こんにちは。お読みいただきありがとうございます。
前回、電波に関してちょっとマニアックな話を書いてしまい正直後悔していたのですが、久しぶりに自分のブログを見てみると予想外に「いいね!」をたくさん押していただいていることに気がつきました。こんな駄ブログなのにとても嬉しく思います。本当にありがとうございます。
ということで調子に乗ってもう少し書きます。前回と同様に、知らなくても困らないけれど、知っておけばより電波を身近に感じてもらえるかなあといった程度の内容です。宜しければお付き合いください。
前回も少し触れましたが、電波の話題になると、ギガヘルツ(GHz)、メガヘルツ(MHz)、キロヘルツ(KHz)が混在して訳が分からなくなりがちです。電波に限った話ではないのですが、この種の数字を扱うときは意識して“桁”を揃えておかないと、その数字の大小が把握できなくなってしまいます。まずはおさらいになりますが、
- 1GHz = 1000MHz
- 1MHz = 1000KHz
が前提となりますから、1.7GHzなら1700MHz、800MHzなら0.8GHz、1500KHzなら1.5MHzといった具合に変換できますね。周波数にもよりますが、本稿の内容だとメガヘルツ(MHz)で揃えると捉えやすくなる気がします。
前回、電波の周波数を上げていくとその延長線上に光があると書きましたが、逆に周波数を下げていくとどうなるでしょうか。我々を取り巻く様々な電波の中で、比較的低い周波数を使っているのは中波帯のラジオ放送、いわゆるAMラジオと呼ばれる放送の電波です。中波帯のラジオ放送は、具体的には531KHzから1602KHzまで9KHz刻みで120波が各放送局に割り当てられています。9KHz刻みで並んでいる中波放送の周波数を表にするとこんな感じでしょうか(放送局名は記憶しているものだけ適当に入れました)。
左側の連番は便宜的に入れたものですが、120個のチャネルがあると考えていただけるとわかりやすいと思います。ここで中波放送の周波数帯をMHzに“桁揃え”をしてみると、531KHz=0.531MHz、1602KHz=1.602MHzとなります。携帯電話の周波数が1GHz(1000MHz)前後であることを考えると、とても低い周波数であることがわかります。中波放送よりもっと下の40KHzや60KHzには電波時計で使われる日本標準時の信号が放送されています。また、中波放送のすぐ上の1620KHzと1629KHzは道路交通情報ラジオで使われています。
前回の記事で波長を算出するときの数式をご紹介しましたが、たとえば東京のNHK第一放送(594KHz)でその波長を求めてみましょう。594KHzは0.594MHzですから、300÷0.594で約505mの波長ということがわかります。4Gや5Gの波長でセンチやミリといった長さが出てきましたが、それらに比べると桁違いの長さですね。波長はアンテナ(特に送信時)の長さに直結しています。アンテナの形式にもよりますが、波長の1/4、1/2、5/8などが基本の長さになります。上記のTBSラジオの例でいうと1/4のとき約126m(505m÷4)です。ご覧になったことがある方も多いと思いますが、中波放送の送信所の鉄塔が100m前後と非常に高いのはこのためで、実はそびえ立つ鉄塔そのものがアンテナとして動作しています。鉄塔の頂部にアンテナが据え付けられている携帯電話の基地局とは構造そのものが異なります。詳しい話は割愛しますが、鉄塔自体がアンテナなので単純に根元の部分を地中に埋めることができません。根元の鉄塔を受ける部分は地面とは絶縁されて、電気的には宙に浮かせているような状態になっています。このあたりはこのページの説明が詳しく、4枚目の写真を見るとその様子がよくわかります。また、鉄塔の倒壊を防ぐためのステー(支線)が何本も必要になるため、中波放送の送信所はかなりの面積を要します。また、送信出力が数十~数百キロワットと非常に大きいため、相応の電力が必要になります。
