バック・オーライ。
夢中になっている二人は肉欲だけを頼りに交差している。
女は男に跨ったまま前後に激しく、時には緩やかに、暗闇に浮かぶ『しなやかな肉体』を駆使し、男のカラダへ肉欲を擦り込ませる。
男は擦り込まれた肉欲を吸収し、硬度を増していった。
肉欲はカラダを突き破り、互いを狂わせる。
車内という小さな密室に人間の姿はなかった。
オスはメスのカラダに噛みつき、メスはオスのカラダに爪を立てた。
暴淫暴触。
オスとメスは現実の世界だが、夢の世界にいる。
エロスが住みついた世界。
それはメルヘンであってエロスな世界、エロスであってメルヘンな世界。
エロヘン。
エロヘンの住人は現実の世界で起きている異変に気付いていない。
勝手にムーンウォークを始める車・・・。
興奮の坩堝の中、オスはメスのカラダに、メスはオスのカラダへと体液を撒き散らした・・・。
肉欲を出しきったオスとメスが、男と女に戻った時、街灯が二人を照らしていた。
着火地点から二十メートル近くバックしていた。
バック・オーライ。
バック・オーライ。
事故にならなくてよかったね。
バック・オーライ。
バック・オーライ。
夜明け前のバック・オーライ。
男は女にバッチゴー。
女は男にバッチ来い。