「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻(ありさとしょうげん)が衆人環視のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。有里匠幻が殺害された現場に居合わせた犀川助教授と西之園萌絵の師弟が明かす驚愕の真実とは?

小説の冒頭で有里匠幻は一人の少女と出会い、その少女は西之園萌絵と出会う。
彼女は中学生で名前は加部谷恵美。後にGシリーズの主人公の一人となる人物だ。

今でも何か不思議なことに出会うと、僕は、自分の知らない法則だと思うことにしている。
ときには、世の中の誰も知らない法則かもしれない。

大人になるほどこんな素敵は少なくなる。努力して探し回らないと見つからない。
このまえ、君は科学がただの記号だって言ったけど、そのとおりなんだ。
記号を覚え、数式を組み立てることによって、僕らは大好きだった不思議を排除する。
そうしないと新しい不思議が見つからないからさ。
探し回って、たまに少し不思議な素敵を見つけては、また、そいつらを一つずつ消していくんだ。
もっともっとすごい不思議に出会えると信じてね・・・。
でも、記号なんて金魚すくいの紙の網みたいにさ、きっといつかは破れてしまうのだろう。たぶんそれを心のどこかで期待している。
金魚すくいをする子どもだって、最初から網が破れることを知っているんだよ。

こんな風に言える犀川先生はステキだと思います。

その犀川先生、遂に長年乗っていたシビックが修理不能なほど壊れ、新しい車を買わなければならなくなったのだが、何と萌絵に選んでもらう。
「あれ何かいいんじゃないですか?」と萌絵は軽い気持ちで言ったのだが、犀川は気に入ってしまい、その場で注文しようとしたので、さすがに萌絵が慌てて止め、犀川を引きずるようにディーラを出ていく・・・結局、その辛子色のルノーを買うんですよね・・・
色なんかも「僕は乗っているから色なんてどうでもいい」それはそうなんですけど・・・

今回の事件のキーは「名前」なんだと思います。
世の中のものにはすべでのものに名前がある。
その「名前」にすべてのものは縛られている。

この事件の犯人も「有里匠幻」という名に縛り続けられてきた一生だったのかもしれない。

そして、不条理な感情にすら名前がある。
「恋」という名が・・・

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