一方、テレビ放送がアナログから地デジに移行したおかげで、FM放送のすぐ上の周波数帯が空き(旧アナログテレビの1~3ch)、この周波数帯を使って中波放送と同じ内容を同時に放送するワイドFM放送が始まりました。同じ内容を同時に別の周波数で放送することを「サイマル放送」と呼びます。中波放送の周波数とワイドFMで使われている90MHz付近の周波数とでは電波の性質も飛び方も異なりますが、ワイドFMでは送信用のアンテナが小さくて済み、送信電力もせいぜい100ワットまでなので送信設備の維持コストが圧倒的に下がります。こうした背景からこれまで中波で放送していたAMラジオ局の中には、中波放送をやめてワイドFM一本に絞りたいという放送局が出てきました。たとえばこのニュース記事がそれですね。
ここまででAMやFMといった聞き慣れた言葉が出てきましたが、これらは電波に信号を乗せるときの方式(=変調方式)を指す言葉であって、周波数帯を指すものではありません。たとえばFMラジオ放送の周波数帯を使ってAM変調で放送することは可能です(メリットはほとんどない)。
さて、携帯電話の話に移りますが、同じ周波数を使う場合でも電波に信号を乗せる方式(変調方式)によって利用効率は変わります。1G→2G→3G→4G→5Gと世代が上がるにつれて、同じ周波数を使っていても利用効率は上がっています。
1Gは単純にアナログ方式で、2G以降がデジタル方式です。3G以前は回線交換方式による通話がメインで、2Gの途中からiモードなどのパケット通信が始まったように記憶しています。回線交換方式というのは1対1の通話ペアでひとつの周波数を占有する方式と考えるとわかりやすいと思います。2G以降の回線交換方式では、音声信号をデジタル信号に変換(A/D変換)した上で、わずかに時間をずらしてひとつの周波数に複数の通話ペアのデジタル信号を並べて変調していく時分割多重方式が採られています。決まった順序で並んだトランプの束を、通話ペアごとに順番に振り分けていくイメージでしょうか。この仕組みによってひとつの周波数(チャネル)に複数の通話ペアを収容できるようになりますが、ほんの一瞬とはいえ時間で分割された信号をそれぞれのペアに戻しながら、デジタル信号をアナログ信号に変換(D/A変換)していく必要があるため、ここで多少の音声遅延が発生します。90年代半ばから携帯電話のユーザーが急増したため、通話するユーザーを基地局で収容できなくなる事態が発生しました。そこで、A/D変換する際に今まで以上にデータを圧縮して、同時に通話できるペア数を上げる仕組みが導入されます。通話品質とのトレードオフの関係になりますが、乱暴な言い方をすると話の内容が伝わればいいだろうという考え方で、声だけでは相手が誰なのかわからないといった冗談のような話もよく聞かれました。
当たり前のことですが、音声通話は我々の会話そのものですから、A/D変換とD/A変換はリアルタイムに処理していく必要があります。じっくり演算させて正確にデジタル化している時間はありません。不要な情報(音)はどんどん切り捨てて、データ量を減らしていくのが圧縮の基本的な仕組みです。こういった処理は携帯電話に内蔵されたDSPチップの性能に大きく依存しています。後の3G→4G→5Gの発展は、デジタル信号の符号化ルール(コーデック)の進歩ももちろんですが、端末に内蔵されたDSPチップの性能向上によるところが大きいと考えられます。
現在でも、一部のエリアではまだ3Gが使われているものの、4Gでの通話は回線交換方式ではなくデータ通信のパケット通信の中で通話を実現する仕組みが採られています。パンフレットやWebなどでVoLTE対応と謳われているのをご覧になったことがあると思いますが、VoLTE(Voice over LTE)はパケット交換方式のなかで音声通話を扱う仕組みです。
とりとめもなくだらだらと電波の話を書いてしまいましたが、ひと口に電波といってもそれらが連続した周波数の中にあることを理解していただけたでしょうか。思いつくままに周波数を高→低の順に並べるとこんな感じでしょうか。
この図ですが、注意していただきたいのは“縮尺”が出鱈目な点です。つまり1行の幅と実際の周波数の幅は一致していません。もし“縮尺”を揃えようとすると、低い周波数の割り当てが基準となってしまい、その結果とてつもなく縦長の表になってしまうからです。
今回はこの辺で。電波についての話題はまた気が向いたら書こうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

