朝になった。カーテンの隙間から光が差し込んで、外でスズメの鳴き声がする。


チュンチュン……



ミナ「んん…ジョンヨン、朝だよ」



普段は昼夜逆転生活をしているのだが、ジョンヨンのために今日は頑張って起きた。


私はまだ学校にいく心の準備が出来ていないからジョンヨンだけ。



ジョ「ん〜…分かってるよ」



寝起きが悪いのかな?私に対して優しいジョンヨンにしては珍しく、少々キレ気味。



ミナ「遅刻しちゃうよ?」



少しジョンヨンの体を揺さぶると、その途端にすごい勢いで腕を掴まれて のしかかるように拘束された。


ドサッ



ミナ「…もっ!」


ジョ「今日くらい休んでいいじゃん。」


ミナ「連絡くらい入れときなよ?」


ジョ「ミナも無断欠席じゃん。」



正論を突きつけられ、私は黙り込んでしまう。


するとジョンヨンは私の首にキスをした。



ミナ「ひゃっ…」


ジョ「…今日は離れたくないの!そばにいてよ…もうちょっと一緒に寝よう?」


ミナ「しょうがないなぁ……」



キス嫌いなジョンヨンも恋人となるとこんなにキスをしてくれるんだなぁ…


女の子同士で付き合ってるなんておかしくない時代になりつつあるけど、身近かと言われるとそうでもないんだよな。


だから情報がなくて、どうすればいいか分からない。


手を繋いだり、こうして抱きしめたり、それくらいは誰でも分かるんだけど。


例えば…その、アレとか。


私たちどうなっちゃうんだろう。



ミナ「ジョンヨンおもいー」


ジョ「うんん、ごめんごめん」



私にのしかかっていたジョンヨンは降りるとすぐ私の体を寄せてギュッと抱きしめた。


私もジョンヨンの背中に腕を回して抱きしめ返した。

さっきまで寝ていたのに自然と瞼が重くなる。


まだ寝てるのかな?とジョンヨンの顔を見たら、むしろ目をガン開きしていた。



ミナ「…寝るんじゃなかったの?」


ジョ「寝れない…」


ミナ「どうして?悩みごとでもあるの?」


ジョ「…うち、ファーストキスだったんだよね」


ミナ「え!?まさか、私に…!?」


ジョ「そう、私たしかにキス嫌いだったはずなのに不思議とミナにキス出来たからさ。なんとなく、ミナとならなんでも出来る気がする。」


ミナ「それのこと考えてたの?」


ジョ「ちがう」


ミナ「違うんかい」



私はおかしくなって笑ってしまった。

釣られて笑うジョンヨンが私をより一層強く抱きしめた。 



ジョ「足りないな、って…」


ミナ「足りない?」


ジョ「……」



私はその言葉を確かめるようにジョンヨンの顔をみたが、ジョンヨンは目を合わせようとしない。


耳まで真っ赤になっていて、そこからジョンヨンがいかに照れているか 感情がよく伝わってきた。


でも、言葉を詰まらせて キスしてきてくれないんだ。

私は待ってるのに。


まったく、私の彼女はヘタレだなぁ。

可愛い甘えん坊のヘタレ。



ミナ「…ジョンヨン?」


ジョ「…スー……」



…もう。自分からキスが足りないだなんて言い出しておいて、期待させておいて、寝ちゃった。


ジョンヨンに振り回されてばかりの私だ。
でも逆に、今までこんなに欲張りだったことあったかな?


一緒にいてもまだ会いたくて、どんなときもどこでもジョンヨンの愛を感じていたい。


ジョンヨンが学校に行ってる間はまたあの耳鳴りがするほどの静けさに溶け込んでいっちゃうのかな。



ミナ「(だめだ!寝なきゃ……)」



そんなことを考えてるとまた寂しくなって、
忘れるように眠りにつく。


ジョンヨンの心臓の音を感じ取ってみる……


トクン…トクン…トクン……


そして私が気付かぬ間に夢の世界へと入っていった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




ミナ「……ジョンヨン?…あれ、いない……」



気がつけば夜になってしまった。
起きると、隣にジョンヨンがいない。


照明はついてないし、でもジョンヨンの荷物は置きっぱなしだからきっとまだ家の中にいるんだろう。


…そういえば、学校行ってないな。


ベッドから出てジョンヨンを探しに行くと、ベランダのカーテンが少し揺れてるのが見えた。


カーテンの隙間から覗くと、確かにそこにジョンヨンがいた。

なにやら、手に火種のようなものが見える。あれは……タバコ?



