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知らないと恥をかく、そばの「3つの食べ方」 そばをおいしく食べるプロの全スキル、教えます

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東洋経済ONLINEより
2014年10月09日
河岸 宏和 : 食品業界を知り尽くした男

 

知らないと恥をかく、そばの「3つの食べ方」
そばをおいしく食べるプロの全スキル、教えます

 



N君:さあ、お待ちかね、盛りそばが来ました!
卵焼きや焼き鳥などのつまみもおいしかったので(次ページで解説)、メインのそばも期待大ですね。
最初は一番粉を使ったそばです。

 

河岸:一番粉は、そばの実の中心の部分だね。
繊細な味わいで、そば粉の中では最高級品とされるもの。

 

N君:おいしいんだろうな~♪ 早速、いただきましょう!

 

河岸:あ~あ、その食べ方はダメだよ。
そばのおいしさを損なっている。もったいない。

 

N君:なっ! なんですか?
まだそばを1本も食べていないのに、どこが「間違った食べ方」なんですか!?

 

ここは東京・日本橋にある創業100年を超える老舗そば屋です。
新刊『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』がベストセラーになっていることもあり、続編執筆の“市場調査”のために、編集者のN君(34歳)と一緒に足を運びました。

 

そばに関しては、新刊の中で「立ち食いそばの裏側」を明らかにしました。
その一部分は、本連載「立ち食いそばの正体は『茶色いうどん』」でも紹介しましたが、興味のある方はぜひ新刊をお読みいただければと思います。

 

今回、取り上げるのは、新刊で扱わなかった「普通の町のそば屋」です。
といっても、個人店は千差万別で一概には語れないので、少し切り口を変えて「そばのおいしい食べ方」をテーマに書いてみたいと思います。

 

前回「朗報!回転寿司のプロの食べ方、10のスキル」で解説したように、同じ回転寿司でも、「食べ方」によって味は大きく変わります。
同じように、そばにも「おいしい頼み方」「おいしい食べ方」があり、若い人の中には意外に知らない人も多いものです。

 

では、知らないと恥ずかしい「そばの3つの食べ方」とは何なのか?
そばをおいしく食べる「秘訣」は何か?

 

冒頭の会話から少し時計の針を戻し、そば屋に行って「何を頼めばいいか」というところから解説していきたいと思います。

最初に「そば」を頼んで、茹で上がる待ち時間に「つまみ」を食べる

N君:普段は立ち食いそばばかりなので、こういう老舗のそば屋はどうも落ち着かないですね……。
値段も立ち食いそばより高いですし……。

 

河岸:まあ、新刊にも書いたように、立ち食いそばは「茶色いうどん」だからね。
店によっては、そば粉が1~2割しか入っていないものを「そば」といって平気で売っているのは、法律上は問題なくても、いかがなものかと思う。
もちろん小麦粉が8~9割だから、あの値段で出せるという側面もあるけどね。
それと比べたら、普通のそば屋が気の毒だよ。
同じ「そば」という名前でも、まったく違う食べ物だから。

 

N君:たしかに、「そば」なのにそば粉が1~2割しか入っていないのは、庶民感覚からすると違和感がありますよね……。
チェーン店によって、そば粉の割合は全然違うみたいですが……。
それにしても、まだ夕方の4時だというのに、この店は混んでいますね。
みなさん一杯やりながら話し込んでいます。
あの白髭のおじいちゃんなんて、こなれていてカッコいいですね。

 

河岸:「そば屋で呑む」というのは大人の愉しみのひとつだからね。
僕らも早速、注文しよう。

 

N君:(メニューをのぞき込み)え~っとですね……(顔を上げて)何を頼めばいいんですか?(笑)

 

河岸:ガクッ。なんか寿司屋と同じパターンだね(笑)。

 

N君:だって、寿司屋と同じで、何か「粋な頼み方」があるんですよね?

 

河岸:いや、基本的には、自分の好きなものを好きなように頼めばいいよ。
しょせん、そば屋はそば屋なんだからさ。
江戸時代のファストフードだよ。

 

N君:ただ、「おいしい頼み方」があるんじゃないですか?

