タイミングがいいのか悪いのか・・・
いや、悪いのだと思う。
**********
仕事終わり、翌日は休みだったので、のんびりTさんのお店で飲んでいた。
日付が変わり、そろそろ帰ろうかと思っていたころ、カウンターの隣に座っていた女性客がTさんに相談を始めた。
内容は、旦那さんに対して性欲がわかない、ということだった。
夫婦の性事情をからっとオープンに話す奥さん(新婚)。
自分は旦那さんに対してその気になれないので、風俗に行って処
理するのはOK。
ただし、浮気はされたくない。とのこと。
そこから奥さんはTさんに話を振った。
「店長は浮気したことあるの?」
Tさんは今までお客にもバイトにも手を出したことはなく(多分)
冗談でそんなことを聞いてくるお客さんはたくさんいたが、いつもTさんは
「NO」と答えていた。
「いや、それはまじでしたことないんす」って。
しつこくからかってくるお客さんには「いいかげんにしてください」ってちょっとマジで怒っていたくらい。
なぜなら過去にお客さんの冗談が悪い風に奥さんに伝わり、家庭に危機が訪れたという痛い思い出があるから。
私と一線を越えてからも、表向きは「NO」と答えていた。
私もそれでいいと思っていた。
それでまた変な噂がたって、店の印象を悪くしたくないし。
狭い土地だし、どこで誰に伝わるかわからないし。
だから今回も「したことない」っていうと思ってた。
ら。
「・・・厳密にいうと・・・・・・ありますね」
と返事した。
心臓が、ざわっっとした。
一瞬にして掌が冷たくなるのがわかった。
心拍数も一気に上がった。
一瞬、Tさんが私のほうを見た気がしたけど、私はとてもじゃないがTさんを見れなかった。
お客さんは「意外~、店長そんな人に見えないのにね」なんて盛り上がっていた。
「いや、僕もやると思ってなかったですよ」とTさん。
奥さん 「なんでしたの?」
Tさん 「まあ、タイミング的なものもあって」
奥 「魔が差したから?」
T 「魔が差したからではないです」
奥 「その人に気持ちが移ったの?」
T 「100%ではないけど」
奥 「何回もしたの?」
T 「・・・えーと・・・えふんえふん」(わざとらしい咳払い)
奥 「まだ続いてるの」
T 「いや、期間はそんなに長くはなかったけど」
途中でTさんは逃げるようにほかの話題に切り替えた。
私の頭は切り替わらなかった。
「期間はそんなに長くはなかったけど」
過去形であることで、Tさんの中では完全に終わっているのだと知った。
もちろん、何か月も連絡をとってなかったし、それ以上に二人で会っていない期間は長い。
頭では「もう終わったのだろうな」と思っていたが、いざその言葉を聞くと思いのほか胸にささった。
つーか終わってんなら「もう終わり」って閉会宣言ちゃんとしろよな。
あー、なんかわからんけど泣きたい。
会計の時、私におつりを渡すTさんの手が、いつもよりしっかりと私の手を握った気がした。
帰り際、私を送り出すTさんが、私の左腕を2,3度さすった。
あーーー!!終わってんならもうそういうスキンシップやめにしてくんない!?
そう言いたかったけど、ほかにお客さんがいるので言うわけにもいかず。
「さっきの会話、ちょっとおもしろかったですね」と
冗談ぽく言うのが、精いっぱいの強がりだった。
帰り道、少し涙が出た。
ずるい。Tさんはずるい。
自分から手を出したんだから、離れたくなったのなら、ちゃんと言わんかい。
でないと、頭ではわかってても、心がわかってくれないから。
ほんの少しのスキンシップに、しなくていい勘違いをしてしまうから。
思い返せば、Tさんと体を重ねるたび、
私への気持ちが引いていくのを感じていた。
私への接し方が、だんだん乾いていくのがわかっていた。
悔しかった。
一言くらい、「もう終わり」と言ってほしかった。
いや、
ここを去る前に
きっちり聞きたい。
他人との会話の中に終わりを見つけるのではなく、
私に向かってちゃんと言ってほしい。
さっきのお客さんとTさんの会話に触発されたせいもあり、
お酒が入っていたせいもあり、
帰り道の午前3時
Tさんに電話をかけていた。
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