本当にデキるヤツってのは、仕事を選ばないものだよ。
目の前にあらわれた仕事を、それが何であれ、見事にやってのける。
有能なヒトって、そういうものですよね。
……ということを、改めて、ワタクシに教えてくれたのは、
直径14.5センチの、古いお皿でした。
いつごろのものかは、わかりません。
昔、伊勢丹新宿店では、毎年お正月に京都展を開催していました。
開化堂の茶筒とか、漆器とか、京都の老舗を集めた催事です。
そこで買った包丁を、毎年、無料で砥石で研いでくれるので、必然的に、毎年通うことになりました。
特別に硬いステンレス製なので「素人が研がないでね。毎年来るから、持ってきてね」と言われていたのです。
行かなきゃならない用事があるから、必ず行く。
研ぐのを待つ間は当然、京都展をぐるぐる回るわけですね。
ぐるぐる回れば、当然、欲しいものがあれこれ目に入る。
そして毎年、当時は購入額に応じて変わっていた伊勢丹カードの割引率を稼ぐことになる……と。
いやはや、よくできた催しでした。
ところが。
何年か前に、伊勢丹新宿店はどうやら方針転換をしたもようで……
若者向けの、三条かいわいっぽいオシャレな雑貨が中心になり、出店者の顔ぶれがかなり変わってしまいました。
ついでに、最近は、開催時期まで変わってしまい、どうやら夏になったようです。
いや~困るんですよね。そういうことされると。
開催時期が変わって以来、包丁を研いでもらうタイミングを逃しっぱなしで……
もう、無謀だけど自分で研いじゃおうかな、と……
……ま、百貨店の催事が永遠に続くと思っていたワタクシが、甘かっただけですが……ふっ
それはさておき。
毎年、通っていたころにあったお店の一つが、骨董屋さんでした。
京都の街中の骨董屋さんは、入るのに、ちょっと勇気が要ります。
でも、京都展では、ふらふら歩いていると、自然に古いものが目に入るわけです。
これはヤバい。
ある年、ぶらぶら京都展を歩いていると、古いものを集めたコーナーの片隅で、誰かがワタクシを呼び止めました。
京都の骨董屋さんらしい豪華絢爛な染付の焼き物の中に、ぽつんと三枚、このお皿が取り残されていたのです。
どうやら、ワタクシを呼び止めたのは、このお皿のようでした。
周りのお皿と比べると、びっくりするくらいお安いお値段でした。
でも、割れも欠けもありません。
そんなに古くないのかな?
薄手に作られた磁器の肌に、藍色一色で、丁寧に細かい模様が描かれています。
明らかに手描きです。
なんの模様でしょう。唐花模様かな?
細い線は、描いた人がそうとう几帳面な性格だったのではないかと思わせる繊細さ。
これ描くの、かなり大変だと思いますよ……
横から見ると、少しだけ形がいびつです。
ゆるやかな歪みが、全体を柔らかい印象にしています。
精緻な模様だけど、どこか庶民的なのは、このゆるさがあるからですね。
だから、お安いのかな?
裏返すと、二本の縁取りも几帳面に細く引かれています。
三カ所の模様は、波模様でしょうか。
高台の周りにも、やはり細い縁取りが二本。
高台の真ん中にも模様があります。
全体として、とても凝ったお皿のように見えます。
ただ、模様の雰囲気は、昭和っぽいかも。
やっぱり、そんなに古くないのかもしれません。
だから、お安いのかな?
とはいえ、この形のゆるさ、いびつさは、型で抜いた大量生産の工業製品とも思えません。
う~む。
なんだか、とても、お得感。
ほくほくと三枚とも連れて帰りました。
……これがいつの品物か、お店の人に、詳しく聞けばよかったんですけどね。
「わ~かわいい」で、もう連れて帰ることを決めてしまい、ろくに何だか聞かなかったんですよね。
ワタクシの買い物は、だいたい、こんな結末ですね。
まあ、謎が残っていたほうが、古いものは楽しいですから。
ふっふっふ。
また、我が家に、正体不明の古いものが、増えましたよ。
……増やしてどうする。
さて。
連れて帰ってみると、このお皿は、とても働き者でした。
直径14.5センチというサイズは、とにかく使いやすいです。
桜餅も、すっきりと収まります。
……って、黒文字、長いな。
カステラにもジャストサイズ。
藍一色の細かな模様は、和でも洋でも受け止める懐の深さ。
ケーキを乗せても、ほら、ぴったり。
イチゴの赤がひきたちます。
もちろん、和菓子は、ごく自然になじみます。
おやつ用の皿は数々あれど……って、数々あるんかい!
この皿は、何かの折に、ふっと手が伸びるようになりました。
食器棚に入らなかったせいもあるのかもしれません。
棚の上にぽんと積んであるので、自然にすぐ手が届くというメリットがあるわけです。
ええ。皿が増えすぎまして。食器棚、いっぱいです。
……って、アンタね。
働き者のお皿、活躍の場面はおやつのときだけではありません
菜の花のゴマ油炒めが、ほら、ぴったり。
単純な料理でも、繊細な模様のおかげで、なんか、ちょっと、豪華に見えますね。
朝食のサラダだって、いい感じです。
高さ2.8センチと、ほどよく縁があるので、ドレッシングをかけても安心感があります。
……ま、この日は塩だけでしたが。
皿がよければ、料理は手抜き……いや、シンプルでいいのだよ。うむ。
繊細だけど、ほどよい緩さ。
緻密だけど、藍一色のシンプルさ。
いつごろの何者かは、なんだかよくわからないけれど、
何をのせても、しっくりおさめる。
まったく、仕事を選ばない、有能なお皿です。
これを買った翌年から、たしか、伊勢丹新宿店の京都展はコンセプトが変わり、この骨董屋さんは来なくなってしまいました。
まあ、財布に危険な店が、一つ減ったということで。
……え? じゃあ、コンセプトが変わってから、もう京都展では無駄遣いしなくなったのかって?
三条系のオシャレな雑貨ショップが、財布に危険じゃないと、誰が言った?
……………………(呆)
開催時期が変わってから、一度も京都展に行けていません。
おかげさまで、財布のひもが、少しだけ硬くなりました。
やれやれ。困るんだけどね。包丁、研いでもらえなくて。
目の前にあらわれた仕事を、それが何であれ、見事にやってのける。
有能なヒトって、そういうものですよね。
……ということを、改めて、ワタクシに教えてくれたのは、
直径14.5センチの、古いお皿でした。