 

河岸:「頼み方」でいうと、こういう店は自分でそばを打って、それを切って茹でて出すから、できるまでにどうしても20分ぐらいはかかる。
だから、まずはそばを頼んで、待っている間に、卵焼きや板わさ、海苔なんかの「つまみ」を頼んで軽く一杯やって待つ、それが普通の頼み方ではあるよね。

そばの「挽きたて」ってどういう意味?

N君:なるほど。
確かに周りを見ても、そういう頼み方をしている人が多いですね。
僕がいつも行く立ち食いそばは、注文して3分ぐらいで出てきますが(笑)。

 

河岸:それはあらかじめ打ってある麺を仕入れているからね。
店では茹でて出すだけだから速い。
でも、そばは本来、「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」が命なの。
時間を置けば置くほど風味が落ちてしまう。

 

N君:「挽きたて」ってよく聞きますが、具体的にはどういうことですか?

 

河岸:そばの実を挽いて、そば粉を作ること。
高級そば屋では自分のところで挽いていて、しかも「挽きたてが命」だから、いい店ほど「その日の分」しか挽かない。
だから、「そばが売り切れました」って品切れ御免にする店も多いよね。
ただ、この店は挽いたそば粉を仕入れているんじゃないかな?

 

N君:まだ頼んでもいない状態で、なぜそこまでわかるんですか?

 

河岸:う~ん、ここは盛りそばが600円でしょう。
自分のところでそばを挽いていたら、この値段じゃ出せないと思う。
まあ、これは私の推測だから、断言はできないけどね。

「リアル美味しんぼ」と評判のウンチク炸裂

N君:とりあえず、お酒とつまみが来たので、一杯いただきましょうか。
つまみは卵焼き、焼き鳥、生海苔ですね。
うん、この卵焼き、フワッフワでおいしいです! だし巻きなんですね。

 

河岸:卵6に対して、だしを4ぐらいの割合で入れているね。
これは卵が固まるギリギリの量なんだ。
これ以上入れちゃうと、もう固まらない。

 

N君:だしを4割も入れるんですか?

 

河岸:そう。卵が新鮮だからできるの。
新鮮な卵にはだしを抱える力があるから。
これが古い卵だと、だしが逃げてしまう。

 

N君:おー、出ましたね。
ネット上で「リアル美味しんぼ」と評判のウンチクが(笑)。

 

河岸:喜んでいいのかどうなんだか(苦笑)。
だしはもちろん店で鰹節からとっているから、ちゃんとおいしいよね。

 

N君:外食だと、回転寿司の卵を始め、「カチコチの卵焼き」と出会うことが多々ありますよね。
それと、今回の「フワフワの卵焼き」の違いは何なんですか?

 

河岸:それには2つの理由があるんだけど、それは長くなるから、次回「ヤバすぎる『卵焼き』の裏側」で詳しく解説することにしよう。

 

N君:了解です、ヤバすぎる裏側というのは気になりますね……。
それ以外の焼き鳥、生海苔はどうですか?

変なとこをしていないから、普通においしい

河岸:焼き鳥も生海苔も普通においしい。
なぜなら、変なことをしていないから。
焼き鳥は生の鶏肉を買ってきてここで刺して焼いている。
外食・中食に出回っている「水ぶくれ唐揚げ」のように「植物性タンパク」を混ぜてカサ増しをしたり、添加物で味や色をつけてごまかしていない。
生海苔も同じ。

 

N君:「見たらもう食べられない!? 『水ぶくれ唐揚げ』の製造過程」は、新刊でも詳しく書きましたよね。
注射器で生の肉に、いろいろ打ち込んでいるという。
唐揚げは外食の定番メニューなのに、あれ以来、食べるのが怖くなってしまいました(笑)。

 

河岸:そういう変な「ごまかし」をしていないから、この店のものは普通においしいよね。
要するに、一般的な家庭の味と同じということ。
裏を返すと今は家庭料理が作られなくなってきていて、食卓に加工品が入り込んでいるということでもあるよね。

