私が黙ってても何も言わない、とっても余裕な感じのTさん。


私が何か言うのを待っていてくれているのか、隣でバラバラになっているコースターの整理をしている。


「大人ってすごいですね。きっちり頭切り替えれて」


それとも切り替えるまでもなく、もともとたいして気にしてないのかも。そんなこともよぎったけど、できるだけ嫌味な感じで言ってみた。



「切り替えれてるように見える?」


コースターを整理しながら、私の方を見ないまま、Tさんが言った。


少し、意外な返事だった。


とても、嬉しい返事だった。


私が頷くと、Tさんは


「そうか、切り替えれてるように見えるか」


と言ってカウンターの向こうへ移動した。



私は今の会話に少し背中を押されたような感じがして、



あの日はすごく幸せな気分だったこと

でも、日に日に欲が出てきたこと

あれは何だったのかって、ずっともやもやしてたこと

などなど

ゆっくりと、何しゃべってるのか自分でもよくわからないままに

なんとかTさんにしゃべった。


Tさんはゆるーく微笑みながら聞いてくれてた。


ひとしきりしゃべったあと、Tさんが言った。


「まー、あれが気の迷いかどうかと言われれば、気の迷いじゃないですね」


「・・・・・・」


なんと返事を返していいかよくわからなくて黙ってしまったけど、その言葉だけで、十分な気がした。



Tさんが鞄を持ってカウンターから出てきた。



「さ、帰ろか」



そう言ってTさんが、カウンターに座っている私を



後ろから、抱きしめてくれた。





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