カナダに住み始めて今日で908日になるが、いっこうに英語の聞き取りが上達しない。常々そう思っていたが、今日の昼、ちょっとした進歩を感じさせてくれることがあった。僕が働いているトロント小児病院の遺伝研究部は、毎週金曜日、公開のジャーナルクラブを開催していて、誰かが面白そうな論文を紹介してくれる。そんなことよりも僕はただでありつけるピザに引かれて、特に忙しくない限り欠かさず出ている。去年まで部長を務めていたDr. Rommensが、前に出てホワイトボードに書かれている文字を消そうとしていたが、なかなか消えない。近くに得体の知れないスプレーが置かれていて、試しに吹きかけてみるとよく消えた。彼女は"It's working, eh?"とみんなに向かって言った。文の最後に何と言ったか、数秒考えてしまったが、確かに"eh?"と言っていた。この"eh"は癖がないと言われるカナダ英語の中で、カナダ英語を象徴する単語で、文の終わりに付けて相手に同意を求める時に使われる。米国のコメディアンなどが、カナダの田舎臭さを出す時にも使うらしい。日本語で「エイ?」と上昇調に言えばじゅうぶん通じる。カナダ人はみんな弱く、自然に使っているため、そしてあまり意味がないため、自然な会話の中で今まではっきりと聞き取れたことがなかった。そんなわけで、ちょっとした感動を覚えた。日本人にはあまり馴染みがないが、嚢胞性線維症という欧米では頻度の高い遺伝病がある。Dr. Rommensはその原因遺伝子を発見した科学者として名高いが、そんな人がみんなの前で使ったということにも驚かされた。気が良さそうで、陽気なおばちゃんではあるが。