「平成20年版 国民生活白書」(3) 振り込め詐欺防止策の提言 | 個人資産を守れ!アカウントアグリゲーション考

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追加(2018.01.25)・・・やって後悔するか!!!、やらずに後悔するか!!!

      6.4 金融機関に焦点をあてた消費者保護対策の必要性
 
はくしょ【白書】:政府の各省庁が、その所管とする行政活動の現状や対策・展望などを国民に知らせる

          ための報告書


 前回ブログ、「平成20年版:国民生活白書 」を引用しまして、「振り込め詐欺」に関する心理学・脳科学上の、時間的な切迫感・私たちの意思決定には無意識的に判断するメカニズムと熟慮した上で判断するメカニズムの二つがあり、両者が並存していることを見て来ました。


(2007年度、内閣府委託研究 「消費者の意思決定行動に係る経済実験の実施及び分析調査」
        振り込め詐欺への神経科学からのアプローチ
 この論文の後半部分は、「6.4 金融機関に焦点をあてた消費者保護対策の必要性」が載っており、

米国の「高齢者に対する犯罪全般の刑の加重の法律」とか、「銀行取引消費者保護法」の立法での

対策、「金融機関には、できるだけ多数の国民に最低限の安全なサービスを提供する義務があるだろう」と国会への要望、他省庁の所管にも立ち入って提言しています。


社会技術研究会 :  http://shakai-gijutsu.org/
社会技術研究論文集http://shakai-gijutsu.org/sociotechnica.html
【引用】社会技術研究論文集 Vol.6, Mar. 2009、 [著者] 永岑光恵,原塑,信原幸弘 
  [論文タイトル] 振り込め詐欺への神経科学からのアプローチ, 177-186
            http://shakai-gijutsu.org/sociotechnica6.html


      振り込め詐欺への神経科学からのアプローチ (注:下線等の協調はブログ主の追加)
 少子高齢化社会は将来の日本社会を大きく規定する要因であり、ここから生じる諸問題を解決する社会技術の開発は緊急の課題である。基礎科学として発展してきた精神科学も少子高齢化に対応する社会技術として活用されなければならない。


 そこで、神経科学の社会技術的応用可能性を検討する先駆的試みとして、神経科学的観点から高齢化社会の問題、特に振り込め詐欺の認知上の原因を分析する。
 振り込め詐欺の内、オレオレ詐欺、還付金詐欺の被害が最も深刻だが、この被害者の大部分が中高齢者である。中高齢者の意思決定は加齢により自動化していくが、このことが詐欺に対する高齢者の脆弱性(ぜいじゃくせい: もろくて弱い性質または性格。)の原因となっている。
 そこで、中高齢者の意思決定上の特徴を考慮して振り込め詐欺の防止策を提案する。


1. はじめに(177)~6.2 (182) 高齢者を支える家庭や地域社会の再建の必要性・・・省略
 6.3 (182) 加害者への規制強化の可能性
 米国では、連邦法に高齢者に対する犯罪全般についての刑の加重があり、被害者の年齢その他属性に関連した量刑基準が定められている(33)。州法においても高齢者に対して詐欺を行った場合は、刑事的制裁を加重する規定がみられる(34)。
 日本では、このような年齢を切口とした規定はないが、現在の振り込め詐欺のような特に被害が大きく、取り締まりの必要性が高い分野に関しては、米国のような制裁強化も考えられてしかるべきであろう。
 このような社会制度によって、高齢者の保護を推進することも重要である。


6.4 金融機関に焦点をあてた消費者保護対策の必要性
 以下では、振り込め詐欺の発生に深く関与している社会システムである金融機関に焦点を絞って、考察を進めたい。というのも、金融機関に焦点をあてた振り込め詐欺対策が、現時点では最も有効性が高いと考えられるからである。
 振り込め詐欺の多くのケースにおいて、詐欺師は被害者の目の前に直接姿をあらわすことはなく、携帯電話等で接触を試み、被害者をだまして、金銭を加害者が管理する銀行口座に振り込ませる。このように、通信システムや金融システムといった公共性の高い社会基盤を悪用することによって、初めて、振り込め詐欺は成立するのである。(中略)


 振り込め詐欺に対する金融機関の関与は、加害者が被害者に入金させるための銀行口座を開設させた点、被害者による入金による加害者口座への銀行振り込みを許している点に認められるが、これらの点に銀行が何らかの責任を負わなければならないかどうかが問題となるだろう。
 銀行口座の開設に関しては、従来は行われていなかった口座開設に際しての本人確認の徹底など、銀行が対策に乗り出している。また、振り込みに関して、消費者保護を行う法的枠組みを導入する動きがみられる。


 従来、銀行口座への振り込み撤回は、振り込み委任契約の解除に当たると理解されていた。したがって、口座入金前までならば、振り込んだ人が自由に振り込みを撤回できるのではあるが、いったん、受取人の口座への入金作業が終了してしまうと、受取人の承諾なしには入金済みの金銭を振り込んだ人へ戻す事(組み直し)はできないのである。


