「無事でよかった!」
気仙沼市魚市場に震災後初めてカツオを水揚げした漁船「第31大師丸」(静岡船籍)の漁労長、山本賢治さん(56)は28日早朝、下船すると、岸壁で待っていた地元の水産関係者と笑顔で握手を交わした。震災から約3カ月半ぶりに水揚げしたのは、27日に福島県・小名浜沖で取った計45トン。入札でにぎわう市場を見守った気仙沼漁業協同組合の佐藤亮輔組合長は「カツオは例年忘れないで必ず来てくれる」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
山本さんは魚市場で、大津波と火災に襲われ、港町の面影を失った気仙沼の様子を目にした感想を打ち明けた。「びっくりした。今年の水揚げは無理だと思っていたが、入港できてうれしいよ」
ベルトコンベヤーの上を流れていくカツオは朝日に照らされ、きらきらと輝く。山本さんは「昨日、積んだ時点で気仙沼しか考えてなかった。カツオの水揚げは毎年ここだよ」と当然のように話した。
「第31大師丸」が水揚げしたカツオは市内や仙台はもとより、国内市場に搬送され、食卓に上がった。気仙沼市でカキ養殖業を営む畠山重篤さんも「カツオが動けば気仙沼全体も動く。人々の意識も変わってくる。それに刺し身を食べないと浜の人は元気が出ないんだよ」と水揚げ再開を喜ぶ。
一方、カツオ1本釣りで知られる高知では29日早朝、中央卸売市場で気仙沼産カツオが取引された。気仙沼が復活ののろしを上げるのを宮城県以外の水産関係者も待ち望んでいた。
水揚げ再開に沸く気仙沼の魚市場だが、関係者は震災後の市場再開日をいつにするかで悩んだ。再開日は地元の水産関係者ら十数人による漁協のカツオ調整委員会で意見をまとめた上で決定した。
「再開を宣言してからカツオ船が入ってこなかったら港に問題があるのではないかと思われるかも」。風評被害を懸念する委員もいた。生鮮カツオの水揚げ14年連続日本一を誇る気仙沼が初めて抱えた問題だった。
市場再開は23日。カツオの北上が遅れたほか、悪天候が重なり、初水揚げは再開6日目にずれ込んだ。「初水揚げ」で水産関係者の表情は緩んだが、港町が受けたダメージは大きく、「気仙沼港から漁船が離れていくのではないか」という懸念は今でもぬぐえない。
「誰かが道を作ればつながる。カツオ船が1回入港すれば、どんどん来るよ」。山本さんは28日午前、再び沖に出た。出港前、さりげない言葉を言い残した。「また来るよ」