香織は子供の頃にアニメ「アルプスの少女ハイジ」を観て以来、スイスに行くことを夢見ていた。
雄大な山々、緑の牧草地、そしてハイジとおじいさんとの素朴な生活に魅了されていた。
写真家として、彼女はその光景を自分の目で捉え、他の人たちと共有したいと思っていた。
彼女は社会人になってから、スイスへの旅行のために、コツコツとお金を貯めていた。星太との生活を始めて、その思いは強くなり、機は熟したと感じ決断した。
カメラ、レンズ、三脚、その他の必需品をバックパックに詰め込んだ。彼女は冒険の準備ができていた。
星太は香織のアルプスへの想いを知っていたので、快く送り出してくれた。
飛行機の中では、星太が演奏するピアノをスマホで聴きながら、これから始まる旅路に胸を躍らせていた。
晴れた朝にチューリッヒに到着した。電車に乗ってラウターブルンネン渓谷に向かい、そこで居心地の良さそうな部屋を予約していた。
フレンドリーなオーナーに出迎えられ、部屋に案内された。窓からの景色に驚いた。滝が崖から流れ落ち、花で飾られた牧草地が広がり、穏やかに草を食む牛が見えた。
時間を無駄にせずにカメラをセットアップし、いくつかの写真を撮った。まるでおとぎ話の中にいるようだった。その日の残りの時間は徒歩で渓谷を探索し、見つけた景勝地を巡った。
香織はツェルマットの美しい渓谷で写真を撮っている最中、地元の住民と出会った。
一人のおじいさん、ハインリッヒと妻、エリーザが草を食む牛と一緒に歩いているのを見つけた。彼らは山々に囲まれたこの美しい場所で、何十年もの間生活していた。
「こんにちは、若いレディ。熱心に撮っているね。もしや写真家かい?」

香織はスイスの言葉が全く分からなかったが、スマホの翻訳アプリを使って、会話を試みた。
「はい、そうです。ずっとこの景色に憧れていました。感無量です。」
「写真家さん、もしよければ写真を撮ってもらってもいいですか?私たちと牛たちの写真を記念に残したいので。」
香織は喜んでカメラを用意し、ハインリッヒとエリーザと一緒に写真を撮った。彼らの笑顔と牛たちの背後に広がる山々は、まさにスイスの美しさを象徴していた。
「はるばる、遠い日本から、よくこのスイスの大地に来てくれたね。」
「はい、少女がアルプスで生活するアニメを子供の頃に見て、ずっとスイスに行くのが夢だったんです」
「あらまあ、あなたは夢が叶ったということね。素晴らしいわ。では、お祝いに夕食をご一緒しませんか?家に帰って美味しいスイスの料理を振る舞います。」
エリーザは雄大な山を象徴するような、柔らかい笑顔で招待した。
香織はこの甘い申し出に感動し、迷わず行くことに決めた。

夕陽が山々に沈む頃、彼女は老父婦の家に案内された。彼らの家は小さくて素朴で、温かみがあった。夕食のテーブルにはスイスのチーズ、パン、そして地元の特産品が並べられていた。
夕食の間、ハインリッヒとエリーザはスイスの山岳生活についての物語や伝説を語り、香織は興味津々で耳を傾けた。
お互いの言葉は違っても、伝えたいと言う思いと、翻訳アプリを駆使することで、お互いの距離は一気に縮まり、夜通し語り合った。
ご夫婦の計らいで、納屋にある干し草をベッドにして香織は一晩過ごすことができた。
翌朝目覚めると、心地よい朝日と共に、ふかふかの干し草のベッドから起き上がった。

まるでハイジのような気持ちになり、近くにペーターが羊を連れて迎えに来るのではないか、と錯覚するほどだった。
「美味しい食事と寝室を用意してくださり、素晴らしい時間を過ごせました。このご恩は一生忘れません」
「いいえ、こちらこそありがとう。香織さんが訪れてくれて、若い息吹を感じ活力が湧いてきたよ。スイスでの旅が人生の良い導きになるように願っているよ。」
香織は、まるで生涯の友と出会えたような感覚になれた。この一夜で、スイスでの旅がますます特別なものとなったことを感じた。

翌日、電車に乗ってレマン湖に向かった。湖の美しさに太陽の下で驚嘆した。水面に映るモンブランと、空にそびえるジェドーの噴水を見ることができた。
自転車を借りて海岸線を走り、湖と周囲の風景を写真に収めた。途中、シヨン城を訪れた。

レマン湖で2日間を楽しんだ後、次はマッターホルンを見るためにツェルマットへ向かった。
ケーブルカーに乗ってクラインマッターホルンに到着し、アルプスのパノラマを楽しんだ。雲の上に聳えるマッターホルンを見て、言葉が出なかった。さまざまな角度や光の条件で山の美しさを捉えようと、数百枚の写真を撮った。
ツェルマットのホテルに泊まり、他の観光客や写真家と交流した。彼らからいくつかのヒントやテクニックを学び、写真を交換した。賑やかで楽しいツェルマットのナイトライフも楽しんだ。
その後、ユングフラウヨッホ行きの電車に乗り、ヨーロッパ最高峰の鉄道駅へ向かった。
アルプスの山々や氷河の美しさに興奮し、電車でトンネルや橋を通って上昇した。頂上に着いたとき、アドレナリンが湧き上がった。
電車を降りると、冷たい空気が顔に触れ、雪が足元に積もっているのを感じた。氷の彫刻や雪だるまを見かけた。
素晴らしい景色の写真を撮ったり、自撮り写真を撮ったりした。ヨーロッパの頂点に立った気分だった。

香織はこの旅で、子供の頃からの夢だったアルプスをこの目で観て、写真に残せたことに、この上ない幸せを感じていた。
前に踏み出す勇気さえあれば、人生はなんとでもなると感じられた。
写真家として、さらなる高みを目指しながら、星太と共に人生を歩んでいきたい、その思いはこの旅でさらに強くなった。
「これからも、ときめいていたい!」それは自分次第で可能なんだと思えた。
アルプスを体感したことで、なぜハイジに魅せられていたか理解できた。
凛とした女の子、それは強く、優しく、思いやりのある理想の女性像だったからだ。
これから、目指すべき人生が何なのか分かった瞬間だった。
「博多に帰ったら、老夫婦に教わったスイス料理を彼にうんと振る舞ってあげよう。」
そう思いながら帰路に着いた。



