできている。

浜松は遠く、実際に聴きに行くことは困難だが、ネット配信で全てのコンテスタントの演奏をそれなりの音質で聴けるのがとても良い。

前回の2015年の浜コンでも、例えば日本人コンテスタントに限ると、リード希亜奈や天川真奈をはじめ、加藤大樹、吉武優、佐野主聞、三浦謙司、寺元嘉宏、野木成也、矢野雄太、齊藤一也といった素晴らしいピアニストたちを知ることができた。

もちろん、海外出身のコンテスタントにも素晴らしい演奏をする人たちがたくさんいた。

ただ、特に日本人演奏家の場合は、今後も演奏を聴く機会をしばしば持てることが期待できる。

今でこそ、彼らの活動の多くは関東に限られているが、そのうちにもっと有名になって、関西でもじゃんじゃんリサイタルを開いてくれることを期待している。

 

そして、コンクールのもう一つの良さは、若い演奏家たちの演奏が聴けるということである。

音楽に限らず、人間は誰しも歳を取るにつれて身体能力は衰えるものである。

歳を取ると音楽性は成長していくだろうけれども、テクニック(少なくとも一部のテクニック)は多かれ少なかれ確実に衰えるのである。

ポリーニの「衰え」は有名だけれども、ツィマーマンだって実は例外ではないし、「歳」というほどの歳でもないアンスネスやルガンスキーだって、ごくわずかではあるものの、テクニック的な「衰え」から完全にフリーというわけではないと私は思っている。

演奏家は、有名になってリサイタルを開くことができるようになる頃には、すでにある程度歳を取ってしまっていることも多い。

若い頃には、なかなかリサイタルを開けない。

1934年、19歳の若きリヒテルは、どうにか資金を集めて、オデッサで小規模ながら一世一代の初リサイタルを開いたが(確かオール・ショパン・プログラム)、成功をおさめたものの、その後特に話題にもならなかったという。

かの名教師ゲンリヒ・ネイガウスをして「教えるべきことは何もない」と言わしめた、若き日のリヒテルですら、そうだったのである(ところでこのときのリサイタル、相当に壮絶な歴史的名演が繰り広げられたのではないかと、私などつい妄想してしまう。何しろ、向かうところ敵なしの19歳のリヒテルである!)。

とにかく、安定してリサイタルが開けるようになるのは、ある程度の名声が得られてから、つまりある程度歳を取ってから、なのである。

それに対し、コンクールでは10歳代か20歳代のコンテスタントがほとんどである。

ある面においては、彼らの絶頂期の演奏を聴くことができるのである。

もちろん、テクニックが絶頂である代わりに、音楽性が未熟である場合もあるだろう。

しかし、一流の演奏家の場合、若い頃から音楽性が成熟していることも少なくないのである。

 

音楽コンクールは、順位云々よりも上記のような理由で、私は重宝している。

これからもできればいろいろなコンクールを聴いていきたいものである。

 

 


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