残暑お見舞いってことで。 | フェンリルの胃袋

 お盆に親に付いて里帰りをしていたときのことです。

 我々家族のほかに、父親の妹つまり私にとっては叔母の家族も帰ってきておりました。

 叔母の家族には小学校5年生の男の子がひとり居りまして、その従兄弟の成長を見るのもまた、こういった時期のひとつの楽しみでもありました。


 お盆の行事というのはいろいろありますが、そのひとつに墓の灯篭に火を灯すというのがあります。

 我が家の菩提寺というのは家から歩いていける距離にありまして、夕暮れ時ともなると家族揃って灯篭に火を灯しに行くのです。ひとつの墓に2基の灯篭がありますから、大半の檀家が火を灯して帰ると墓全体に蝋燭の炎が揺らめき幻想的とさえいえる風景です。


 さて、我々も火を灯しますと「さっさと帰って晩御飯にしよう」となるところなのですが、今年は少し違いました。

 なにやら寺の本堂の隅に見慣れない人形が飾ってあるのです。

 5、6体は置いてあったでしょうか。確かに、古い寺にはあってもおかしくないような古い和人形でしたが、昨年までは無かったことを思うとどうしても気になったのです。

 帰り道を歩きながら祖母に尋ねてみますと、檀家の誰かが持ってきたそうなのです。別に髪の毛が伸びるとか夜中に動き出すとかそういったわけではないが、やはり人の形をしているものを捨てるのは忍びないからと寺に寄進したそうな。とこういう話でした。

 なんら怖い話ではないのですが、従兄弟の子はそれでも少し人形におびえているようでした。おびえている従兄弟をからかって家族は笑いながら歩いています。


 晩御飯の後に私と従兄弟は将棋を打っていました。祖父母の家にプレステやらパソコンやらはなく、時間を潰すものといえば将棋ぐらいな物です。

 クーラーもないので障子を全部開けてかぜを通しています。

 従兄弟は将棋盤をにらんでいます。 

 父親たちはテレビを見ています。

 母親たちは台所で後片付けをしています。

 だから、それを見たのはテレビに背を向けて将棋を指している私だけだったはずです。

 

 風下の方の廊下を、つまり従兄弟のすぐ後ろを和服姿の男の子がスーっと通り抜けたんです。


 その夜はしっかりと戸を閉めて寝ました。

 翌朝になり、寺まで和尚に会いに行き見たものを話して事情を聞くとやはりいわくつきの人形だったようです。普段は影響が寺を出ることはなく騒ぎ立てるとよけいに厄介だからとひっそり供養していたようですが、昨晩のことが盆の時期だからなのか子供を見つけたからなのか、それはわからないとのことでした。


 結局今年はその日以降本堂に入っていません。

 従兄弟にも別段変わったところはなく元気に暮らしているそうです。