 

N君:家庭で作れるのに「面倒だから」という理由で、冷凍食品を使うケースも多いですよね。

 

河岸:だから卵焼きも焼き鳥も、普通のおいしいレベルのものが「家では食べられない、すごくおいしいもの」に格上げされてしまっている。
回転寿司や居酒屋で「カチコチの卵焼き」をいつも食べていたら、ここのだし巻き卵を食べたら大感動するでしょう。
でも本当はこのぐらいは家庭で作れる。
悲しい現実だよね。

 

N君:確かに、この卵焼きはおいしいですね。
「そば屋の実力は『卵焼き』に出る」ともいえそうですね。

(冒頭のそばが来たシーンに戻って)

 

N君:いよいよメインのそばが来たっていうのに、なんですか、いきなり。
そばを1本も食べないうちから「食べ方が間違っている」なんて、いくらなんでもひどいですよ(涙)。

 

河岸:だって、いきなりワサビをそばつゆに溶いたでしょ。

 

N君:そうですけど、何か問題なんですか?

そばの食べ方1 ワサビはそばつゆに溶かさず、箸先につけて食べる

河岸:そばを食べるとき、いきなりワサビをそばつゆに溶かすのは、本来はNG。
それをやってしまうと、せっかくのワサビの風味が飛んで台無しになってしまう。
刺身を食べるときに、ワサビを醤油に溶かないのと同じこと。

 

N君:えっ? ありゃ~、何も考えずにいつものとおりにやっちゃいました(笑)。
「ワサビは刺身の真ん中につけて食べる」と習いましたが、そばにワサビをどうつけるんですか?

 

河岸:まずこうやって箸先にワサビをちょっとつけるでしょう。
その箸でそばをつまんで、そばつゆにつけて食べるんだ。

 

N君:えっ? ワサビは箸先につけて、その箸でそばをとって食べるんですか。
知らなかったなぁ~。
じゃあ、薬味のネギは、どうやって食べればいいんですか?

 

河岸:ネギはそばつゆに入れて食べていいんだけど、これはもう好き好き。
個人的には、最初はネギを使わずに食べて、途中でちょっと味に変化をつけたいときに入れるね。

 

N君:ネギも最初から入れず、途中に「アクセント」で入れるんですね。

 

河岸:それは好みだけどね。
「まずはつゆもつけずに、そのまま数本、食べる」→「少しつゆにつけて食べる」→「ワサビをつけて食べる」→「ネギを途中で入れて味に変化をつける」の4段階にすることが多いかな。
最初は何もつけずに、そばだけで食べたほうが、そばの味がよくわかる。

 

N君:なるほど……。
最初に薬味は全部つゆに入れてしまう人も多いので、参考になります。

 

河岸:まあ、人それぞれだけどね。
ただ、それが本来のそばのおいしさがいちばんわかる食べ方ということ。
あ~あ、そういう話をしている先から、またそんな食べ方して。おいしいそばがもったいないよ。

 

N君:えっ? また何かおかしいですか?

そばの食べ方2 つゆにそばの下部分だけつけて、すすって食べる

河岸:そばを、そばつゆにドボンと全部つけちゃダメだよ。

 

N君:えっ? そば全体をつゆにつけないんですか?

 

河岸:下のほうだけ少しつければいいの。
特に関東のつゆは味が濃いから。

 

N君:うーん……。
下のほうだけつけて、うまく口に含んで食べるのは難しいですね。
箸にとる量から考えないといけないですね。

 

河岸:完全にそばつゆに浸して食べるクセがついているんだろうね。

 

N君:食べながら練習します!
でも、さすがにおいしいですよ、このそばは。
いつも食べる立ち食いそばとは別物です。
パクパク。

 

河岸:ど、どうしてそんな食べ方するの(泣)。

 

N君:えっ、また何かおかしいですか?