いつごろのものかは、わかりません。
昔、伊勢丹新宿店では、毎年お正月に京都展を開催していました。
開化堂の茶筒とか、漆器とか、京都の老舗を集めた催事です。
そこで買った包丁を、毎年、無料で砥石で研いでくれるので、必然的に、毎年通うことになりました。
特別に硬いステンレス製なので「素人が研がないでね。毎年来るから、持ってきてね」と言われていたのです。
行かなきゃならない用事があるから、必ず行く。
研ぐのを待つ間は当然、京都展をぐるぐる回るわけですね。
ぐるぐる回れば、当然、欲しいものがあれこれ目に入る。
そして毎年、当時は購入額に応じて変わっていた伊勢丹カードの割引率を稼ぐことになる……と。
いやはや、よくできた催しでした。
ところが。
何年か前に、伊勢丹新宿店はどうやら方針転換をしたもようで……
若者向けの、三条かいわいっぽいオシャレな雑貨が中心になり、出店者の顔ぶれがかなり変わってしまいました。
ついでに、最近は、開催時期まで変わってしまい、どうやら夏になったようです。
いや~困るんですよね。そういうことされると。
開催時期が変わって以来、包丁を研いでもらうタイミングを逃しっぱなしで……
もう、無謀だけど自分で研いじゃおうかな、と……
……ま、百貨店の催事が永遠に続くと思っていたワタクシが、甘かっただけですが……ふっ
それはさておき。
毎年、通っていたころにあったお店の一つが、骨董屋さんでした。
京都の街中の骨董屋さんは、入るのに、ちょっと勇気が要ります。
でも、京都展では、ふらふら歩いていると、自然に古いものが目に入るわけです。
これはヤバい。
ある年、ぶらぶら京都展を歩いていると、古いものを集めたコーナーの片隅で、誰かがワタクシを呼び止めました。
京都の骨董屋さんらしい豪華絢爛な染付の焼き物の中に、ぽつんと三枚、このお皿が取り残されていたのです。
どうやら、ワタクシを呼び止めたのは、このお皿のようでした。
周りのお皿と比べると、びっくりするくらいお安いお値段でした。
でも、割れも欠けもありません。
そんなに古くないのかな?
薄手に作られた磁器の肌に、藍色一色で、丁寧に細かい模様が描かれています。
明らかに手描きです。
なんの模様でしょう。唐花模様かな?

