金曜8時。東京よりやや冷たい風に、短パンの生足が寒い。
駅を出て、緊張しつつ電話。「タリーズの前にいて」と約束。


タリーズを探し、車を探す。

あ、いた・・・・。


なつかしい、品川ナンバーのCayenne。


ひとつ、大きく息をして、ドアを開ける。

3ヵ月ぶりに会う。髪が伸びたし、ちょっと痩せたような気がする。
まずはお約束。開口一番「おっそくね?」


うぅ、・・・やっぱり、そう来たか。続いて、


「しっかし、よく来たね。ほんとに来たんだ。素足、寒くないの?」

うん、うんうん。何もかも吹っ飛んだ。寒さも忘れるHeartWarming。

試合前夜のため、夕食は、遅れた私を待たなくてもいい、
と伝えてあったのだが、
「めし、食おうぜ」と車を走らせる。

待っててくれたのね。わーい。ありがとう。

食事中、彼は楽しそうに、新しい生活をいろいろ語ってくれた。
「みんな、いい奴なのよ。すげえサッカー好きでさ。

嫌な奴とか、気取った感じ悪い奴とか、いなくて。全員、仲いいの。すごくない?」

よかった。ほんとに楽しそう。なんだか、吹っ切れ感すら漂う。

「さ、帰って明日のミーティングしよーぜ」

ミーティング?

はて。なんのことかと思ったら。

「まぁ、いろいろ、さ。」


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家に入ると、相変らず、驚くほど綺麗な部屋。隅々まで整頓されている。


家中をきょろきょろ見回す私に、彼はまるでツアーガイドのようなagenda。

まずはチケットを手渡される。用意しておいてくれたのね。

ちょっと嬉しい。


そのまま、懐かしいソファーに座り、地図を開く。

「今ここで、駅ここで、グランドここ。明日泊まるとことは、ここ。」

地図にマーキングをし、説明してくれる。

さらに、タクシーや宿の連絡先、鍵の閉め方、丁寧にメモしてくれる。

かなり嬉しい。


引っ越しても、配置は前の部屋と変わらず。懐かしささえ漂う。
相変らずTVっ子。一通りの説明が終わると、ソファでChannelZapping。

本を読んでいた私に、もたれかかってくる。


「あのー、重いんですけど」


はっ!しまった。また可愛くないことを言ってしまった。

ここで、かわいく寄り添えばよかったと、激しく後悔。

しかし、彼は何事もなかったかのように、「明日の用意しなきゃ」。

そう言って、席を立つ。


そして、時計がかちり、と音を立て、23時を知らせる。

パンクチュアルも、相変らず。
「さて。お先。俺は寝るね。電気とTVと暖房、切って来てね」
と、ひとり就寝。

はぁ~。


一気に緊張が抜ける。

眠りの浅い彼。今夜は、明日に備えて、ゆっくり寝て欲しいと思い。

深い眠りに入るのを、ソファで本を読んで待つ。

寝入ったかなあ。と様子を伺い。1:30ごろベッドルームへ。

不思議なもので、何も見えない真っ暗な部屋。ベッドすら手探りで探す闇。

しかし、なぜだか、彼は左端で寝ているとわかる。
踏んだら、ごめん。と思いつつ、そっとベッドへ滑り込む。


少し反応があったが、寝ているようだった。安堵。


試合前夜。休息を妨げぬよう、ベッドの両端に離れて眠りにつく。


手を延ばせば、そこに彼がいる。

ずっと、会いたかった彼。

顔も、美しい体躯も、全てが、手の届く距離にある。
でも、守ってあげなければいけない距離。

何度も目が覚め、そのたびごとに、手を伸ばしたい衝動を抑える。
彼も、相変わらず眠りが浅い。何度も携帯で時間をみては、再び眠る。

何度目かに覚めた時、カーテンの外が朝だとわかる。
何時なのかはわからない。でも、朝になってしまった。
今日しか、一緒に眠れないと思うと。

思わず、広い背中に手が伸びる。

起きていたのか、起こしてしまったのか。

私の手に、彼の手が重なる。

急にこちらに向き、顔が近づく。

息も鼓動も。時までもが、とまった夜。