「これでいい」
僕の親父は夕方の露天風呂でつぶやいた
今日
ようやく親父の人生に決着がついたのだ
26歳という若さで病死した祖父の実家が
鹿児島のとある場所にあった
親父は11歳からの3年間
そこに1人預けらた
母親に見捨てられと泣き通しだった
3年間、農作業に明け暮れ
学校に行く時間だけが癒しの時間
しかし、実家の親戚達は皆、立派な人たちだったと、今でも感謝してると親父は言う。
「その家を探しに行こう!」
僕の提案に親父は目を輝かせた。
しかし、随分昔に親族は死別、離散し
その大きな屋敷は売りに出されたとのこと
住所も知らない、町の名前すら覚えていない
僕たちは、年老いた親父の記憶を頼りに
町を探して歩いた
親父のトンチンカンな記憶に振り回されて
1時間以上車を走らせたが手がかりなし。
通っていた中学校の前で、
僕は親父をしばらく立たせてみた。
「川に沿って歩いた。神社があった。」
少しずつ蘇る記憶をたどり僕たちは
神社に着いた。
僕は眩しい光のようなものを感じながら
町を歩いた。
ある家の近くでめまいがした。
親父も立ち止まる。
しかし、その家ではないと言う。
1時間以上、炎天下を歩き回った僕らは
あきらめて帰ろうかなとしたその時
地元のご年配の女性がひょっこり現れた。
「あぁ、その家ですね。」
僕がめまいを感じて立ち止まった場所を
指差した。
古い屋敷は随分前に潰して更地になったらしく
モダンな家が立ち並んでいた。
納得した親父と夕暮れの露天風呂。
親父は安らかな表情で
「連れて来てくれてありがとう」
そして独り言のように呟いた
「これでいい」
親父、よう頑張ったな。