細い線は、描いた人がそうとう几帳面な性格だったのではないかと思わせる繊細さ。
これ描くの、かなり大変だと思いますよ……

横から見ると、少しだけ形がいびつです。
ゆるやかな歪みが、全体を柔らかい印象にしています。

精緻な模様だけど、どこか庶民的なのは、このゆるさがあるからですね。
だから、お安いのかな?
裏返すと、二本の縁取りも几帳面に細く引かれています。
三カ所の模様は、波模様でしょうか。

高台の周りにも、やはり細い縁取りが二本。
高台の真ん中にも模様があります。

全体として、とても凝ったお皿のように見えます。
ただ、模様の雰囲気は、昭和っぽいかも。
やっぱり、そんなに古くないのかもしれません。
だから、お安いのかな?
とはいえ、この形のゆるさ、いびつさは、型で抜いた大量生産の工業製品とも思えません。
う~む。
なんだか、とても、お得感。
ほくほくと三枚とも連れて帰りました。
……これがいつの品物か、お店の人に、詳しく聞けばよかったんですけどね。
「わ~かわいい」で、もう連れて帰ることを決めてしまい、ろくに何だか聞かなかったんですよね。
ワタクシの買い物は、だいたい、こんな結末ですね。
まあ、謎が残っていたほうが、古いものは楽しいですから。
ふっふっふ。
また、我が家に、正体不明の古いものが、増えましたよ。
……増やしてどうする。
さて。
連れて帰ってみると、このお皿は、とても働き者でした。
直径14.5センチというサイズは、とにかく使いやすいです。
桜餅も、すっきりと収まります。

……って、黒文字、長いな。
カステラにもジャストサイズ。

藍一色の細かな模様は、和でも洋でも受け止める懐の深さ。
ケーキを乗せても、ほら、ぴったり。
イチゴの赤がひきたちます。

もちろん、和菓子は、ごく自然になじみます。

おやつ用の皿は数々あれど……って、数々あるんかい!
この皿は、何かの折に、ふっと手が伸びるようになりました。
食器棚に入らなかったせいもあるのかもしれません。
棚の上にぽんと積んであるので、自然にすぐ手が届くというメリットがあるわけです。
ええ。皿が増えすぎまして。食器棚、いっぱいです。
……って、アンタね。
働き者のお皿、活躍の場面はおやつのときだけではありません
菜の花のゴマ油炒めが、ほら、ぴったり。
単純な料理でも、繊細な模様のおかげで、なんか、ちょっと、豪華に見えますね。

朝食のサラダだって、いい感じです。

高さ2.8センチと、ほどよく縁があるので、ドレッシングをかけても安心感があります。
……ま、この日は塩だけでしたが。
皿がよければ、料理は手抜き……いや、シンプルでいいのだよ。うむ。
繊細だけど、ほどよい緩さ。
緻密だけど、藍一色のシンプルさ。
いつごろの何者かは、なんだかよくわからないけれど、
何をのせても、しっくりおさめる。
まったく、仕事を選ばない、有能なお皿です。
これを買った翌年から、たしか、伊勢丹新宿店の京都展はコンセプトが変わり、この骨董屋さんは来なくなってしまいました。
まあ、財布に危険な店が、一つ減ったということで。
……え? じゃあ、コンセプトが変わってから、もう京都展では無駄遣いしなくなったのかって?
三条系のオシャレな雑貨ショップが、財布に危険じゃないと、誰が言った?
……………………(呆)
開催時期が変わってから、一度も京都展に行けていません。
おかげさまで、財布のひもが、少しだけ硬くなりました。
やれやれ。困るんだけどね。包丁、研いでもらえなくて。