大方の予想というか、覚悟はしていたけれど、
送別会も、基本は “飲み会” な訳で・・・
会の名前は違えど、中身は一緒。
何処かで見た光景が、目の前に広がっている。
この既視感は、昨年末の忘年会だ。
一次会の始まりは、淡々と飲む感じだったのが、
時間とともに数人ずつの、話の輪が出来上がり、席が入れ替わる。
私は元々が、若いからといって、
若い人たちだけで固まるようなタイプではなかったから、
職場の内々な飲み会でも、割と色んな人と飲むことが出来る。
例によって、座敷の端では、
佐藤さん、由真ちゃんがギャーギャーと騒いでいて、
由真ちゃんの保護者役みたいになっている、黒田さんも付き合って
楽しくしているのが見える。
今日の主役、井沢さんもその輪の中にいた。
忘年会の時みたいに、木内さんや、志野先輩がいないから
混ざれないこともないけれど、私はなんとなく遠慮していた。
まっちゃんは、由真ちゃんに呼ばれて、あっちに顔を出しに行っている。
一次会というのは、場所を借りている以上、時間に制限があるし
「これから盛り上がるのに!」 というところで、
お開きになる場合が多い。
送別会でも、例に漏れずで、
その流れで二次会に突入することになった。
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一次会では、表面上の付き合いで・・・と言う人も集まるけれど、
二次会になると、結構濃いメンバーしか残らない。
好きで参加する人だけだから、かなりグダグダになる。
二次会の途中で、部長と課長が帰ってからは、
これからが本番とばかりに、残った若い人たちや、
もう少し年上の人たちだけが残り、それこそ無礼講になった。
本当なら、部課長が帰るくらいの時間に、
私も帰らないと門限に間に合わないけれど、今日は無理をしていた。
母は納得しないままだったけど、日付が変わる前までには帰るからと、
強引に家を出てきた。
帰宅したら、きっと鬼のような母が起きて待っていて、
延々と説教を聞くことになるだろう。
・・・ あとは、平手打ちがあるかもね。
そんなことは、覚悟の上で出てきたから、途中で帰るつもりなどない。
だから、課長に時間を心配されても、
「昨日から、親が旅行に行っているので、たまには遊ぼうかと・・・」
予め用意していた言葉で、どうにかやり過ごした。
大部屋のカラオケボックスで、ソファーに座って、
曲を選ぶでもなく、誰かの歌声を聴くでもなく、
私は由真ちゃんと、佐藤さんを眺めていた。
職場の人の前などお構いなしで、
佐藤さんにベッタリの由真ちゃんが羨ましい。
佐藤さんに彼女がいても、積極的な由真ちゃん。
“彼の隣は、誰にも譲らない!” といった感じ。
まっちゃんは、日頃からノリが良いし、元気いっぱいだし、
しかも歌も上手い!
何人かとデュエットをしたり、カラオケを楽しんでいる。
そして、井沢さんは・・・
黒田さんと、何かを話している。
笑うわけでもなく、淡々と話をしている様子が見える。
今、こんな状況でも、私は妬くことが出来るらしい。
どんな理由であれ、
井沢さんの口から 「好き」 という言葉が出た人だから・・・。
( なんで、こんな時にまで、モヤモヤしないといけないんだろう )
昨夜、自分で心配していたような、危うい精神状態になりそう。
まさか、妬いて不安定になるなんて思わなかったけど、
このまま見ていれば、間違いなく涙が隠せなくなると思った。
これだけ騒がしいボックスでは、トイレに立つのは楽。
しかも、殆どの人がかなりの量を飲んでいて、
相応に酔っているから、会話も含めて、相手なんて気にしていない。
でも、一応は周囲を気にしながら、ソロリと廊下に出た。
防音の重いドアを閉めると、途端に、耳が騒音から解放される。
音が籠ったような、変な違和感。
・・・ とりあえず、ちょっとだけ一人になろう。
このカラオケボックスには、よく来ているから、
ちょっと判りにくい場所にあるトイレにも、迷うことなく辿りつく。
狭い階段を下りた先には、トイレと倉庫のような部屋しかない。
とても静かで、落ち着く・・・。
そうはいっても、いつまでもトイレには居られないから、
倉庫の前の、少し広い場所に移動する。
トイレからは死角になっていて、誰に気付かれることもなく安心。
椅子など無い場所。
壁に背中をつけて、しゃがみ込んだ。
( 最後くらい、頑張ってみる? でも、邪魔に思われるかも・・・ )
酔いに任せて、テンションが上がっている同僚に混ざることが・・・
出来ないんだよね。
酔うほど飲んでいないし、これだけ頭がハッキリしているんだから、
酔ったフリなんて無理に等しい。
「ああ、ホントに馬鹿だ~・・・」
大好きな人の送別会で、何をモヤモヤと考えているんだろう。
考えれば考えるほど、ドツボに嵌る。
でも、気にしていない風を装って、普段通りでいないとおかしい。
呪文を唱えるように、
“大丈夫、だいじょうぶ・・・”
自分に言い聞かせるように、何度も頭の中で繰り返した。
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