とある事情で仕方なく(←ココ大事)2台目のiPadを購入した。もちろん分割払いだ。
日々貧乏を連呼しているくせに、と誰より私が後ろめたく思っている。
だがせっかくなら1台目(元気に稼働中)とは違う使い方をしてみようとBluetoothキーボードつきのカバーを装着してみた。
現在、それを使って近所の喫茶店でこの文章を書いている。画面全体が文字確認として使えるし、元々私はキーボードの方が慣れているためこれはこれで快適だ。
しかし、画面が大きいぶん
何だか恥ずかしいものだな……。
誰も気にしてないとわかっちゃいるのだが、画面と同時に隣の人の動きを観察してしまう。
こういう時に「日本人は顔が平たい故に左右の視認範囲が広い」という零戦パイロットの逸話を思い出す。ヘルメットの形状もあるだろうから一概には言えないが、正面と左右をきっちり認識している己の眼球の有り様をみるに一理あるのだろうと思われる。
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ここで一度、家まで逃げ帰ってきた。
「近所の喫茶店で」「自分の独白に近い文章を書く」のダブルパンチが敗因だろう。
どちらもあまりにドメスティックすぎる。下着がはみ出ているのを承知で知人と会うくらいの気恥ずかしさがある。例に品がなくて申し訳ない。付け加えるならば私はそのシチュエーションに興奮は覚えない。
いや。
ふと出た言葉だったが、正確には恥ずかしいと思う時点で興奮する資質はあるのだろう。だが残念ながらさして強い才能ではないとも感じる。
何故なら【下着がはみ出ているのを承知で知人と会う】事態が「起きたらとても恥ずかしいが、まず起きるという想像を」「したくない」とは「思わない」。
何かの手違いで起こりうるシチュエーションとしては、顔を顰めながらだが完璧に想定できる。
ややこしいけれど、だからおよそ資質は半々だろうと考える。
「想像もできないし、したくない」人にこそ、私は本物の被虐的な美質が似合う可能性を見るからだ。
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種明かしをしてしまえば 壇蜜 だ。
更に言えば彼女の主演映画『私の奴隷になりなさい』。
内容は壇蜜が板尾創路に(役名は忘れた)それまで彼女が想像したこともないエロい状況に身を置くよう指導される。強要される、ではないところがポイントである。
テーマ的にはもっと深いのだが、それは鑑賞しないと伝わらないと思うので、観た方のお楽しみとする。
私はこの作品を今は亡き東銀座の映画館で観た。もちろん趣味人垂涎の妖艶なシーンもたくさんあるのだが、
私はヒロインが条件を提示されて絶句する……かーらーの、状況に身を委ねることを了承する「うなずき」の美しさに最も目を奪われた。
それまでの世界観、倫理観、想像力。それに伴う限界への恐怖を、問答無用に、しかし己の決定をバネにして飛び越える瞬間。
あれは神々しいほどに美しかった。
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多分、そこで想像できてしまっては駄目なのだと思う。「ほほう、そう来ましたか」とニヤリとしてしまうようでは野暮なのだ。
より深い調教の秘儀としては「隠された予測」を読み取ることも重要なテクニックだろうが、一番最初のタガを外す瞬間は、やはり想像もつかずに「頭が真っ白になる」という、ある種の恍惚が必要な気がする。
初の衝撃でないのなら、提示された状況を元にして、更に自分を追い込むように仕向けるくらいの智略と鋭敏さが必要だ。
そうでなければ、観客がいようがいまいが「被虐の美」は完成しない。
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様々な資料を読む限り、壇蜜というタレント本人は主人公のような体験はすでに自明だったように見受けられる。同時にそれを客観的に追体験できるだけの聡明さを持ち合わせていたようだ。
例えばあの映画が単に己の被虐性を開示したがる人妻の物語だったなら、興行結果はもっと平凡だったろうし、その役は壇蜜でなくとも事足りたはずだ。
だがあの作品がセンセーショナルであったのは「今の世界を越えた先」を悲しみとは違うしなやかさで主人公自身が選び取ったこと。
そして飛び立つ為に必要になる傷と痛み。そのひとつひとつを壇蜜演じる主人公は逃げることなく丁寧に、まるでその都度、懐妊と出産を経るような真摯さで受けとめていた。
その姿の瑞々しさと、新しい世界へ化生した際の圧倒的な王権感。
この2つを限定された撮影環境の中で具現するとしたら、確かにあの時点の芸能界では壇蜜が最適だっただろう。
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実人生で誰かのそんな姿に立ち会ったことはないし、私もそれほどの岐路を経た強烈な思い出はない。
敢えて言えば鬱の扉を開けたくらいか。
いや、もしかしたら今がそれに当たるのかもしれない。己を取り巻く否定的な状況の中、私自身だけが恥ずかしげもなく「新しき我はここに在り」と叫ぼうとしている。
実に被虐的なことだ。
その様が美しいとは微塵も思えない。だが真正直に何かを生み出そうとはしている。
その果てにあのヒロインのような王権は望むべくもないし、望まない。
ただ物語の最後に彼女が見せた奇妙に透明な笑みだけは、似たものでいいからいつか浮かべてみたいものだと思っている。