先週の水曜以来、自宅に引き篭もっていた。


すべきこと、やりたいこと、読みたい本が、山積。ちっとも、片付かない。




悶々悶々悶々悶々悶々悶々悶々悶々・・・・・



としていても始まらないので、まずは行動あるのみ。



ついに、別れの時を迎えた。

自らの手で、自らの意思で。



ややもすると、この引き潮のまま、自然消滅となるのは時間の問題。

でも、自分で幕を降ろしたい、と思った。はっきりと、きちんと。

自分に対するけじめと、相手に対する、人としての尊敬を守りたくて。



連休中に約束したとおり、荷物を全て引き取りに行くことにした。

折りしも、ご近所友人MKも都心の家を引き払う。彼女の荷物移動とあわせ、車で2軒のはしごを予定していた。


しかし、20時ごろ。ようやく待っていた連絡は、

「ごめん。飲んじゃった。混んでるし、遅くに出よう」と、いうものだった。


やむなく自宅で母と夕食を取り、落ち着かない時を過ごす。


22時過ぎ。電話が鳴った。MKと思いきや、酔ったB男からだった。


「今から帰るから、ワイン持って来い!」


・・・・・・。


賢明なみなさまは既にお気づきのことと思うが、今の私にとって、彼はとても大きな、大切な存在である。


何も考えずに、ただ会いたいと思った。

いつもの私ならば、迷い無く会いに行っただろう。

いろいろと相談も、話したいこともあり、一瞬迷ったが、今日ばかりは、流されてはいけない。

この状態では、会えない。大きな節目の予定をきちんと遂行するためにも、今日ばかりは首を横に振った。



しかし、23時、24時。日付が変わって午前1時。電話に出ないMK。


普段なら明日にしようと思うところだが、今日は違った。居ても立ってもいられず、丑三つ時。

だめ。このままじゃ、いけない。と、単身行くことを決めた。今日どうしても行かなくてはならない。


深夜3時過ぎ。行動開始。B男の家も近いので、なんとなくワインを2本持って車へ。

ただならぬ気配を察知したのか、母は「気を、つけてね。連絡してね。」と、送り出してくれた。


深夜の道は車もまばら。120kmで都心へとひた走る。

ハンドルを握る手には、なぜだか奇妙な力が入る。


40分後、見慣れた景色の坂を降りると、彼の家に着いた。


無人の家。そう、今日は留守である。

ポストに入った鍵を取り出し、重たいドアを開けた。

瞬間、懐かしいにおいが鼻腔を満たす。

楽しかった穏やかな日々、包まれた深い愛情が

走馬灯のように脳裏を過ぎった。


玄関で暫しの間、ぼんやりとたたずみ、動くことができなかった。

表現しがたい感情に包まれた。


眼下の大通りを通過した車のライトが、現実に引き戻す。


大きく深呼吸して、靴を脱ぎ室内へ。リビングのドアを開ける。

暗闇の室内。体が覚えている電気のスイッチを探ると、

テーブルに置かれた手紙に気づいた。

気遣いと、愛情に溢れた文面は、ぼんやりとにじんでよく読めなかった。



クロゼットの中の衣類、浴室、洗面所の化粧品、本。大きな袋を抱えて2往復半で、やっと片付く。

その量は、思っていたより膨大なものだった。両の手に感じる重さが、そのまま過ごした時の深さのように思えた。



30分後。最後の袋の準備を終え、簡単な手紙を書き、ワインを一本載せた。



ありがとう。そして、ごめんなさい。



重たい荷物と、からっぽになった頭と、いっぱいになった胸を抱え。そっとドアを閉め、かちり、と鍵を掛けた。

ドアの外、現実の世界は、夜が明け空が白んでいた。



なんだか、すごくおおきなものを失った気がして、運転席に座った。


もう、この半年で会ったのは3回だけ。話はおろか、まともに連絡すらしておらず。

それでも、いつも不変の深い深い愛情で包んで、常に私を庇護して、理解しようとしてくれた人を置いて、

私は、どこに向かってゆくのだろう。この道は、どこへ続いてゆくのだろう。



今はただ、自分の気持ちに素直に、選んだ道を信じるしかない。



どうしようかと迷いつつも、衝動的に5分後、B男宅前に辿り着く。

朝の慌しさに溢れた新聞店を、車内からぼんやり眺める。

車を降り、路地を曲がる。深く、ぐっすりと眠っているであろう部屋の窓を階下から見上げた。

あの窓の10センチ先。ここから10メートル以内に、あの男がいる。


真っ白な頭で、ぼんやり考えた。

無邪気に電話してしまうか、呼び鈴を鳴らしたい衝動に駆られた。

あるいはそっとドアを開け、眠る姿を垣間見られたら、どんなにか落ち着くだろう。


でも、どうしても。その先の行動を起こすことができなかった。今日は、今は。一人で完結しなくてはならない。



虚無感、不安感。

そして、ずっと望んでいたはずの、ようやく降りた緞帳への安堵感。

複雑に交錯するこの感情は、自らで昇華しなくてはいけないように感じた。けじめと、相手への敬意とを噛み締め。


誰かの支えなしには、そこに立って居られないようでは、

時が流れ、相手が変わってもまた、同じことを繰り返すように思う。大切なことは、自分で決めなくては。

自分で決めていないこと、自分で乗り切れなかったことは、必ずや後悔するだろう。

お腹に力を入れ、ここは乗り切らなくては。堪え時のような気がした。

自分の意志で方向を決め、動き出したのだから、自分の足で歩かなくては。もう,動き出したのだから。

私は、変わりたいのだ。変わらなくてはいけないのだ。もうこの先、苦しい別れの場面を迎えたくはないから。



今度こそは、やっと掴んだその手を、離さなくていいように。

追いかけた背中に手を伸ばし、手を回し暖かいぬくもりに顔を埋められるように。



真っ白な頭で、玄関の宅配BOXにワインを入れた。複雑な想いも、そこにしまうかのように。

鍵を掛ける。なんだか、宝の地図を隠したような気分になる。

そして、振り返らずに小走りに車へ戻る。

間髪入れず、「今から帰ります」と、心配している母にメールを入れ、キーをまわしアクセルを踏んだ。

空は、晴天。朝の生命力溢れた眩しい陽光に、気分は高揚。

40分間で自宅が近づくにつれ、少しずつ気分は晴れていった。


すっかり明るくなった頃、帰宅。

えもいわれぬ疲労と、安堵に包まれぐったりとし、母に声を掛け、すぐに部屋へ向かい就寝。

しかし、明るい外のせいなのか、気分的なものなのか?頭の芯が、さめざめと冷たく、眠ることができなかった。


2人で過ごした期間はごく短かかった。しかし省みると、とても深く濃縮されたものだったように思う。

この半年で何度も別れを切り出し、流され。共に過ごす時間も意思疎通もなく。認識・事実上は別れて久しかった。

連休最後の日、3ヶ月ぶりに会い最後通告をし、ようやく同意を感じ得た際も、もはや感情も乱されることもなく。

今日の日も、あくまで尊敬とけじめの意思表明、事務的で無味乾燥な終幕だと思っていたはずなのに。



直面した別れはやはり苦しく、切なく、悲しいものであった。

彼は、優しい優しい男の人だった。愛深く、素敵な男性だった。いつも、たくさんの愛情で、包んでくれた。

ほんとうに、ありがとう。そして、勝手でごめんね。


私はやはり、愛と感情に依存した人間なのだろう、と思った。



それでも、新しいスタートを切ったのだと。

この選択は正しく、虹の向こうへ続く道なのだと、信じて。