ZAC2114年、3月11日。
ユクルース共和国では、民族史上主義を掲げる極右政党、民族共和党が政権を握った。
これに対して、ガイロス系住民は反発して、ユクルース系住民との衝突が発生した。
始めは、過激なデモ隊による殴り合いも、やがては双方による銃撃戦に発展した。
この結果、表向きガイロス帝国は直轄軍を動かさず、傭兵部隊を展開させた。
さらに、複数の民兵部隊を増援に送った。
また、親ガイロス派であるドルチク地方やルスンチクの民兵隊に武器やゾイドを供給した。
この事から、ヘイダルム半島は親ガイロス派によって、完全制圧される事となる。
「ガイロス空軍だっ!」
「援軍が着たぞっ!」
そう叫ぶのは、ドルネツ地方に展開している親ガイロス系住民たちだ。
彼等は歓喜して、空軍機に手を振る。
空を飛ぶのは、機体下部を鉛色に塗装された、兵員輸送用コンテナを装着した、サイカーチスだ。
四機からなる飛行編隊は、地上に降下すると、CZK部隊を展開させる。
CZCとは、民間軍事会社チョールヌィ・ズメイ・カンパニーの事だ。
こうして、ドルネツ地方&ルガニシク地方は、ガイロス系・非正規部隊が緊急展開した。
ヘイダルム半島、海軍基地。
ヘイダルム半島上空にも、サイカーチス部隊が展開する。
機体下部に備えた、長四角のコンテナには、緑円が五個もある。
これは、防弾製の窓ガラスだ。
また、サイカーチス部隊に混ざって、中型飛行ゾイドも空を飛ぶ。
帝国軍飛行ゾイド、レドラーではない。
蛾型兵員輸送ゾイド、カトラーガだ。
ガイロス帝国軍機らしく、大きな機体は赤と鉛色、そして透明な緑と紫に塗装されている。
また、旧式機のサイカーチスと違って、機体自体が輸送ヘリとなっている。
機体側面からは、ドアガンナーが自動擲弾銃を地上に向けて、連続発射している。
爆発音が何度も鳴り響き、滑走路周辺にある塹壕線に、幾つもの土煙が舞い上がった。
それから、碧色野戦服を身に纏うCZC部隊兵が、カトラーガの後部ハッチから突撃してきた。
「行けっ! 半島を全て制圧するのだっ! ガイロス帝国万歳っ! ウラアアアアーー!」
CZC部隊の隊長は、そう叫びながら、レーダー施設を制圧に向かう。
旧ガイロス系のレーダー施設は、周囲をユークルス共和国軍兵士が防衛していた。
しかし、彼らもまた、ガイロス系住民であるため、戦闘は発生しなかった。
「ストーイッ! 一歩でも動くと撃ち殺すぞっ!」「我々は本気だっ!!」
「降伏する、同じガイロス系同士で撃ち合う事はないっ!」
「投稿するよ、撃たないでくれっ!」
ガイロス帝国軍の空挺スペツナズ隊員たちは、コンテナ後部から飛び出る。
そして、即座に多数の飛行場にある施設群を制圧していく。
青い野戦服に身を包んだ、兵士達は塹壕内に潜んでいた灰色の敵兵に銃を向ける。
しかし、灰色の迷彩服に身を包んだ兵士たちに敵意はなく、あっという間に降伏してしまう。
やはり、ヘイダルム半島は、ガイロス系住民が多いので、大規模な戦闘は発生しなかった。
また、非ガイロス系の兵士でも、迅速な敵部隊による奇襲と圧倒的な戦力を前に何もできなかった。
「急げっ! 敵より速く移動するぞっ!」
「敵影だっ! 動くなっ!」「降伏、降伏するっ!!」「俺は民間人だ、撃たないでくれ」
レーダー施設が無血降伏すると、飛行場の滑走路や格納庫に兵士たちが走っていく。
建物内部に突入した、CZC部隊員は素早く、管制塔を制圧してゆく。
室内に突入していった、彼らの前には、ユクルース軍整備兵や軍属民間人が現れた。
当然ながら、両手を上げる者たちは、手錠で拘束されてゆく。
一方、セヴァルボリス海軍基地では、元からガイロス海軍&ユクルース海軍が駐留していた。
