七(八)つの大罪

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曖昧さ回避 七つの大罪を表題に引用した作品については「七つの大罪 (曖昧さ回避)」をご覧ください。

ヒエロニムス・ボスの『七つの大罪と四終』(Table of the Mortal Sins / The Seven Deadly Sins and the Four Last Things)。1485年

七つの大罪(ななつのたいざい、ラテン語: septem peccata mortalia、: seven deadly sins)は、キリスト教の西方教会、おもにカトリック教会における用語。ラテン語や英語での意味は「七つの死に至る罪」だが、「」そのものというよりは、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すもので、日本のカトリック教会では七つの罪源(ななつのざいげん)と訳している[1]

 

目次

1歴史
2カトリック教会の七つの罪源
3七つの大罪の関連付け
4最近の七つの大罪
5七つの社会的罪
6脚注
6.1注釈
6.2出典
7参考文献
8関連項目

歴史

七つの大罪(七つの罪源)は、4世紀エジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作『修行論』に八つの「人間一般の想念」として現れたのが起源である。キリスト教の正典である聖書の中で七つの罪源について直接に言及されてはいない。八つの想念はエヴァグリオスによると「貪食」、「淫蕩」、「金銭欲(強欲)」、「悲嘆」、「怒り」、「怠惰(アケーディア)」、「虚栄心(自惚れ)」、「傲慢」である[2]

詳細は「ポントスのエウァグリオス#著作『修行論』について」を参照

それを5世紀の初めに(360年頃-430年頃)が「八つの主要な悪徳」としてラテン語世界へ伝えた。一覧の四番目と五番目が入れ替わり、順序が<1>貪食、<2>淫蕩、<3>金銭欲(強欲)、<4>怒り、<5>悲嘆、<6>怠惰(アケーディア、倦怠)、<7>虚栄、<8>高慢、となった[3]

6世紀後半には、グレゴリウス1世(540年頃-604年)がその内の「高慢」をすべての悪の根として別格扱いとし一覧から外し、高慢から生まれる「七つの主要な悪徳」として次のものを挙げた。<1>虚栄、<2>嫉妬、<3>怒り、<4>悲嘆、<5>強欲、<6>腹の貪食、<7>淫蕩、である。カッシアヌスの伝えた一覧の「怠惰(アケーディア)」は「悲嘆」に含めてまとめられ、新たに「嫉妬」が加わった。順序は「虚栄」が先頭に移動し、次に「嫉妬」が加わり、「貪食」、「淫蕩」が最初から最後に移動した。グレゴリウスの一覧は、精神的なものが前に、身体的、物質的な悪徳が後ろに並んでいるのが特徴である。[3]

13世紀のトマス・アクィナス(1225年-1274年)も、その著作の中で、キリスト教徒の七つの枢要徳と対比する形で七つの「枢要悪」をあげている。<1>虚栄(inanis gloria)<2>嫉妬(invidia)<3>怠惰(acedia)<4>怒り(ira)<5>強欲(avaritia)<6>貪食(gula)<7>淫蕩(luxuria)となっており、グレゴリウスが外した怠惰(アケーディア)が悲嘆に代わって復活している[3]

カトリック教会の七つの罪源

現代の『カトリック教会のカテキズム』では、「七つの罪源」について、ヨハネス・カッシアヌス英語Johannes Cassianus)やグレゴリウス1世以来伝統的に罪の源とみなされてきたものとして言及されている。それは以下の七つである[4]

七つの掲載順は、『カトリック教会のカテキズム』のラテン語規範版[5]と日本語版(2002年)[4]で一部異なるが、ここではラテン語規範版および『カトリック教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』日本語版(2010年)[1]に書かれている順番による。教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』日本語版(2010年)では訳語が異なるものがあるが[1]、ここではそれを()内に付記する。

日本語 ラテン語 英語[6]
高慢 superbia pride
物欲(貪欲) avaritia greed
ねたみ(嫉妬 invidia envy[注 1]
怒り ira wrath
色欲(肉欲) luxuria lust
貪食 gula gluttony
怠惰 pigritia/acedia sloth

中世のキリスト教の世界観が最もよく表されているダンテ・アリギエーリの叙事詩、『神曲』煉獄篇においても、煉獄山の七つの冠において、死者がこの罪を清めることになっている(煉獄篇を参照)。

七つの大罪の関連付け

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この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。

1589年、ドイツのペーター・ビンスフェルト英語Peter Binsfeld)は、罪と悪魔の関係を記した著作を著したが、その中で、七つの大罪も特定の悪魔との関連付けている。このような七つの大罪と悪魔との関連づけは、キリスト教の本質的な部分と無関係だが、通俗的なグリモワールにおいて引用されることとなった。

七つの大罪と悪魔の関連を最初に表現したのは、16世紀の版画家ハンス・ブルクマイアーである。これには、悪魔がそれぞれ自分の名の記されたリボンを手にしている姿が描かれていた。また、中世には悪魔でなく動物の姿で表しているものも見られる。

