[2008.9.19]石垣金星さんから、西表リゾート問題についてお話を伺う。 | -沖縄から地球を見る-石垣・西表調査旅行記

[2008.9.19]石垣金星さんから、西表リゾート問題についてお話を伺う。

さて。


今日の記事では、お忙しい中わざわざ我々のために足をお運びくださった石垣金星さんのお話、そして座談会の模様についてお話しましょう。



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この方が石垣金星さんであらせられます。

この魅惑的な名前の主は(なんと本名であられるそうです!)、西表の郷土史家・伝統芸能継承者で、島では知らぬ人はいないというほどの有名人なのだそうです。

普段は奥様と一緒に草木染織をされたり、「ヤマネコ安心印」なるお米を作っておられるそうな。

また、三線や歌の名手としても有名だとのことです。


ですが、この日のお話は染物のことでもお米のことでもありませんでした。

議題はずばり、「西表島のリゾート開発について」です。


今から4年前の2004年のこと。

西表に大型リゾート「南西楽園 ホテルニラカナイ」がオープンしました。

私は今回石垣・西表を旅行するあたり八重山の旅行情報誌を買ったのですが、そこにも大きく取り上げられていてふーん、よさげなリゾートホテルだなあなどと思っておりました。

また、ホテルのHPには

「全てのものに、自然にやさしいエコ、リサイクルを留意。

大自然との共存を実感できる新しいスタイルのリゾートシーンを演出します」

なんてことも書いてあって、ほう、リゾートなのにいろいろ頑張っているんだなあと感心もしておりました。


ところがどっこい。

このリゾート、実はエコどころかとんでもない経緯で作られ、経営を続けているホテルだったのです。

その経緯、そしてかのリゾート開発の問題点を石垣さんは詳しく教えてくださいました。


詳しくはこのサイト 、そしてこのサイト をご覧頂ければと思いますが、ざっと私なりにお話や問題のポイントを調べたところをかいつまんでお話しますと、大体以下のようなことであるらしいです。


1.今を遡ること約6年前のこと。

ユニマット不動産(あのオフィスコーヒーで有名な会社の系列だそうです)は浦内川河口右岸トゥドゥマリ浜(月が浜)の土地を買占め、リゾート開発に着手した。

これが後の「ニラカナイ」である。


2.その開発の際、地元住民に対する説明会が数回行われたが、いずれも形だけのもので肝心な情報開示は行われず、とても十分なものではなかった。


3.西表島はその面積の約35%が国立公園に指定されているが、島周縁の平地部は、当該浦内川河口の平地部も含めて指定からは外れている。

(これは恐らく、指定時の昭和47年当時には森・川・海の連続的な保全という考え方がなく、また、丁度本土復帰の時期であり、開発できる可能性のある平地部は除外されたものであろうと考えられている)


4.更に、ユニマット開発は13.5ヘクタールと比較的小規模なもので、これは開発時に企業に環境アセスメントを法的に義務づける20ヘクタールを下回ることからこのアセスメントの必要もなかった

(ここらへんは実に巧妙ですが)


5.3、4により、行政としては当該申請を却下することはできず(条件は整っているわけですから)、沖縄県から2002年10月に開発許可、2003年3月に建築許可が下り、同年3月に着工した。


6.これを受け、所謂「西表島リゾート開発差止訴訟」が開始される。

原告団(代表が石垣金星さん)は、環境権、人格権の侵害を主張するとともに(1審、2審)、同開発地は今現在保安林台帳には記載されていないものの、復帰以前は保安林だったことから、復帰後に「みなし保安林」とされていたということを根拠として当該土地を開発することの違法性を争った(2審)。

この訴訟は最高裁にまで上告されたが、結局棄却され原告側の敗訴が確定した。

しかし、1審・2審共に、
「(民事上の給付の訴えにおいては)自己が給付請求権の主体であると主張する者には原告適格が認められる」

とし、当該開発地の住民のみならず、所謂ネット原告ほか全ての原告に原告適格を認めた。

このこと自体は画期的と言える。


7.とはいえ、結局リゾート差止めはならず、ニラカナイは現在も営業を続けている。

この結果、毎年トゥドゥマリ浜に産卵にやってきたウミガメはとうとうやってこなくなり、他にも様々な影響がでている、と思われる。

思われる、というのは、なんせ環境アセスメントを行わなかったのでホテル建設前/後のビフォーアフターが分からないのである。


8.これだけでも困ったことだというのに、更にユニマットは西表の開発を進めようとしている。

今年9月、ユニマットが西表島西部の船浮地区の土地、約15.6ヘクタール(また20ヘクタール以下なわけですね)を購入したことが判明。

竹富町(西表の行政区分は竹富町)は世界自然遺産登録を視野に、町全域を西表石垣国立公園へ編入するよう準備を進めているが、その矢先の出来事であったという。

町はこの地域が竹富町国土利用計画で森林に区分されていることからリゾート実現の可能性は低いだろうという見解をもっているらしいが、なんせ負の実績を持っている企業の購入であるが故に先行きは不透明である。


…とまあ、ざっと纏めてみました。

(どこも「ざっと」ではありませんね。申し訳ない)


石垣さんのお話が一通り終わったあと、参加者から意見が続出しました。



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「開発が始まったら自然が害されるというのが明白なのに、差し止めることは不可能なのですか?

