「なあ、少し思ったのだけれど、人が科学を信じて宇宙に広がるということは、そこまで非難されるべきことなのだろうか。うまく行かなかったことはともかくとしてだが」

 批判の気持ちは全くない。ただ、生命体の本義としてどうなのかという疑問があるだけだ。

「本義か。そこまで大きな話なのか」

 冷やかすつもりもないよ。でも、考えてみてくれ。もし宇宙に広がる、長く繁栄するということが目的であるとするなら、恒星があるではないか。あるいは、銀河系として生まれてくればよかったではないか。この地球上の生命体がどれほど長く存続できるとしても、太陽や地球ほど長く続くわけではないだろう?

「いやいや。一応確認しておくけど、それらは生命体ではないよね」

 違うね。

「あなたたちはもしかしてそういう認識なのかと思った。人の作った話の中では、時々星が一つの生命であるということが出てくる。まじめにそういう思想も説く人もいた」

 人はたぶんいろいろ考えすぎる生き物だ。したがって間違う。

「あなたは間違わないのか」

 間違うさ。しかしわたしたちの間違いは自分が死ぬことで簡単に結果が判明する。だから間違った理論は存在しない。もっと言えば、理論自体がないのだが。

「そこはわかった。それで、本義に反するということは?」

恒星や銀河系という成功例があるのだから、それと同じことをひ弱な生き物が真似をして誕生する理由がない。それらとは違う価値観を主張するためにいきものが生まれたと考えるべきだろう。もしかしたら、恒星が命を宿すという形でもよかったではないか。でもそうはならなかった。

「そこまではその通りだとして、しかし意識だとか理性的であることをこの宇宙にもたらすという理念は、あなたのその価値観に合致しているのではないだろうか」

 その理性の出した結論が、宇宙に広がる、銀河の支配的種族になるということなのでは?

「そう言われてしまうとなあ」

 科学の価値観はだいたいわかるよ。宇宙にはもしかしたら多くの生き物が散在しているかもしれない。いや、これは必然かな。環境があえば必ず生命が生まれる。これは非常にもっともらしい考え方だ。そして、生命が進化すると、最終的には必ず理性を持つ。そこが最高の目標だからだ。進化は偶然の積み重ねであるという前提を言いながら、必ず理性を獲得するところが目的地なのだ。理性が最高の価値であるという世界観が先にあって、すべてがそこから逆算されているのだね。つまり、どちらでもよいわけだ。最高に理性を獲得した人類が宇宙に拡散するか、万が一人類が地球で終わるとしても、宇宙には理性的な種族が満ち溢れているということで。