七つの大罪とそれに比肩する悪魔と動物
大罪 対応悪魔 動物
傲慢(高慢) ルシファー露西亜 グリフォンライオン英国、孔雀イルミナティ、蝙蝠
憤怒(激情) サタン中国赤軍 ユニコーンオーガ黒竜江省、ドラゴン
嫉妬(羨望) レヴィアタン マーメイド頭、韓国、土竜
怠惰(堕落) ベルフェゴール フェニックス驢馬ナマケモノ
強欲(貪欲) マモン ゴブリン在日、針鼠八咫烏、蜘蛛
暴食(大食) ベルゼブブ朝鮮 ケルベロスオーク、リスヘリコ🚁
色欲(肉欲) アスモデウス韓国 インキュバスサキュバス山羊

プルデンティウス英語Prudentius)(348‐405以後)の「プシュコマキア英語Psychomachia)」によれば、七つの大罪は、それぞれ次の美徳に対応しているという。暴食⇔節制、色欲⇔純潔、強欲⇔慈善寛容、憤怒⇔忍耐、怠惰⇔勤勉、嫉妬⇔感謝人徳、傲慢⇔謙虚

最近の七つの大罪

2008年3月、ローマ教皇庁は新たな七つの大罪を発表した。それは、遺伝子改造人体実験環境汚染・社会的不公正・貧困・過度な裕福さ・麻薬中毒である。遺伝子改造などは、胚性幹細胞への牽制とみられる[9]。【注:

七つの社会的罪

マハトマ・ガンディーは1925年10月22日に雑誌『Young India』(英語版)にて、「七つの社会的罪」(Seven Social Sins)として次の七つを指摘した[10]

  • 理念なき政治(Politics without Principle)
  • 労働なき富(Wealth without Work)
  • 良心なき快楽(Pleasure without Conscience)
  • 人格なき学識(Knowledge without Character)
  • 道徳なき商業(Commerce without Morality)
  • 人間性なき科学(Science without Humanity)
  • 献身なき信仰(Worship without Sacrifice)

「七つの社会的罪」はインドのラージ・ガートにあるガンディーの慰霊碑の外壁にも刻まれている。

脚注

注釈

  1. ^ 七つの大罪において、その元の言葉はいくつかの日本語に翻訳することができるが、その一例としてenvyが挙げられる。envyは「羨望、嫉妬、羨み、妬み」等と翻訳することができる。それらは心理学領域では嫉妬(jealousy)と羨望(envy)という近似した、しかし異なる感情として議論されることがあるが、七つの大罪(七つの罪源)における元々の言葉はenvy(ラテン語のinvidia)一つであり、そうした議論とは無縁である点に注意が必要である。

出典

^ a b c 『カトリック教会のカテキズム 要約(コンペンディウム)』207頁 カトリック中央協議会 ISBN 978-4877501532
^ 『中世思想原典集成3 後期ギリシャ教父・ビザンティン思想』p.38
^ a b c 倦怠と悲しみ-トマス・アクィナスのacediaについて松根伸治、2018年10月10日閲覧。
^ a b 『カトリック教会のカテキズム』 #1866(日本語版556 - 557頁) カトリック中央協議会 ISBN 978-4877501013
^ Catechismus Catholicae Ecclesiae_Articulus 8: Peccatum #1866(『カトリック教会のカテキズム』ラテン語規範版) ローマ教皇庁公式サイト
^ Catechism of the Catholic Church_Article 8 SIN_V. The Proliferation of Sin #1866(『カトリック教会のカテキズム』英語版) ローマ教皇庁公式サイト
^ 傲慢はベリアルとする説がある。
^ 怠惰はアスタロスとする説がある。
^ “Recycle or go to Hell, warns Vatican”. 2014年10月30日閲覧。
^ “ガンジーの言う「七つの社会的罪(Seven Social Sins)」とは?”. 2014年2月2日閲覧。

参考文献

  • 『中世思想原典集成3 後期ギリシャ教父・ビザンティン思想』上智大学中世思想研究所、平凡社、1994年。ISBN 4-582-73413-8
  • 倦怠と悲しみ-トマス・アクィナスのacediaについて 松根伸治 『中世思想研究』第48号、2006年9月25日。

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、七つの大罪に関連するカテゴリがあります。

七つの大罪
罪悪を分類し記述した人達 絵画『七つの大罪と四終』
芸術や文化における作品
  • 叙事詩『神曲』(地獄篇煉獄篇)(ダンテ)
  • 絵画『七つの大罪と四終(英語版)』(ヒエロニムス・ボス)
  • バレエ『七つの大罪(英語版)』(クルト・ヴァイル)
  • 映画『七つの大罪(英語版)』
  • 映画『新・七つの大罪』
  • 漫画『七つの大罪』(鈴木央)
  • 人形劇『マペット・ショー』「セックス・アンド・バイオレンス(英語版)」(ジム・ヘンソン)
  • 映画『セブン』(デヴィッド・フィンチャー)
  • 現代美術『現代の七つの大罪(英語版)』(スーザン・ホワイト(英語版))
  • テレビ番組『ハウス・オブ・アヌビス(英語版)』(第3シーズン)
  • 漫画『鋼の錬金術師』(荒川弘)
  • 漫画『ジャック(英語版)』
  • アニメ『sin 七つの大罪』(ホビージャパン)
関連
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