そのため、ウオディック&ブラキオスなどの海軍ゾイドによる閉塞作戦が展開された。
この結果、ユクルース海軍は湾内から出撃・侵入する事ができなくなった。
また、空中と海上を封鎖されたため、ヘイダルム半島は孤立化してしまった。
こうして、港湾都市セヴァルボリスは陥落した。
また、ユクルース海軍の基地司令が、旧ガイロス海軍出身だったため、無血開城が行われたからだ。
こうして、ヘイダルム半島での紛争は後に、ヘイダルム危機と呼ばれるようになる。
ヘイダルム半島から少し離れた場所では、ヘルキャット部隊が、奇襲攻撃を仕掛けていた。
彼らは、普段ガイロス領内で活動する愛国ゾイダー集団だ。
その中には、セイバータイガー&ライトニングサイクスまで存在する。
対するユクルース軍は、緑色のキャノリーモルガを中心とする小型ゾイド部隊が殆どである。
また、警察組織には、コマンドウルフやセイバリオン程度しか、ゾイドがない。
キャノリーモルガは、ヘルキャットの速度に付いて行けず、次々と撃破されていく。
コマンドウルフ&セイバリオンは、ライトニングサイクスの攻撃で蹴散らされてしまう。
この苦境を前に、彼らは博物館から骨董品とも言えるゲルダーやザットンまで出して奮戦した。
しかし、それでも何とか甚大な被害を出しながらも、見事に防衛戦を構築する事ができた。
それは、ガイロス側が小規模であり、尚且つ不正規部隊しか、殆ど戦場に投入しなかったからだ。
また、世界中の軍事ブロガーや学者などは、ヘリック共和国から何らか支援があった。
それ故、ユクルース共和国軍には、PMCや特殊部隊の援護で戦線を維持できたと考えられている。
こうして、一時的にヘイダルム危機から時は立った。
だが、それから後も、ユクルース側勢力とガイロス側勢力の紛争は延々と続いた。
親ガイロス派には、ガイロス帝国から傭兵部隊や民兵部隊が参加した。
ユクルース側には、ユクルース郷土防衛隊&親ゼネバス派の極右勢力が戦列に加わった。
終わりが見えぬ戦いが続く中、世界は比較的に安定だった。
しかし、西方大陸の動乱による難民危機や各テロ組織が台頭した。
また、巨大化した犯罪組織の重武装化や、世界中で民族紛争が頻繁していた。
それに加え、流行病による混乱で、世界中が経済的な苦境による惨禍に見舞われた。
この結果、ガイロス帝国は、第二次大陸間戦争以来と言われる大規模な軍を動員した。
これは、表向き大規模な訓練を実行して、ユクルース共和国に対する示威行為を行うのではないか。
戦争や経済の専門家たちは、そう推察していた。
だが、ヘリック共和国諜報部は、輸送されていた大量の輸血パックを衛星写真で発見していた。
これにより、ユクルース共和国に警告を発したが、この情報は慢心により放置された。
それで、ガイロス帝国軍は予備役や各種・順軍事組織を含む、百万人規模の軍隊を動員した。
これが、ユクルース・ガイロス戦争と、後に呼ばれる戦いの始まりであった。
戦いは熾烈を極め、ガイロス帝国&ヘリック共和国だけではなく、世界中を巻き込んでいく。
東方大陸では、魏漢人民共和国&雷仙民主主義人民共和国が、軍事力を増大させている。
それに対抗する形で、葦島・大麗民国・魏漢民国などが、ヘリック共和国から支援を受けている。
西方大陸では、過激派やテロ組織の台頭により、紛争が激化している。
アーズ島では、ジュライル国とペリシテア国を中心とする宗教戦争が長く続いていた。
地球の歴史で言えば、後世に語られる第三次世界大戦が惑星ZIで展開されようとしていた。
そんな中、タナカ・ススムは、呑気に葦島から興味本意で、ユクルース共和国に向かっていた。
これから、各勢力が私欲丸出しで、虐殺と悲劇を繰り返す地に向かうとも知らずにだ。