これは彼女との交際が始まって一ヶ月ほど経過した頃に起きた事件。


ポケベル全盛期。

ポケモン全性器。

私のポケット付近に潜むモンスターは場所をわきまえる事なく、素直に育っていた。

彼女は会社の寮に住んでいた。

私達はいつも会社の寮の前にある公園で会っていた。

当時は携帯電話も普及していなく、恋人達はポケベルで『愛』を伝え合っていた。

彼女のポケベルの番号は知っていたが、突然、彼女からポケベルの番号とオリジナル定型文が綴られた紙をもらった。

紙といってもペラペラの紙ではなく、防水加工のされた厚紙で二つ折りになっている。

表紙部分には、その紙を渡す相手の名前を記入できるようになっている。

大きさはテレカのサイズになっている。

紙はポケベルを購入するともらえるようになっている。

私も何枚か持っていた。

彼女から紙を受け取って中身を見た。

そこには『愛を綴ったメッセージ』が『短縮した番号で送れる』という『画期的な内容』が書かれていた。

『愛を綴ったメッセージぐらいは短縮せずに送れよ』と思いつつ、何気なく表紙を見た。

おかしい。

渡された紙を手に持ち、どこをどう見ても、何度も角度を変えても、精一杯に目を見開いても、私には自分の名前ではない男性の名前が記入されているようにしか見えない。

原因を考えた。


① 視力の低下

② 漢字勉強の不足

③ 私には密かに芸名がある

④ 今日から改名

⑤ 悪戯


どれも違う。

彼女に見せて、『オレじゃない。』と言った。

すると彼女は紙を見て『マチガイ』を確認した瞬間に紙をクシャクシャに丸めて口に放り込んだ。

おなかすいてたんやなぁ。

それも違う。

昔、オバチャンが駐車違反の紙をクシャクシャに丸めて口に放り込むCMを見て『おもしろい』と思った自分の目の前に同じような行為をする女性がいる。

しかも恋人。

『ゾッ』とした。

私は公園のベンチから立ち上がり、公園を囲む柵へ向かって走り出した。

そのまま柵を軽快に飛び越えアスファルトに着地した。

トレンディー。

アスファルトへ着地した私は一呼吸おいてからベンチで口をモゴモゴしている彼女の方へ背中を向けると、顔だけ振り返った。

そして、右手の『なかゆび』と『ひとさしゆび』を『ピンッ』と伸ばし、ピストルのポーズにすると、その右手を額にあてた。

まだ彼女はモゴモゴしている。

私は額にあてた右手を夜空に向かって振り上げながら叫んだ。

『あばよ!』

テクノカット。

カトリでもなく、ヤマシロでもない。

シンゴの気分。

皆まで言わん。

彼女はまだモゴモゴしている。

彼女の今日の夕食は『紙』のようだ。

いい夢見ろよ!