【152】ヤキモチと自己嫌悪 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


大方の予想というか、覚悟はしていたけれど、

送別会も、基本は “飲み会” な訳で・・・

会の名前は違えど、中身は一緒。



何処かで見た光景が、目の前に広がっている。

この既視感は、昨年末の忘年会だ。



一次会の始まりは、淡々と飲む感じだったのが、

時間とともに数人ずつの、話の輪が出来上がり、席が入れ替わる。


私は元々が、若いからといって、

若い人たちだけで固まるようなタイプではなかったから、

職場の内々な飲み会でも、割と色んな人と飲むことが出来る。


例によって、座敷の端では、

佐藤さん、由真ちゃんがギャーギャーと騒いでいて、

由真ちゃんの保護者役みたいになっている、黒田さんも付き合って

楽しくしているのが見える。



今日の主役、井沢さんもその輪の中にいた。


忘年会の時みたいに、木内さんや、志野先輩がいないから

混ざれないこともないけれど、私はなんとなく遠慮していた。


まっちゃんは、由真ちゃんに呼ばれて、あっちに顔を出しに行っている。


一次会というのは、場所を借りている以上、時間に制限があるし

「これから盛り上がるのに!」 というところで、

お開きになる場合が多い。


送別会でも、例に漏れずで、

その流れで二次会に突入することになった。

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一次会では、表面上の付き合いで・・・と言う人も集まるけれど、

二次会になると、結構濃いメンバーしか残らない。

好きで参加する人だけだから、かなりグダグダになる。



二次会の途中で、部長と課長が帰ってからは、

これからが本番とばかりに、残った若い人たちや、

もう少し年上の人たちだけが残り、それこそ無礼講になった。


本当なら、部課長が帰るくらいの時間に、

私も帰らないと門限に間に合わないけれど、今日は無理をしていた。

母は納得しないままだったけど、日付が変わる前までには帰るからと、

強引に家を出てきた。


帰宅したら、きっと鬼のような母が起きて待っていて、

延々と説教を聞くことになるだろう。

・・・ あとは、平手打ちがあるかもね。

そんなことは、覚悟の上で出てきたから、途中で帰るつもりなどない。



だから、課長に時間を心配されても、

「昨日から、親が旅行に行っているので、たまには遊ぼうかと・・・」

予め用意していた言葉で、どうにかやり過ごした。



大部屋のカラオケボックスで、ソファーに座って、

曲を選ぶでもなく、誰かの歌声を聴くでもなく、

私は由真ちゃんと、佐藤さんを眺めていた。


職場の人の前などお構いなしで、

佐藤さんにベッタリの由真ちゃんが羨ましい。


佐藤さんに彼女がいても、積極的な由真ちゃん。

“彼の隣は、誰にも譲らない!” といった感じ。


まっちゃんは、日頃からノリが良いし、元気いっぱいだし、

しかも歌も上手い!

何人かとデュエットをしたり、カラオケを楽しんでいる。


そして、井沢さんは・・・

黒田さんと、何かを話している。

笑うわけでもなく、淡々と話をしている様子が見える。


今、こんな状況でも、私は妬くことが出来るらしい。


どんな理由であれ、

井沢さんの口から 「好き」 という言葉が出た人だから・・・。



( なんで、こんな時にまで、モヤモヤしないといけないんだろう )


昨夜、自分で心配していたような、危うい精神状態になりそう。

まさか、妬いて不安定になるなんて思わなかったけど、

このまま見ていれば、間違いなく涙が隠せなくなると思った。



これだけ騒がしいボックスでは、トイレに立つのは楽。

しかも、殆どの人がかなりの量を飲んでいて、

相応に酔っているから、会話も含めて、相手なんて気にしていない。


でも、一応は周囲を気にしながら、ソロリと廊下に出た。


防音の重いドアを閉めると、途端に、耳が騒音から解放される。

音が籠ったような、変な違和感。


・・・ とりあえず、ちょっとだけ一人になろう。


このカラオケボックスには、よく来ているから、

ちょっと判りにくい場所にあるトイレにも、迷うことなく辿りつく。


狭い階段を下りた先には、トイレと倉庫のような部屋しかない。

とても静かで、落ち着く・・・。


そうはいっても、いつまでもトイレには居られないから、

倉庫の前の、少し広い場所に移動する。

トイレからは死角になっていて、誰に気付かれることもなく安心。


椅子など無い場所。

壁に背中をつけて、しゃがみ込んだ。



( 最後くらい、頑張ってみる? でも、邪魔に思われるかも・・・ )


酔いに任せて、テンションが上がっている同僚に混ざることが・・・

出来ないんだよね。

酔うほど飲んでいないし、これだけ頭がハッキリしているんだから、

酔ったフリなんて無理に等しい。



「ああ、ホントに馬鹿だ~・・・」


大好きな人の送別会で、何をモヤモヤと考えているんだろう。

考えれば考えるほど、ドツボに嵌る。


でも、気にしていない風を装って、普段通りでいないとおかしい。



呪文を唱えるように、

“大丈夫、だいじょうぶ・・・”

自分に言い聞かせるように、何度も頭の中で繰り返した。




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