 このため、従来は、振り込め詐欺被害者が振り込み手続きを行った後、騙されていたことに気が付き、振り込み手続きを撤回しようとしても、組み直しを行うことはできなかった。
 しかし、2008年6月21日に施行された「判事利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払いに関する法律」によれば、犯罪利用口座に滞留している被害残谷限り、口座名義人の権利を失効させ、それを被害者に返還することができるようになった。これは、振り込め詐欺被害者の救済への重要な一歩であるが、口座からすでに引き出された被害金を回復することはできないtため、振り込め詐欺被害者救済策としては不十分である。


 また、日本には、高齢消費者の保護に関連する法律として民法が定めている成年後見制度があり、この制度を利用し高齢者に対して事前に後見人を付けておけば、高齢者本人が単独で行った契約を後で取り消すことが可能となる。
 しかし、この制度では被害発生後に後見人を付けて高齢被害者を救済することはできない。


 後見人が付いている高齢者を除いて、犯罪利用口座への振り込みを取り消すことが出来ないのはなぜだろうか。それは、たとえ振り込み人の側に「瑕疵(かし:欠点、過失)ある意思表示や行為無能力」が認められる場合でも、振り込み人と銀行との間で振り込みの委任契約が成立しているとの理解を銀行がもっているからである。(注 1)・・・36


 しかし、このような理解が正当化できるかどうかについては疑問の余地がある。現に、楠本いく代(注 1)は、「消費者の瑕疵ある意思表示による、または、無能力者による支払指図は、一定の場合、相当の期間に限り、これを取り消すことができる」との規定を含む銀行取引消費者保護法を立法するように提言している。


 実際、振り込め詐欺被害者の多くには、意思決定能力に著しい低下が見られると予想され、詐欺状況下のように高いストレスを掛けられた状態では契約の有効性の根拠となる十分な理解力や判断力を発揮できないと考えられる。このような場合には、振り込み委任契約が成立していると考える事には無理がある。


 そのため、楠本の提言に従って、意思決定能力に低下がみられる被害者の振り込みを取り消すことができるように法的に定めるべきだろう。こう考えられるとすれば、被害者に加齢などにより意思決定能力の著しい低下がみられる場合に、銀行の責任において、振り込まれた金額が被害者に返還されることになる。


 このような対策をとるためには、意思決定能力に低下がみられる高齢者を特定出来なければならない。そのための手法として、
IGT(注 2)を活用することが考えられるだろう。このテストは、商業的詐欺への高齢者の脆弱性(ぜいじゃくせい: もろくて弱い性質または性格。)の評価法として、ある程度の信頼性を示している、
IGTの問題点としては、実施するのに一人あたり数時間を要する事であり、今後はより簡便なテスト法を開発したうえで、その簡易版のテストの信頼性を確かめていく必要がある。


 そして、もしも意思決定能力に低下がみられる高齢者の銀行振り込みを無効化するという仕方で被害者救済の責任を金融機関にも分担させる制度を作れば、金融機関に振り込め詐欺対策を実施させる強い動機付けを与えることが出来るだろう。

 しかしながら、このような制度は振り込め詐欺被害者救済への過大な責任を銀行に負わすものであり、意思決定能力の低下が疑われる高齢者には、そもそも一切の振り込み手続きの遂行を許さないという仕方で銀行が対応すればよいと考えられるかもしれない。そうすれば振り込め詐欺の成立を防止できるだけでなく、振り込め詐欺被害者を救済する責任を銀行が事務的に負う必要もなくなるだろう。


 だが、この意見は、金融機関が持つ公共的性格を正しく考慮していない点で、受け入れられない。経営難に陥った金融機関を特別に公的資金により救済することに国民が納得するのは、金融機関が公共性をもつことを国民が認めているからであり、その点から考えれば、金融機関が広く国民の社会生活の基礎を提供する責任を負うとみなすのは、不合理ではない。


 つまり、金融機関には、できるだけ多数の国民に最低限の安全なサービスを提供する義務があると言えるだろう。現実には、銀行が十分な安全なサービスを提供していないからこそ、意思決定能力に低下がみられる高齢者が振り込め詐欺被害に遭ってしまうのである。

 したがって、意思決定能力に低下が疑われる高齢者から、振り込みなどのサービスを利用する権利を一律に奪うという対策は妥当ではない。


 一方では、銀行の利用者の利益を広く守りつつ、しかしながら他方で、加害者からの悪用を排除する自主的な対策をとることが、金融業務の専門機関である銀行には求められるのである。
 ここでは、金融機関が果たすべき公共的責任について考察してきたが、携帯電話会社など通信機関に対しても、振り込め詐欺などに悪用されない安全なサービスを提供することを義務化する制度的枠組みを作る必要があることは言うまでもない。 (以下略)


(注 1):【楠本いく代】 (1997) 『金融機関のレンダー・ライアビリティ:金融ビッグバンと消費者保護』

                   東洋経済新報社. 36)


(注 2):意思決定に関する実験 Iowa Gambling Task ( I G T ) アイオワ・ギャンブリング課題:

     (前頭連合野腹内側部の機能障害を持った患者は、その選択が最終的に損であると分かって

     いる場合ですら以前の判断を選択し続ける傾向にある。