昔、紀省子という闘鶏を飼育する名人が王のために一羽のすぐれた鶏を育てていました。

王は強い鶏を待ち望み、紀省子に尋ねました。

「強い鶏を余の前に連れてまいれ」 
すると、紀省子は

「まだでございます、強い鶏はそうは簡単に育ちませぬ。今は空元気に過ぎませぬ」


しばらく日がたち、再び尋ねます。

「鶏はまだか」    
「まだでございます。相手を見るとすぐに興奮して仕方がありません。今しばらくお待ちくださいませ」

更に日がたちました。

「強い鶏はまだできぬのか」

「あともう少しですが、まだでございます。自分の力を過信し嵩にかかるところがありますゆえ」


痺れを切らした王はいよいよ紀省子に尋ねました。   
「いつまで待たせるのじゃ、鶏はまだか」     
「王様、いよいよ、誰にも負けぬ、真の強い鶏をお見せいたしましょう」

はたして紀省子が連れてきた鶏とは精巧に彫られた木の鶏でした。

「おぬし、これだけ待たせておいて余を馬鹿にしているのか」

王は怒り、剣を抜きその木鶏を叩き切り、壊してしまおうとしました。

その時はたと気づき、手を止めました。

木鶏と思ったその鳥は生きていたのです。

真の強い鶏は王が抜いた剣にも微動だにすることなく、じっと様子を伺っていました。

静かなること木鶏の如し

そうなりたいものです。

でもまだまだ。

ぜんぜん、まだまだまだです。