 

河岸:そばは「噛んで」食べるものじゃないの。
つるつるっと「すすって」喉ごしを楽しむんだよ。

 

N君:え~、だって、すするとズルズル音がしてカッコ悪いじゃないですか。

 

河岸:そばは音を立ててすする。
それが日本文化なの。

 

N君:そばの食べ方ひとつで、ここまでダメ出しされるとは思わなかったぁ(笑)。

そばの食べ方3 そばは運ばれて来たら速攻で食べる。相手を待たない。

N君:次は更科粉のそばが来ました。

 

河岸:更科っていうのはちょっと説明が難しいんだけど、ざっくりいうと一番粉よりさらに挽き方にこだわったもの。
では、いただきます。

 

N君:あっ、ひどいな、僕の分がまだ来てないんだから、ちょっと待ってくださいよ。
マナー違反ですよ、自分だけ食べ始めるなんて。

 

河岸:何を言ってるの、そばは運ばれて来たら、速攻で食べなきゃダメ。
秒単位で風味が失われちゃうから。
全員の分がそろうのを待っていたら、おいしくなくなってしまう。
人を待たずにすぐ食べるのが、むしろマナーなんだよ。

 

N君:へー、そうなんですか。

 

河岸:だから、そばの大盛りを断るそば屋もあるよね。
「そばが伸びておいしくなくなるから」という理由で。

「プロの寿司の食べ方、10のスキル」が英語で紹介されています!

(後日談)
 

N君:そばはおいしかったですが、今回はなんだか疲れましたよ(苦笑)。
普段、立ち食いそばばかり行っているので……。
今日のそば屋と立ち食いそばの違いって、そば粉以外では何ですか?
 

河岸:立ち食いそばの大半は、つゆ、天ぷらなどの具材を全部、仕入れている。
そばを茹でて、濃縮めんつゆをお湯で薄めて、具を載せて出しているだけ。
 

N君:それに対して、今日の店はそばを自分で打つ、つゆも鰹節からだしをとって作っている、と。
 

河岸:そのとおり。
だから添加物を使う必要がない。
立ち食いそばは、そばにも、めんつゆにも「化学調味料」や「リン酸塩」「甘味料」「酸味料」など、いろいろ添加物が入る。
それから立ち食いそばのそばは、安く上げるために、そばの実の殻の部分まで砕いて入れている。
 

N君:立ち食いそばの中では、そばに黒いブツブツがある店もありますよね。
殻が入るといけないんですか?
 

河岸:殻を入れると、そばの風味は出るけど、あまりしないほうがいい。
というのも、殻の部分には菌がつきやすいんだ。
殺菌して使っているところもあるけれど、それでも殻は殻だから。
まあ考え方の違いといわれれば、それまでだけどね。
 

N君:しかしさんざん怒られながら食べても、やっぱり、そば、おいしかったですよ。
立ち食いそばとは別物ですね。
 

河岸:だからいつも言ってるじゃない。
立ち食いそばは「そば」じゃない、「茶色いうどん」だって。
 

N君:またまたそんな毒舌を……。

 

というわけで、「そばの食べ方」の基本は以上です。

ほかにも、「そば屋で食べる天ぷら」や「温かいそば」の話は、長くなるので盛り込むことができませんでした。
次回作で詳しく解説しますので、ほかにも「そば屋の疑問」があれば、ぜひネット上で声をお寄せください。

前回の「朗報!回転寿司のプロの食べ方、10のスキル」を読んだ人が、その内容を英語に翻訳してこちらにアップしています。
「英語ではこう表現するんだ」という勉強にもなるし、面白いので、興味のある方はぜひご覧いただき「SNSで海外発信」いただければ幸いです。

 

次回は、今回も少し触れた「ヤバすぎる『卵焼き』の裏側」です。

外食でよく見かける「カチコチの卵焼き」について、その裏側を紹介します。
ヒントは「日本人が大好きなマヨネーズには『黄身』しか使わない。
では余った『白身』はどこにいくのか?」ということです。

楽しみにお待ちください。

 

 

 

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