ガラッ



ミナ「ジョンヨン」


ジョ「あっ…起きてたの?」


ミナ「うん、さっき。…煙草、吸ってたんだね。」


ジョ「…ごめん隠してた訳じゃないんだけど、どうしても我慢できなくて。たばこ嫌い?」



私はジョンヨンの手から強引に煙草を奪い取って火を消した。



ミナ「未成年でしょ?煙草はだめだよ。」


ジョ「えぇぇぇ……」



そう言うとジョンヨンは悲しい顔をした。

謝りたいところだけど、ここはグッと我慢。だってこれは全てジョンヨンの為だから。



ミナ「そんな悲しい顔しないでよ……若いうちから吸って、後悔するよ?せっかくのいい声も台無しになっちゃうでしょ…」


ジョ「じゃあ、飲みは?だめ?」


ミナ「うん。せめて大人になってからにしよう?」



申し訳ないけど実は、私も喫煙するし飲酒する。

でも喫煙は月に数本程度だし、飲酒も高頻度ではない。ジョンヨンだと、見た感じ仲間との付き合いでかなり吸ったり飲んだりだろう。


ごめんね、まだ自分も限界も知らないだろう君にちょっとした束縛。

べろんべろんになって他の女に取られちゃったら一溜りもないんだから。


……過保護かな?



ジョ「…中入ろっか。お腹すいてない?」


ミナ「空いてるかも」



そういえば、昨日のあの時以来ご飯食べてないんだ。


ぐぅぅ〜〜〜……


思い出したようにお腹が鳴る。



ジョ「ぷはっ!ぐぅ〜だって(笑)」


ミナ「だって…!何も食べてなかったから…」


ジョ「ふはは、じゃあ食べよっか?キッチン借りていい?今日はうちが作るよ!」


ミナ「えぇ〜?出来んの?笑」


ジョ「出来るよ!こう見えてうちのパパは有名なシェフなんだから!」


ミナ「そうなの!? じゃあお願いしちゃおっかな?」


ジョ「任せろぉ〜」



そして2人でスーパーまで買い物に出かけた。


誰かと一緒に買い物なんていつぶりだろう。

自分ひとりだけだと、事前に買うものだけ決めてそれを買って帰るだけだけど


たまにはその場で決めるのも悪くないかもしれない。
何より、ジョンヨンが一緒だから。



ジョ「なんかこういうさ、セール品に目が行きがちなんだよね うち」


ミナ「いいじゃん、節約 節約。」


ジョ「え、ケチとか思わない?」


ミナ「ううん?それくらいはみんなそうじゃないの?私は買わないけど」


ジョ「買わないんかい! みんなっていうからミナもそうなのかと思った、少数派の人間なんだね」


ミナ「少数h…っ(笑) 私は買いたいもの以外は買わないだけだよ、それこそケチじゃない?」


ジョ「なに?二人揃ってケチカップル?」


ミナ「なんで笑笑笑」



たかが近所のスーパー買い物なのに、いつも見てる景色なのにジョンヨンがいるとまた特別にみえる。


ただのセール品の話なのにこんなにも盛り上がった。


ジョンヨンには当たり前の光景かもしれない。
人気者で、いつも周りに人がいるから…ひとりぼっちの私と違って。


私には友達が少ない。もはやその人たちですら 友達と呼べるかすらも危うい。

だからこそ、私にはジョンヨンしか見えない。


だからこそ、私にはジョンヨンのひとつひとつが嬉しい。



ジョ「一緒に過ごしてくうちに2人が似てきたりするのかな」


ミナ「どうだろう、私たちってなんか性格反対じゃない?」



大人しくて、消極的で、守られてる私と
ノリがよくて、積極的で、みんなのお母さん(?)のジョンヨン。



ジョ「あぁ〜たしかに?」



私たちが結ばれたことは奇跡なのかもしれない。


でも一つ共通点をあげれば……



ジョ「性格が反対でも、うちらがお互いに愛し合ってるのは一緒だね?」


ミナ「もっ!また私のこと口説き落とそうとしてる?惚れちゃうよ!」


ジョ「惚れてなかったんかーい」


ミナ「あははっ!」



ジョンヨン、私はとっくのとうに貴方にノックアウトしてます。



どうかこの幸せが続きますように……



安売りの野菜片手に目を輝かせているジョンヨンの横で私はそっと神に誓った……←