このまま
何にも話さないまま
この土地を出ていきたくない
そう思って、仕事の帰り、衝動的にTさんのお店に向かった
「お久しぶり~」とTさんはのん気に迎えてくれた。
店を離れていたのはほんの4か月ほどだったが、
久しぶりのお店の空気が懐かしく、嬉しかった。
お店のドアをあけるまではしこたま緊張したけど
いざその空気に触れると、自然に顔がゆるんだ。
引っ越しの件を告げると、Tさんは今までどおりの態度で聞いてくれた。
少し驚いた感じで。
少しも悲しむ感じはなく。
つきまとう女が違う土地に移るからほっとしているのだろうか?
できれば、付き合いの長い人間がこの土地から出ていくことを、少しだけでも寂しいと思ってくれていると嬉しいのだが。
あまり期待はしないでおこうと思う。
それよりも、今までどおりに話せたことにほっとした。
引っ越すまでは、また度々来よう。
また来れる。
まだ来れる。
帰りの足取りは軽かった。
今日のところは。