どういった方策もないのですか?」


「そうですね。なにもありませんね。

日本の立法・司法・行政というのは皆企業の味方ですよ」


ここで法律家代表として発言したのが野村美明先生。

今回のプロジェクトの起案者でもあります。


「このような差止が認められるようになるためには、憲法の私有財産権の保護規定自体を改正せねばならないでしょうね」


…成程。

そもそも、土地所有者と企業が売買契約をしてしまっている以上、建築の差止が認められるということは皆無に近いということは理解できます。

わが国では、これら両当事者の「私有財産権」に重きを置くシステムになっているのですから、周りの人間がやれ人格権だ、環境権だと言ってもそれらは通用しません。

それが認められるためには、先生の仰る通り、この国の根幹のシステム自体を変える必要がありましょう。


では、一体どうしたらいいのでしょう?

話し合いの中で、「ナショナルトラスト運動はどうか」という意見がでました。

皆様ご存じかとは思いますが、ナショナルトラスト運動とは、自然環境等を経済的な理由での無理な開発による環境破壊から守るため、市民活動等によって買い上げる・自治体に買い取りと保全を求める活動のことです。

(wikipediaより抜粋)

私有財産権には私有財産権を以て対抗せよ、ということですね。


しかしそれにはまず、この場所でこんなリゾート開発が行われようとしていますよ、これはかけがえのない自然にこんなダメージを与えます、だから守らねばならないのです、という「周知」が必要不可欠です。

ですが西表問題に関しては、まだまだこの周知がなされていないというのが実情です。


馬場先生はこんなことを仰いました。


「この前、台風13号来てたでしょ?

八重山に接近していたとき、本土じゃ殆どなんのニュースにもならなかったでしょ。

こっちでは作物に被害が出たり、建物に損害出てたりするんだけど全然ニュースにならない。

それは何故って、関心ないからですよ。

ところがひとたび本土に近づくと大騒ぎをする。

だって自分たちのことだもの。関心あるんだから。

それと一緒ですよ。

日本の殆どの人たちは、こんな果ての島の自然がどうなろうと知ったこっちゃあないんです」


悲しいことですが、確かにこれは真実です。

現に私だって、ここに来て石垣さんのお話を聞くまでどれほど西表の自然がせっぱつまった状況にあるかなんて想像もしていなかったのですから。


しかし、ナショナルトラスト運動であれなんであれ、この場所の自然を保護していくにはこの国の大多数の人間のコンセンサスを得ること、いえ少なくともせめて関心を持ってもらうこと、現状を知ってもらうことが必要不可欠であることには間違いありません。


だけど。

どうやって?


これは本当に本当に難しい問題です。

ここで私なんかにすっと答えが出せるようだったら、もうこの問題はとっくの昔に解決していることでしょう。

ですが、こんな小さな個人にでもできることは一体何なのかといえば、問題の巨大さにたじろぎはなから諦めることなく、また一時的な感情に流されあれこれやってみた挙句に飽きてもうやーめたと投げ出すことなく、小さいことからこつこつと(このフレーズは元某タレント政治家さんを彷彿とさせますが…)自分のできることを模索し実行し、そして少しずつ輪を広げていくべく努めることなのだと思います。


私にとっては、その小さな第一歩がこのブログです。

勿論、こんな弱小ブログを読んでくださる方など殆どいらっしゃらないだろうとは思いますが、できることであればこのブログでお一人にでも多く西表の環境状態、そして問題を知ってもらえたら、と願っています。


さて。


いろいろ難しい問題を話しつつ、石垣さんと馬場先生のお顔がふっと緩む一時がありました。

それは「安里屋ユンタ」の歌詞の意味に話が及んだ時。



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なんでも、歌詞の中に


「マタハリ チンタ マヌシャ」


なる言葉が出てくるそうです。

馬場先生の解説によると、これは「太陽を愛する人間」という意味のマレー語なのだとか。


「そう、そうですよ!こちらの言葉でも全く同じ意味です」


石垣さんは我が意を得たりとしきりに頷いておられました。


三線の名手にて歌の名手だという石垣さん。

次回は、是非その演奏と歌声を拝聴したいと思ったことでした。